黄金色の輝きを放って、そびえ立つ山。その山は指先で軽く触れるだけで、さらさらと音を立てて、なだれ落ちていきます。わたしたちが求めていた、宝の山。そう、それはピラミッド。田んぼ景色の真ん中に存在感を放つ、ピラミッド。
ピラミッド、ピラミッド、ピラミッド……? 田んぼの真ん中に? 本当に?
——「いざ、出発!」
ある週末、2台のトラックで走り出した、わたしたち。目的はというと……お宝集め!
建部町に隠された、秘宝。それを分けていただけることになり、片道45分の道のりを大きな期待を抱いて向かいました。小さな橋を越えると、広がる景色は山、木々、畑、田んぼ。事前に調べた住所は、この辺り。そろそろ着いてもいい頃だけれど……ここはどこ…? …しまった、道に迷ってしまった……。
もう少しで目的地! という辺りで、わたしたちは道に迷ってしまいました。この先どっちに進めばいいのだろうか……。途方に暮れているわたしたち。戻ろうか、どうしようかと迷っていると、白い車がわたしたちの横をすーっと通り過ぎました。その車はスピードを少し緩めたと思ったら、開け放たれた窓から1人の男性が顔をのぞかせました。
(どうぞ、わたしに着いてきてください)。
わたしたちの耳に、そう届いたように聞こえてきました。
慌てて追いかける、わたしたちのトラック。白い車はどんどんと前を行きます。坂を上り、T字路を曲がり、十字路を曲がり……。細い小道を器用に進む白い車。
それを見逃すまいとわたしたちは必死で追いかけます。それまで真っ暗闇だったトンネルから抜け出たように、前方の視界はどんどんと開けていきます。まるで白い車が走ったあとになかったはずの道が生まれ、どこまでも続いていくような錯覚でした。
田んぼの中に民家が増えてきた辺りで、車は茶色い小屋の前で停まりました。
(あれ? 本当にこんな場所に秘宝が眠っているのだろうか……?)
小さな疑問を抑えつつ、続くように砂利道を曲がり進むと、そこには思いもしない景色がわたしたちを待っていました。
広がる田んぼの真ん中に、異彩を放って堂々とそびえ立つ、黄金色の山! 4、5メートルはあるでしょうか。背景の太陽をも隠すように、「どうだ!」と言わんばかりの存在感! あまりの迫力と高さに圧倒されて、感嘆の声が漏れているわたしたちの横に、白い車から先ほどの男性が降りて、わたしたちを迎えてくださいました。
「こんにちは」。笑顔の柔らかい、優しそうな方でした。それが持ち主の方との出会いでした。
■黄金を積み込む
早速、お宝を分けていただくことになりました。トラックの荷台を山ギリギリに寄せると、あゆちゃんとまえちゃんとスコップを片手に、山を登り始めました。
長靴を一歩、山にかけた瞬間、その周りがさらさらと崩れ落ち、見る見るうちに片足が飲まれていきました。たったの数歩で長靴の中はお宝だらけに。掴むように慌てて出した両手も同じように、山の中に吸い込まれていくようにズボッと埋まり、足先、指先がチクチクとしました。
高い高い山を崩すようにスコップでかくと、頂上からザーッとなだれ落ちてきました。まるで目の前に滝が流れているような勢い。海に行ったときの砂のお城が崩れていく光景を思い浮かべました。
なだれ落ちる勢いを利用して、ダンプの荷台にお宝を流し込んでいきました。まえちゃんとわたしがひたすらスコップでかき、あゆちゃんが鋤簾を使って、荷台の奥に積めていきます。
かいて、寄せて、かいて、寄せて……の3人のリズムが合ってくると、軽い一かきだけでも一度にたくさんの量を積むことができて、汗が流れるくらい身体が熱くなりました。全身、お宝にまみれながら、無我夢中でダンプに積めていきました。それでも山は初めの大きさと全く変わらず、高いままにわたしたちを見下ろしていました。
作業中は持ち主の男性の方が一緒にいてくださり、「元気だな〜」「たくさん持って行っていいですよ」と気さくに声をかけてくださり、とても親切にしてくださいました。
積み込む時間はあっという間で、エルフ1杯と軽トラ1杯分を山盛りにしました。荷台のあおりの高さいっぱいに積まれたお宝をみて、満たされる思いがしました。
それでも、その日わたしたちが持ち帰ったお宝の量は高くそびえ立つ山の10分の1にも満たないくらいのわずかの量で、まだまだたくさんのお宝が残っていました。それを見た持ち主の方が、「いつでもまた取りに来てください」と言ってくださいました。
■非日常の空間をあとにして
帰り際、持ち主の方が笑顔で見送ってくださいました。トラック2台分のお宝を積んで、荷台も心も充実。お礼を述べ、車を走らせ始めました。
サイドミラー越しに見えていた、茶色い小屋が見えなくなり、国道に出た頃、さっきまでの出来事がタイムスリップしたように一瞬だったように思えました。
あの黄金色の宝の山も、親切にしてくださった持ち主の方との出会いも現実だったのだろうか…? 見慣れた田んぼ景色の中に突如として現れた、非日常の空間。鮮明に思い返そうとすればするほど、夢の出来事だったように思えてくるのが不思議でした。
でも古吉野に戻り、玄関で長靴を脱ぐと、たくさんのお宝が出てきました。小さい頃に読んだおとぎ話のように、(あぁ、やっぱり夢じゃなかったんだ)と思ったら、わたしたちのお宝探しの冒険旅行は大成功! 開いていた本がパタリと閉じたような気がしました。お終い。お終い。
ではなかった! お宝集めの物語は、またエンディングではありません。まだまだ長ーい冒険の続きがあったのです!
後日、永禮さんが3日連続でダンプを出してくださり、引き続き、お宝をいただきに行きました。あの山を全部持ち帰ってもいいよということで、永禮さんのダンプとエルフの2台を出して、1日2往復をしても、まだまだ半分以上残っているよ! と嬉しい悲鳴。
古吉野に持ち帰ったお宝は、永禮さんがそのまま畑に積み下ろしてくださいました。ブロッコリー畑一面にまかれたお宝。上から見下ろす景色は、黄金色の山から、黄金色の海へ!
お宝が畑の土が混ざることで水はけがよくなり、ふかふかの土壌に変わります。さらに株元にもたっぷりと敷いたことで、ブロッコリーの防寒にもなり、一石二鳥!
農業をするわたしたちには嬉しい嬉しいお宝集めは、もうしばらく続きそうです。
■ピラミッドの正体は
さぁ、この辺でお宝の正体がわかった方も多いのでは……?
黄金色のさらさらとした山。畑の土壌改良には大活躍の農業資材。触るとチクチクする感触。
そう、答えは……籾殻! 『お宝』を『籾殻』に変換して、初めからもう一度読み直してもらえると嬉しいです。籾殻集めの冒険旅行が、再び幕を開けます!
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畑の水はけをよくするために、崖崩れハウス前下畑や、滝川横畑、いいとこ下畑などに籾殻を撒く作業が進んでいます。
これからどのように土が変化していくのか、とても楽しみです。