【12月号②】「大好評の新競技  その名は『ボッチャリング』!」 あやか

 赤と白のボールが、コートの上を滑るように転がり、ピタリと止まる。ボール同士がぶつかりあい、「コン!」とはじき飛ばされる音。

 ボールの行方を追いかける、プレーヤーの視線。狙ったところに吸い寄せられるように転がるボール。見事、狙い通りの位置に止まると歓声が上がり、狙いがそれると悔しがり、一喜一憂。みんな、真剣勝負です。
     
 今日は、なのはな秋の大運動会。この日のために、みんなで綺麗に整備したグラウンドには、白線が引かれ、運動会の看板が掲げられています。ボールに、平均台、様々な競技用の道具がグラウンドの隅に並びます。

 みんな表情は、溌剌として晴れやか。運動会への期待の高まりに味方をしてくれたように、お天気も上々。今日は、めいっぱい身体を動かし、ときには頭や神経も使い、やる気に燃えて運動会を楽しみます。 

 この、なのはな秋の大運動会。こんなにも楽しいのには、理由があります。今まで経験してきた運動会とはひと味違う、ワクワクするような企画が含まれているのです。その理由とは、運動会競技を自分達で企画したことです。
  
  
 なのはな秋の大運動会の準備が動き出したのは、運動会当日から約1週間前のことでした。今回の運動会では、自分達で自由に運動会競技をつくれる。そのことを知ったときから、(なんて面白そうなのだろう)とワクワクしていました。

 運動会準備、初日。みんなでリビングに集合し、あゆちゃんからチーム分けが発表されました。チームメイトと初顔合わせです。私は、みかちゃんと一緒に青チームのリーダーを務めます。 

 競技の考案は、チームごとに行ないます。チームは、全部で6チーム。赤、青、白、ピンク、緑、黄色。それぞれのチームが、(これだ!)と思う運動会競技をひとつずつ企画し、実行委員を務めます。運動会本番では、自分達が実行委員をする競技意外に参加し、獲得点数を競います。
      

運動会に向けて、グラウンドを整備しました

  
    
 それぞれのチームには、企画する競技にテーマが与えられます。私達、青チームに与えられたテーマは、『技術系』の競技。例えば、ゲートボールや輪投げなど、プレーヤーの技術を競う競技です。

 みんなで円になり、早速、話し合いです。

(どんな競技が良いだろうか……)

「かかしのケンパ!」

 見ていてもやっていても楽しい、昔懐かしい遊びの名前が挙がりました。

「グルグルジャンケンは、『技術系』じゃなくて『陣取り系』に入るかな……」

 様々な意見が出ます。インターネットで調べると、さらに面白そうな競技が見つかりました。

「ボール運び……」

 3人1組で、2個のボールをお腹と背中に挟み、落とさないように運ぶ競技です。

「新聞紙リレー……」

 新聞紙をお腹に貼り付けた状態で、新聞紙が落ちないように走り、リレーを行なうというものです。これは見た目にも、なかなかユニーク。

 様々な選択肢が、目の前に並びます。こうなると、全部が魅力的に見えてくる。けれど、どれも、どこか決め手に欠けるようにも思え、悩ましい……。

  

 ■オリジナルの競技に

 アイディアが一通り出きったところで、案を絞り込んでいきます。方法は、多数決。おのおの、(これが良い!)と思った競技に挙手をします。何度か多数決を重ね、案を絞り込み……すると、ひとつの競技が浮かび上がってきました。パラリンピック競技にもなっている『ボッチャ』です。
    
 2チーム対抗でボールを交互に投げていき、全てのボールを投げ終わった時点で、〝ジャックボール〟という鍵となるボールに、より近い位置にボールを配置できていた方の勝ち、というゲームです。

 この『ボッチャ』にカーリングの要素も取り入れ、なのはなの運動会でプレーしたときに、より楽しめるような、オリジナルの競技を考え出そう、という方向に意見が纏まりました。

 最初に、私達の考えた競技のルールは、こうでした。まず、グラウンドに三重の円を描き、これを的とします。内側の円から順に30点、20点、10点の配点を付けます。2チーム対抗で、交互にボールを投げていき、全球投げ終わった時点で、的の配点にそって点数を付けます。
  
 それに加えて、〝ジャックボール〟という、鍵になるボールをコートに配置し、ジャックボールに接しているボールがあった場合、そのボールに100点が入る、というルールです
  

 敵の弾をはじいて的の外に出すこともできるし、味方のボールをはじいて的の中心に寄せることもできる。ジャックボールをはじいて、ジャックボールの位置を動かすこともできる。様々な角度から戦略が生まれることを狙っての、複合的なルールです。

 競技の構想は、纏まりました。さあ、自分達の考えた競技の構想をもって、みんなで校長室へ。お父さんに、アドバイスを仰ぎます。

 私達の競技の説明をきいたお父さんは、その競技がプレーされる様子を、じっくりとイメージしてくれました。

「この場合、ジャックボールは、的の後ろのほうにはじかれてしまって、意味が無くなるのではないかな。ジャックボールは使わずに、もっと、シンプルなルールにしてしまったほうが良いと思う」

 相談の結果、コートにジャックボールを配置することと、的に配点を付けることはやめにして、的の中心により近いところにボールを配置できたチームの勝ち、という『カーリング』に近いルールにすることに纏まりました。
  
  
 ルールがスッキリと整理され、理解しやすくなった。そのように感じました。(これならば、形にしていけそうだ)これからつくっていく競技が、クッキリとした輪郭を伴い、私達の前に姿を現しました。

 競技の形が固まり、早速、準備開始です。2人ずつに分かれ、役割分担をします。

 私は、みかちゃんと一緒に進行台本をつくります。みんなにストレートにルールを理解して貰えるような、分かりやすいルール説明の台詞。みんなの前で行なうデモンストレーションの流れ。コートに分かれてからの進行。

「ルール説明のときに、解説用の図があったら良いよね」

「どこのチームか分かりやすいように、チーム名を書いたプラカードをつくって首から提げて貰おう」

 同時に、制作したいものも洗い出していきます。

 つきちゃんとまおちゃんは、対戦の組み合わせを考え、対戦表をつくります。1チームの人数は、8から9人。ちょっと人数が多すぎるので、この競技ではチームを2つに分け、人数が4から5人になるように調整してもらいます。すると、チームの数は全部で10チームになります。

 用意するコートは全部で5コート。試合数が、全チーム2試合ずつになるように。なおかつ、対戦で当たる相手が公平になるように、工夫して対戦を組みます。頭を使うところですが、まおちゃんが樹形図を書いて組み合わせを考えてくれました。対戦表は、グラウンドに貼りだしたときに見やすいよう、大きいものをつくります。
   

一ミリの差で勝敗が決まるため、メジャーを使って、中心点からの正確な距離を出しました

    
 よしみちゃんとさくらちゃんは、実際にこの競技で遊んでみます。グラウンドにコートを描いて、テストプレイをしながら、ちょうど良い的の大きさ、的から投球位置までの程よい距離を探っていきます。

 2人は、準備をしながら既に、この競技を楽しんでいる様子。

(まずは、自分達が競技の魅力を分かっておかないとね)

 そんな気持ちでしょうか。

 その日の準備時間の終わりには、それぞれ、成果を持ち寄って報告しあいます。対戦表は半ばまで完成。コートの大きさも決まり、進行台本も形になりました。短い時間で、ずいぶん捗った!

■重要なコート作り

 運動会までは、殆ど毎日、運動会準備の時間が取られ、その時間に準備を進めていくことができます。迎えた次の準備時間。やるべきことは、道具の用意です。

 まず、この競技になくてはならないもの、それはボールです。ボールは、ゲートボールの球を使うことにしました。体育館横のロッカーからゲートボールの球を出してきて、綺麗にふいていきます。数を数えたところ、全部で60球ありました。

(60球を5コートで割ると、1コートにつき12球。ということは、1チームに6球ずつ……ちょうど良い数かも!)

 続いて、コートの番号札をつくります。ゲートボールの球の近くに、ちょうど良い大きさのコーンが置かれているのを発見しました。そのコーンに、1番から5番の番号札を取り付けていきます。これが、コートの番号の目印になります。
        
 その間、室内では、プラカードと対戦表づくりが進行しています。テンポ良く準備が進んでいます。順調、順調。今日も、なかなか捗りました。

 準備は、まだまだ続きます。運動会に向けての大人数でのグラウンド整備が完了したところで、やっておきたいのがコートの場所決めです。コートをつくる位置を決め、目印の釘を打ち込んでおきます。

 コートをつくる場所は、徹底的に整地をします。ちょっとした地面の凹凸が、転がるボールの軌道を変えてしまう恐れのあるこの競技。コートのコンディションが命です。細かい雑草を取り、小石を取り除いていきます。手の空いた他のチームの人も、手伝ってくれました。

 そして、運動会当日のコート描きの予行演習。競技が始まる直前に、グラウンドにコートを描き、ボールを配り、対戦表を貼り出す。これを素早く行なう練習です。

 前の競技からの流れを考えると、少なくともタイムを五分以内にはおさめたい。チーム内で役割を分担をし、自分の担当の箇所について、シミュレーションを行ないます。

 競技のはじめに行なうルール説明の練習は、チームメンバーが全員集まりやすい夜の時間に行ないました。競技のルールや試合の流れを分かりやすく伝え、プレーヤーにスムーズに理解して貰うこと。競技を楽しんで貰う大きなポイントです。

 言葉での説明だけでなく、動作や、実際にプレーしてみせる様子、的の図を見せながらの解説も取り入れ、ルール説明を行ないます。
  
  
 よし、これで準備は万端。あれ、でもこの競技、競技名は何にしよう。なのはなカーリング? いやいや、もっと気の利いた名前を付けたいな……。

「まおちゃんが、『ボッチャリング』はどう? だって」

 ボッチャとカーリングを組み合わせた競技だから、『ボッチャリング』。面白おかしく、可愛らしい響きです。「それでいこう!」競技名も、決まりました。あとは、本番に臨むのみ。

 こうして迎えた、運動会本番。運動会の準備期間中は、台所作業をしていたまりこちゃん、スクーリングだったりんねちゃんも合流し、青チーム8人が全員が揃いました。

 まずは、開会式。開会宣言、来賓挨拶、選手宣誓、準備体操。

(他のチームは、どんな競技を企画しているのだろう……)

(よーし、実行委員頑張るぞ)

 これからはじまる運動会への、期待と緊張が高まります。

■一気に運動会モードに
    
 運動会ひとつめの競技は、障害物競走です。気持ちをつくって、よーい、スタート。ネットをくぐり、段ボールの中に入って人間キャタピラになり、チームメイトがトトロの着ぐるみを着て走る姿に、応援しつつも思わず笑顔。

 障害物をかいくぐりながらグラウンドを走ったり、チームメイトの応援に熱中していると、心も身体もほぐれ、一気に気持ちが運動会モードになりました。
  

障害物リレー「OOに変身!」では、トトロや焼き芋、スフィンクスの衣装を身にまとって、平均台を走りました!

   
 気持ちに助走が付いたところで、次の競技。いざ、『ボッチャリング』の始まりです。
(さあ、準備だ!)一斉に走り出す青チーム。私は練習通り、りんねちゃんとペアでコートに的を描きます。ひとつめの競技の興奮が冷めないうちに、次の競技に移りたい。時間との勝負です。練習の甲斐あって、準備は実にスムーズに運びます。

 コートの準備が整いました。実行委員の青チーム一同が、みんなの前に整列します。

「続いての競技は、『ボッチャリング』!」

 競技開始の掛け声を掛けると、みんなから拍手が返ってきました。みかちゃんと交互に台詞を読み、競技の紹介とルール説明を行ないます。デモンストレーションもバッチリです。(みんな、頷きながらきいてくれている)ルールもしっかり理解して貰えた模様です。
  
  
 そしていよいよ、競技スタート。対戦表を見たみんなが、それぞれ試合のあるコートに集まってきます。私は2番コートについて、試合の進行をします。

「各チーム、メンバーは揃いましたでしょうか。先攻、後攻を決めるジャンケンをお願いします」

 進行台本を片手に、アナウンスを行ないます。

「では、先攻のチームから1投目を投げて下さい」

 緊張する間もなく、試合開始です。注目の第一投。ちょっと力が入りすぎたか、ボールは的の上を通過してしまいました。なかなか難しい。けれど回数を重ねるにつれ、みんなコツを掴んでいくよう。的の中にボールが留まる率が、どんどん高くなっていきます。

「おお、いいところに寄せてきました!」

 いきなり、的の中心近くにボールを寄せてくる人。見事、狙ったボールをはじき飛ばす人。好プレーが出てきます。

 しかし。「ああっ!」ときには狙いがそれて、味方のボールを的の外にはじき飛ばしてしまうことも。そういう悔しいハプニングがあるのも、この競技の面白いところかも知れません。一投ごとに、移り変わるボールの陣形。そのたびに一喜一憂しながら、作戦を練り直し、試合は展開していきます。

 各チームが6球ずつを投げ終わったところで、判定です。ボールが、より的の中心に近いところにあるチームの勝ち。

(うーん、どっちが近いか……)

 赤と白、どちらのボールが的の中心に近いか分かりにくいときは、メジャーを使い、正確に距離を測って判定します。

 腰袋からメジャーを取り出したけれど……。

(距離が長くて、ひとりでは測れない!)

 慌てて、お隣の1番コートに走ります。

「つきちゃん、まおちゃんの手、空いてる? 助けてー!」

 1番コートから、助っ人登場。2人でメジャーの端と端を押さえ、ミリ単位で距離を測定します。たった一ミリの差で、勝敗が分かれることもあるのがこの競技。ここは正確に、公正に測りたい。

 プレーヤーのみんなは、的のまわりに集まり、判定を見守ります。メジャーの数値とボールに注がれる視線。ここが、いちばん気持ちの盛り上がるところです。測定結果が読み上げられ、勝負が決すると、プレーヤーから喜びの歓声や、悔しさの溜息と共に、次の試合に向けて奮起する声あがります。
  

  
■予定外の事態でも

 試合は、2試合目に突入。1試合目で感触を掴んだか、みんな確実に投球が上達しているように思われます。対戦相手と交互にボールを投げていく、という試合の流れにも、慣れが出てきた様子。初めての競技への戸惑いが消え、みんな、迷いなくボールを手に取り、テンポ良く投げていきます。

(私のほうも、実行委員がちょっと様になってきたかも……?)

 進行にも、少し慣れが出てきました。気持ちに余裕が出てくると、気になってくるのがプレーヤーの様子。

(みんな、楽しんでくれているかな)

 背を高くして、グラウンド全体を見渡してみます。3番コート、4番コート、5番コート……どこのコートからも、プレーヤー達の賑やかな活気が感じられます。ボールを投げる瞬間の、静かな集中。転がるボールの行方を追い掛けるときの、興奮。狙い通りの陣形に持って行けたときの喜び、歓声。そういうものが、空気を伝わって、こちら側へ届いてきます。

(みんな本気で、楽しんでプレーしてくれている)

 それは、自分達にとって何よりの成果です。心が沸き立つような喜びが、お腹の底からわき上がってきました。

(あれ?)ここで、ちょっと予定外の事態が。対戦表のほうを見ると、3試合目の組み合わせが貼り出されています。予定では2試合でしたが、みんなが予想以上に熱中してプレーしてくれているので、2試合では物足りない。そこで急遽、3試合目を行なうことになったようです。

 そんなときも、大丈夫。つきちゃんとまおちゃんが、事前に3試合目の対戦組み合わせも考え、すぐに貼り出せるように準備をしてくれています。よーし、みんなの期待にお応えして、3試合目に突入……!

 そんなこんなで、『ボッチャリング』は、予定の時間を少しオーバーし、50分間、3試合の大ボリュームになりました。たっぷり楽しんで満足したところで、運命の結果発表です。プレーヤー達が、対戦表の前に集合。まずは、第5位から。次は、4位。3位……。そして、

「栄えある第1位は……20点獲得ピンクチーム!」

 とても強かったのが、ピンクチーム。1試合で7点も獲得していた回もありました。

 競技を終えてみて。

(みんな、『ボッチャリング』をのことを気に入ってくれたみたいだ)

 そんな手応えを、実行委員みんなが感じたのではないかと思います。

(準備から運動会本番まで、本当に楽しかった)そんな思いが、胸にじわりとわき上がってきました。 
  
  
 みかちゃんと一緒にチームリーダーをやらせて貰い、みかちゃんのプランの立て方、メンバーの纏め方、気の配り方、側で見させて貰えて、とても学ぶところが多かったです。

 チームのなかでも、頭を使うのが得意な人。身体を動かすのが得意な人。チームメンバーみんなが、バランス良く力を出し合って、競技をストレートに形にしていけた。そんな感想を抱きました。青チームのみんなと、運動会に迎えたことが嬉しかったです。

 さてさて、実行委員が終わったからといって、ここでひと息つくのは、まだ早い。今度は、再び気持ちを切り替えて、プレーヤーに戻って、残りの競技を戦わなくちゃ。(青チーム、勝つぞ!)そんな気合いを胸に、運動会は、3つめの競技へと突入していくのでした。