【11月号⑥】「第一鉄塔畑で育てる、冬の葉物野菜の物語 ―― 種まきの失敗から学んだこと ――」るりこ

 

 三冊の薄紫色の紙ファイル。中を開くと、月ごとのカレンダーが挟まれて、毎日の手入れのこと、野菜の様子、天気予報が綴られています。毎晩、この三冊のファイルを開き、日々の記録を欠かさずに記入することが、今のわたしの日課です。  

 一冊はホウレンソウ。二冊目はコマツナ、三冊目はミズナ。大切なファイルです。  今季、ななほちゃんと共に、第一鉄塔畑一面で育てる、葉物野菜を担当することになりました。今から書くのは、まだまだ始まったばかりの葉物野菜物語の第一巻です。  

 この冬は、第一鉄塔畑一面が葉物野菜で埋まります。畝数は全四十四畝。二十五畝がホウレンソウ、十畝がコマツナ、九畝が水菜です。それぞれの野菜ごとに種まき時期を一から二週間ほどずらしていて、段階を分けて植え付けています。  

 現在はホウレンソウが第五弾まで、コマツナが第三弾、水菜が第二弾まで植わりました。真っ新だった畑に色を塗っていくように、少しずつ畑の景色が移り変わっています。  

 その中の一つ、ホウレンソウは冬の主力野菜として特に力を入れています。前年度より株数を増やし、約一万二千株を全六弾に分けて育てます。  
  
  
 しかしこのホウレンソウ、現在の状況に行き着くまで、様々なことがありました。  大きな失敗は種まきでした。第一弾は先月の中旬に種をまきましたが、三日経っても、五日経っても、芽が出てこない。しばらくして点々と芽吹くものが出てきましたが、それは四畝を合わせても、蒔いた数の三十パーセントにも満たない発芽率でした。  

 何が原因なのか? リーダーのやよいちゃんを中心に原因を突き詰めました。自分たちの心持ちが正しくなかったんじゃないかと、自信を無くしかけそうにもなりました。お父さんにも相談した末、行き着いた答えは土質と水やりの量でした。

 第一鉄塔畑は土が粘土質で固く、すぐにゴロゴロとした状態に固まってしまいます。そのため、芽が出ようとしたときに、上も下も土が固くて芽が出ようにも出られなかったのです。

■出揃った芽  

 試行錯誤の末、水分を含ませた培土と籾殻燻炭を混ぜ合わせ、ふわふわした土で種をサンドして蒔くことで、その原因を打破することができました。また、日中に気温が上がることが多かったため、水やりの頻度を増やし、朝夕の二回たっぷりと水を与えることで、発芽を促進させました。  
  
  
 この二つの方法を取り入れて、第三弾の種まきをしました。いつも以上に緊張をしました。(発芽しますように)。その願いを込めて、一粒一粒を祈るような気持ちで蒔きました。  

 効果はすぐに出ました。種を蒔いた三日後、芽がぞっくりと出揃ったのです。出揃った芽を見たときは、大声を上げたくなるくらいに嬉しくて、そして安心しました。発芽率はほぼ百パーセントでした。ここまで良い結果に結びつくとは思っていませんでした。やよいちゃん、ななほちゃんと手を合わせて喜びました。  

 第一弾、第二弾の種まきは失敗してしまいましたが、そこで留まらずに、よりよい方へ結びつけることができたことは、わたしにとって、良い経験になったと感じています。改めて、野菜を育てることは難しいとわかったし、それを解決していく楽しさ、そして結果に結びつけたときの嬉しさを分かち合うことのできた経験になりました。  

 では、種まきに失敗をした第一弾はそれ以降どうなったのか。  
 実は、今月半ば、初収穫を迎えたのです! 逆境に負けずに、いやそれ以上のパワーをみせて、挽回するかのようにホウレンソウは力強く育ってくれました。
  
  
 失敗があったからこそ、少しでも出た一株一株が貴重でした。もうこれ以上、無駄を出したくないという思いで、見守るような気持ちで手入れをしてきました。そんなわたしたちの思いが届いたのか、少ないながらも一株一株がすくすくと育ってくれました。畑に行くたびに、日に日に成長していくホウレンソウに救われた思いがしました。

 収穫は予定ではまだまだ先でしたが、十月初旬は夏のような暑さもあってか、予想以上に早く収穫を迎えることができました。  

 その日は試し採りとして、ななほちゃんと六株だけ収穫をしました。いきなり冷え込んだ朝の寒さも忘れてしまうくらいに嬉しくて、畑へ向かう足取りは軽く、スキップをしたくなるくらいに嬉しかったです。  

 四畝ある中から、特別大きなものを厳選しました。ななほちゃんと、「これはどうかな?」「あ、これが一番大きいよ!」「わたし、これに決めた!」と悩む時間も、たまらなく嬉しく思いました。  
  
  
 ようやく、「これだ」と収穫をする株を決め、根元に包丁の刃を差し込みました。すぐにサクッと切れた手応えがありました。持ち上げた根元はホウレンソウ特有の柔らかい紅色をしていました。わたしはホウレンソウの甘い根が好きです。甘みがぎゅっと凝縮されたような根の美味しさは、寒い冬だからこそ感じられる味わいだと思います。  

 葉はピンと伸びていて、少し触るだけで、ポキッと折れてしまいそうなくらいにシャキッとしていました。色艶もあり、深く濃い緑の葉が大きく広がっていました。ホウレンソウ特有の葉の凹凸もありました。  

 順調とはいかず、むしろ失敗や困難があっての収穫だったので、こうして収穫を迎えられたことに感じる喜びもひときわ大きかったです。

■毎日の楽しみの一つ  

 今回、ここまでホウレンソウを育ててきて、種まきに失敗したときは悔しくて悲しかったけれど、その失敗があったからこそ、改めて野菜を育てる難しさを知り、そして収穫ができる嬉しさを感じることができました。  

 ホウレンソウはまだまだこれからですが、初回の失敗をプラスに変えて、伸び伸びと成長している第三弾以降を見ていると、その先に大きな希望が感じられます。ホウレンソウが持っている生命力をさらに引き出せる、そんな手入れをして、この冬は食卓をホウレンソウでいっぱいにしたいです。  
     

第1段のコマツナはほとんど全ての株が発芽しました!11月には初収穫を迎えられそうです

    
 続いてはコマツナ。三種の野菜のなかでも特に愛着を持って育てているのが、コマツナです。コマツナは一から四弾まであり、現在は三弾まで種が蒔かれていますが、なんと全弾がほぼ百パーセント発芽しました。畝にみっしりと出揃った芽を見たときは、まるで自分まで肯定されているような気持ちでいっぱいになりました。水やりをするみんなも、「すごい発芽率だね」と共に喜んでくれます。  

 最高のスタートダッシュが切れたコマツナを、このままの勢いで育てたい!  その一心でコマツナを見ています。ネットが開いていないかということはかなりシビアに見ていて、コマツナの見回りに行くことが毎日の楽しみの一つになっています。  
  
  
 さらに嬉しいことに、害虫被害が全くありません。例年、コマツナは葉虫やネキリ虫に悩まされることが多いですが、今回はその問題がまったくありません。ほぼ百パーセントの発芽を保ったまま、現在まで一株も無駄になることなく、全ての株が同じ生育で育っています。

 今月半ばには、第一弾が本葉が四から六枚になり、間引きと追肥・土寄せを行ないました。まだ幼いと思っていた株も、すっかり見た目はコマツナそのままになっていて、見た目はマイクロコマツナのようで、見ているようで可愛いなと思いました。  

 上記にも触れましたが、コマツナは虫食い一つなく、本当にきれいで間引いてしまうことが惜しいと感じるほどでした。ですが、間引いた株も間引き菜として調理され、一足早くいただくこともできました。  
  
      
 間引きと追肥、土寄せをしたその夕方、小雨が降りました。翌朝に見回りに行くと、間引きをして株間がすっきりしたこともありますが、さらなる急成長したように見えました。コマツナは雨後の生育が速いと感じます。

■収穫のトップバッター  
 ここ最近は、コマツナを見ている時間がわたしの癒しになっています。ななほちゃんと見回りをしていても、二人ともつい、「可愛いね」と呟いてしまいます。

 そのくらいに愛着を感じます。寄り道することなく、真っ直ぐに成長をしていくコマツナの姿が本当に嬉しいです。現在の美しさを保ったまま収穫まで繋げることが、今のわたしの目標で、その目標に向かって育てる時間が楽しさになっています。  
  
  
 そして、秋冬野菜のなかで初収穫の先頭を切ったのが、水菜。育てていて思うことは、水菜は本当に強く、たくましい野菜だということです。  

 第一弾の水菜は植え付け直後にネキリ虫や葉虫の被害に遭いましたが、すぐに敷き草対策と木酢液の防除を行なったことで、広がる前に被害を食い止めることができました。それからは手入れという手入れはほとんど行なわず、定期的に水やりを行なっていたくらいなのですが、なんと、植え付けからわずか二十日目で収穫サイズにまで成長をしました。

 ハツカ大根ならぬ、ハツカ水菜です。太陽の陽を浴びて、シャキッと立つ水菜は本当にきれいで、茎が太く、みずみずしさがありました。夏野菜から冬野菜へと移り変わる今時は、野菜が不足する傾向にありますが、それを繋ぎとめるように水菜が食卓で活躍しています。  

 また、水菜の一部は刈り取り収穫をしています。根元から収穫するのではなく、あえて茎の下部を五センチほど残して収穫することで、またそこから水菜が再生します。手入れや調理を二度も楽しむことができ、この収穫方法はとても有効だと感じています。
   
  
 このように手間暇をかけずとも、自然の力でぐんぐんとたくましく育っていく水菜を見ていると、育てやすいと感じるだけでなく、わたしも水菜のように強いエネルギーを持って生きたいと感じることがあります。

 野菜を育てることは、わたしたちが何かを施したり、与えているだけでなく、むしろ野菜のほうから学ばせてもらったり、持つべき気持ちを教えてもらっているのだと思いました。  野菜を育てることも、わたしたちが自立をしていく上で身につけていくべき、表現の一つだと教えていただきます。

 今、第一鉄塔畑で葉物野菜を担当させてもらっていて、その意味が心に着実に落ちていっていると感じています。自分たちが野菜をどう育てたいのかを美しい理想をイメージして、それが現実になるように手を打つ。そして応えるように結果に結びつく。そのことがとても楽しくて、充実した遣り甲斐でいっぱいになります。  

 ホウレンソウ、コマツナ、水菜を担当させてもらえてよかった、と心から思います。
 さて、ここまで触れてきたことは、この二か月間の葉物野菜たちの記録の一部です。  

 ホウレンソウ、コマツナ、水菜が来月はどんな嬉しいニュースを運び、わたしたちに嬉しさを届けてくれるのか。来月にこうご期待です!