【12月号⑩】「玉ネギ植え付け選手権!」 るりこ

 鉛筆のように太く、そして強さを感じさせるくらいに、空に向かって真っ直ぐに立つ青い葉。

「こんなに状態の良い苗は初めてかもしれない!」

 お父さんからも太鼓判をもらった、最高の出来。一体それは何かというと……? タマネギの苗! 

 山畑の一部を苗床として管理してきたタマネギの苗。担当のあやかちゃんとさくらちゃんを中心とする、べと病対策の定期的な納豆水入りの水やりやこまめな草取りなど、行き届いた手入れの成果で、これまでになく美しい、適当なサイズの苗に仕上がりました。
    

玉ねぎに合う、かまぼこ型の畝を作りました

  
 さらにこの苗を植え付けるための畝も、どこにもくぼみやへこみのない、きれいなかまぼこ型の畝を整形し、雑草防止用の黒マルチもシワなくピンと張ることができました。
  
 「今回のタマネギは大きな期待が感じられますね」

 植え付け前夜の集合で、お父さんが嬉しそうに言いました。

 砂地を好むタマネギはなのはなの粘土質の畑には合わず、例年、失敗傾向です。苗作りもなかなか上手くいったことがないです。だから今回の出来に、みんなの注目が集まりました。

 種まき後から、しばらく山畑を訪れていなかったわたし。畑には一体どんな景色が広がっているのだろうと想像すると、わくわくする気持ちで植え付け当日の朝を迎えました。

 サツマイモ掘り以来の畑のプチイベント。ビッグイベントとまではいかないけれど、大人数で進める作業として、この時期になると、楽しみにしているイベントの1つでもあります。

 リーダーのやよいちゃんから、

「みんなでスピードを意識してやらないと終わらないかもしれない」

 と聞いたときから、(よし、やりきるぞ!)と余計に気合いが入りました。

■噂に聞いていたように

 朝食を食べ終えて、当番を終えると、走って山畑へ向かいました。山畑の入り口の少し急な斜面を上がりきると……、そこには黒マルチがピンと張られた何本もの畝が真っ直ぐに伸びていました。
  
  

 そして噂に聞いていた苗。すでに掘り上げられたものもあり、トレーに同じ向きで何本にも揃えられた苗が整然と並び、わたしたちを待っていました! といわんばかりの存在感がありました。

 その苗が目に入った瞬間、思わず、「うわっ! きれい!」と言葉が漏れて、その場にいた子と顔を見合わせてしまうほどでした。

 早速、植え付け開始です! まず初めにやよいちゃんが植え付け方を説明してくれて、それから1人1トレーを片手に持ち、畝間に並んで入りました。実際に苗を手にしてみると、根がびっしりと伸びていて、小さいけれど苗の強い生命力を感じました。

 黒マルチの穴の中心に穴を開けて、そこに苗を押し込むように入れ、軽く土を寄せます。ポイントはなるべく根が見えないように、しっかりと植え付けること。でも深植えにはしてはいけません。

 根が長い分、このポイントをつかむまでに少し時間がかかりましたが、次第に要領が掴めてきました。人によっては、穴を開けるのに棒を使い、その棒を引き抜くと同時に苗を差し込む、というやり方で進めている人もいました。
  

 全体が勢いづいてきた頃、やよいちゃんが、

「それでは、今からタマネギ植え付け選手権を行ないます!」

 と声を掛けてくれました。それを聞いたとき、(きたー!)と思いました。タマネギの植え付けをするときには定番となっている、植え付け選手権。

 以前、お父さんが企画してくれて、初めて選手権を開いてくれたときのことをよく覚えていて、みんなで数を競いながらも楽しく作業を進めることができた楽しい思い出です。

 選手権をすることで作業がマンネリ化しないのと、みんなの勝負心に火が付いて、結果的に何万本もの数があった苗を半日で植え付けることができたのです。

 それから植え付け選手権がいろいろな作業で取り入れられることが増えましたが、タマネギはその中でも定番中の定番と言えるくらいに、植え付け選手権をするのが作業の楽しみになっていました。

 今回の制限時間は1分間。やっていると、とてもとても短いです。その短さでいかに多くの数の苗を植え付けることができるのか。何だか必要以上に緊張して、速く打つ鼓動を押さえながら、やよいちゃんの合図を構えて待ちました。

「それでは、よーいスタート!」

 やよいちゃんのスタート合図で、一瞬にしてスイッチがオンになりました。トレーから苗を取り上げる時間さえも惜しく感じてしまうくらいに、1秒が惜しい。でも時間と数ばかり気にしすぎて、雑になってしまったら元も子もない。質は保ちつつ、手際の良さを意識しながら、1本1本を確実に植え付けていくことを心がけました。
  
  
「ピー! 終了でーす!」

 こんなに早いと感じた1分はあっただろうか、初回は自分の予想以上にもたついてしまい、数が振るわなかったと感じました。

■結果は……

「では、数を聞いていきます! 5本以上だった人!」

 やよいちゃんが尋ねた数に、何人かの子がぱらぱらと手を挙げます。

「じゃあ、6本以上だった人!」

 1本数が増えただけでも、一度に手を挙げていた子の数がグンと減り、第1回目のタマネギ植え付け選手権で見事トップに輝いたのは、7本を植え付けた、ななほちゃんでした。第1回目のわたしの数は5本。次こそはと気持ちを切り替えて、またしばらく第2回目の選手権の声がかかるまで、黙々と作業を進めました。

 どうしたらもっと速くなるだろうかと、試行錯誤してみました。自分がどこで時間がかかってしまっているのかを考えたら、やはり長い根の始末に苦戦していることが見えてきました。

 そこで苗を持つ時点で、根を軽く束ねるようにして持ち、穴の中に押し込んだと同時に根を広げるようにパッと離すと、穴の四方から根が飛び出ることなく、きれいに植え付けられることがわかりました。(これだ!)。その方法で挑戦していくと、自分でも1本1本のスピードが上がっていくのを感じました。

 言われたことをただそのままやるよりも、頭を使って、どうしたらもっとより良い作業に変えていけるだろうかと進化させていくからこそ、目の前の作業にやりがいや楽しさを見出せるのだと思いました。

 気持ちや動きも勢いづいてきて、楽しさがさらに増してきた頃、そろそろかと声が掛かるのを待っていた、第2回目の植え付け選手権が開催されました。自分自身のなかで、(今度こそは)とやる気も高まっていました。

「それでは、1分計ります! よーい、スタート!」

 今度は目の前にチャンピオンのななほちゃんがいました。ななほちゃんは竹の棒を器用に使い、無駄な動きなく、ものすごい勢いで植え付けていっていました。

 そんなななほちゃんに圧倒されつつも、その勢いに加勢するようにわたしも必死で追いかけました。誰が1番かという勝負ではあるけれど、そこに拘らずに、お互いを引っ張り合っていける空気感やそういう仲間でいられることが嬉しく思いました。

「ピー! 終了です!」

 今回は結構良い線をいけたんじゃないかと思いました。

「では、5本以上だった人!」

 先ほどと同じ数からスタートしたやよいちゃんの質問に、1回目よりも多くの人が手を挙げていました。みんなも各々、自分がやりやすい方法を見つけ出していたようで、全体のスピードも確実に上がっているのだということがわかりました。

「じゃあ、7本以上だった人!」

 7本目辺りまでいくと、手を挙げていた子の人数は減りました。挙げていたのは、ななほちゃんとりなちゃんとわたし。

 やよいちゃんが1人ひとりに数を尋ねていくと、りなちゃんとわたしが9本、ななほちゃんが10本でした。ななほちゃんはまたまた新記録を更新!(んー! 壁は高い!)と若干の悔しさを感じつつも、余計にやる気が高まっていくのは、わたしたちの負けず嫌い精神でしょうか。

 黒マルチの穴の数は横一列だけでも5条あり、さらにその畝が数十メートルに続くので、改めて植え付ける数は多く感じました。けれど、植え付け選手権を間に挟みながらだと気分転換にもなり、初めに予想していた時刻よりも遙かに速いスピードで作業が進んで行っていました。

■植え付けの技を磨いて
  
  
 その後もやよいちゃんが植え付け選手権を開いてくれて、そのたびにみんなの記録もどんどんと更新されていきました。全4回行なわれたうち、見事チャンピオンに輝いたのはやはりななほちゃんで、最高記録が14本でした。

 わたしも12本まで記録を伸ばすことはできましたが、それでもななほちゃんの14本という記録は群を抜いてダントツで、第1回目から倍の数を植え付けられるまでに進化させていったななほちゃんがすごいなと思いました。

 植え付け後は、特製の納豆水入りの水やりをしました。この納豆水はベト病対策として、担当者のさくらちゃんが作ってくれたものです。苗が幼いうちからも定期的に納豆水を与えており、これが丈夫な苗ができる、大きな要因にもなったと思います。

 黒マルチの小さい穴の中に、ジョーロの水がこぼれないように丁寧に納豆水をやっていきました。さらにその上から寒さ対策としてモミ殻をまきました。片手で一掴みしたら、リズムをつけて、ぽんぽんとモミ殻を覆土していきます。

 全体にモミ殻がまかれた光景は、一面黒く覆われた畝の上にいくつもの小さな丸がくっきりと浮かび上がっているように見えて、そのコントラストの美しさに思わず写真が撮りたくなるような景色だと思いました。

 水やりとモミ殻まきのラストスパートはものすごい勢いで、みんなで声を掛け合って、終わっていないところを助け合いながら進めていきました。

 そして向かいから迫ってきた子と行き着いたとき、「終わったーーー!!!」とやよいちゃんの大きな声が畑に響きました。午前の半日では終わらないかもしれないと予想していた、約8000株のタマネギの植え付け。その心配を打ち破り、全員の強いやる気とスピード力で30分もの余裕を持って、作業を終わらせることができました。

 畝に沿って真っ直ぐに連なる、タマネギの青い葉は改めて太く、強いエネルギーに満ちあふれているように写りました。

 例年、苗作りから失敗がちなタマネギ。収穫もあまり上手くいきません。それが今回、苗作りから畝立て、植え付けまで好調に進んでいます。

「こんなに良い苗は初めてだ。今季のタマネギは上手くいくかもしれない!」

 わたしたちの大きな期待を背負ったタマネギたち。「なのはな至上一!」となるのか、さてその結果は……来春までのお楽しみです。