【10月号⑪】「全ての芽が発芽しますように ―― 秋ジャガイモの植え付け ――」るりこ

 

 「絶対に発芽させるぞ!」
 共に作業に向かう仲間と気持ちを揃え、そしてジャガイモの大豊作を願って、全力を尽くすことを自分自身に誓うように、みんなで三回復唱してから、作業が始まりました。

 九月のある休日、まだまだ暑さを伴う秋晴れの下、秋ジャガイモの植え付けを行ないました。ジャガイモの植え付けは、畑作業のなかでも重要度が高く、難しい作業の一つです。今回、植え付けに向かう過程のなかで、やよいちゃんを中心とした複数の子が、種芋の管理を徹底して行なってきてくれました。

 

発芽し始めたデストロイヤー

  
 畑に植え付けてからの発芽を確実にするため、種芋の芽出しをしました。しかし芽出しは難しく、苦戦しました。一定の冷房が効いた部屋に置いてみたり、なつみちゃんが調べてくれて、ジベレリン液をかけてみたり……。
 お父さんも様々な案を出してくれて、試行錯誤をしながら、みんなでジャガイモの芽が出るのを見守ってきました。そして少しでも芽が出たときは、担当の子が報告をしてくれました。

 誰か一人が管理するのではなく、担当の子たちが逐一情報を共有してくれたことで、なのはな全体の興味や関心がジャガイモに向いて、みんなで見ているという空気が広がりました。わたし自身も種芋のことは無知だったけれど、こうしてみんなで頭を悩ませたり、考えたりしていると、芽出しって深くて面白いなと思いました。順調とはいかなかったけれど、数週間、みんなでジャガイモの赤ちゃんを育てているようで、楽しい期間を分かち合うことができました。

 また、植え付けまでの準備段階で印象に残っていることがあります。それは畝立てのことです。今季、ジャガイモを育てるにあたって、今までにない試みを取り入れました。

■ジャガイモの畝立て

  
 これまではトラクターがけをした真っ新な畑にそのまま種芋を植え付けて、成長段階に合わせて、随時、土寄せを行ないながら畝を形成していっていました。しかし今回は植え付け前の段階にある程度の高さの畝を立てて、植わる種芋が地表よりも高い位置にあることで湿害を防ごうということになりました。

 そのため、ジャガイモの畝立てが行なわれました。ジャガイモは全部で四枚の畑に植え付けます。ある日曜日の作業で三枚の畑の畝立てを回りました。
 一枚目のビワの木畑は、トラクターを掛けてくれたお父さんも一押しする、土質のよい畑で、土がふかふかでクワをかきやすく、わりとスムーズに進みました。

 しかし、二枚目の野畑は土があまりよいコンディションではありませんでした。頭の上には照り付けるような太陽があります。みんなと汗を流しながらも、休憩を挟みながら、無心になって畝を立てていきました。
 三枚目の吉畑奥下に入ったときには、時刻はすでに四時半を回り、作業の残り時間は三十分足らずしかありませんでした。今のペースだと終わらない。ですが、野畑の土で体力も奪われてきていました。
  
  
 そんなときに、リーダーのやよいちゃんが笑顔で言いました。
「今から、畝立て選手権を行ないます!」
 畝立て選手権とは、名前の通り、誰が最も早く、かつ美しい畝を立てるかを競うものです。以前に夕の子畑で白菜の畝立てをしたときに行なったところ、みんなから好評で、本日がその二回目になりました。

■勝負となると

 もちろん一回目のときとはメンバーも違います。初めての子もいれば、以前の挽回を目指す子もいて、やよいちゃんの言葉にみんなからは歓声が上がりました。少し大変なときこそ、最後まで諦めないで楽しく乗り越えようと、みんなが前向きになる空気をつくり、明るく引っ張ってくれるやよいちゃんの思いに心が温かくなるのを感じました。

「では、みんなは一列に並んでください!」
 畝の長さもきっちり十五メートル測り、みんなが同じ条件のもと、いよいよ畝立て選手権が始まります。
「速いだけでは一位とは認められません。ラインに沿って真っ直ぐな美しい畝を立てることも、優勝者の条件です!」 
 みんなで気を付けるべきことも確認し合って、やよいちゃんの、「よーい、スタート!」の合図と共に、みんなが勢いよくクワを動かし始めました。

 ついさっきまでは、(腕の力が……)と思っていたのに、自分でもどこにこんな体力が有り余っていたんだ! と思うくらいに、勝負となると力が入りました。同じようにみんなも燃えていました。
 やよいちゃんが実況中継をしてくれるなか、なんとわずか三分二秒でなつみちゃんの、「終わりました!」という声が畑に響きました。なつみちゃんは断トツの速さです。
  
  
 さらに続くように、さきちゃんやななほちゃんがゴールをしていきました。やよいちゃんも、なつみちゃんのスピードには、「驚異的な速さだね」と驚きが隠せないようでした。

 なつみちゃんやさきちゃんが肩を上下させながらも、「やったぁ!」と喜んでいる笑顔が印象的でした。
 畑の半分の畝が十分足らずで立て終わり、もう一度、二回戦目の畝立て選手権を行ないました。最後にみんなできれいに畝の上を均したところで、五時のチャイムが鳴りました。

 広かったはずの吉畑奥下が、なんと畝立て選手権を行なったことで、畝均しまで二十五分程度で終えることができました。汗もたくさんかいたけれど、それ以上に楽しさや達成感が勝って、さっきまでの疲れも気が付いたらどこかへ吹っ飛んでいました。
 帰り際、畔の上から畑を見下ろすと、真っ直ぐに伸びた畝が整然と並んでいる景色が広がっていました。みんなと思わず、「きれいだね」と顔を見合わせてしまいました。

 こんなふうに、ジャガイモの植え付けまでの過程もみんなと楽しく進めてきました。
 
 そして迎えた、植え付け当日。
 その日は休日で、平日はお仕事や学校に通う子も一緒に、計七人で植え付けを行ないました。植え付けるジャガイモの品種は全部で三種。

 野畑にキタアカリ、ビワの木畑にアンデスレッド、吉畑奥下にデストロイヤー、そして四枚目の保育園東畑にそれぞれ残ったものを畝を分けて植え付けます。
 ジャガイモが揃って発芽するかは、植え付け方によって大きく左右されてしまいます。メンバー全員が同じやり方で確実な作業をすることで発芽が揃うのです。そのため、作業を始める前にお父さんが畑に来てくれて、やり方を教えてくれました。

 まず、植穴を掘る。その中に芽が上を向くように種芋を置く。そして種芋が隠れる程度に片手一掴みほどの籾殻をまく。それだけだと乾いてしまうので、さらに土を軽く覆土する。
    
    
 工程はとてもシンプルですが、シンプルだからこそ、一つひとつの作業に高い質が求められるのだと思いました。お父さんが三、四個、見本を見せてくれました。お父さんの手つきはとても美しく、それらを一つも見逃したくないと思いました。わたしも自信を持って確実な作業をするために、全神経を集中させて、お父さんが見せてくれるやり方を吸収しました。

■迷いを一切捨てて

 作業の進め方を一通り確認し、いざ、植え付けを始めようという段階に入ったときに、やよいちゃんがメンバーを呼び集め、こう話してくれました。
「大丈夫かな、合っているかなという気持ちでやったら、芽は出ない。絶対に発芽させるという気持ちで、迷いを捨てて作業をしてください」
 やよいちゃんの言葉を聞いて、はっとしました。

 わたしはジャガイモの植え付けメンバーに呼ばれたとき、正直、(わたしで大丈夫だろうか?)という不安がありました。でもそういう気持ちで作業に向かったら、不安がそのまま野菜にも伝わって、良い結果はでないのだと気が付きました。それではいけない。今日は迷いや不安を一切捨てて、ジャガイモの植え付けのプロになったつもりでやろうと覚悟を決めました。

 そしてみんなで、「絶対に発芽させるぞ!」と声を揃えて、三唱しました。それはみんなにも、そして自分自身にも宣言をしているようで、言った後は気持ちがすっきりして、作業に向かう気持ちが固まったと感じました。
  
  
 植え付けは三つの役割に分かれました。植穴を掘る人、種芋を置いていく人、植え付ける人。やよいちゃんが役割を分担してくれたことで、一人ひとりの動きがシンプルになり、とても動きやすかったです。
 わたしは主に種芋を置いていく役割に入りました。しなこちゃんが植穴を開けてくれて、追うようにわたしが種芋を置いていきます。だんだんと迷いなく動けるようになっていくと、全体のスピードも上がっていくのを感じました。

■三工程に分かれて

 一枚目の野畑はキタアカリを植え付けました。キタアカリのまん丸とした形状が可愛らしいなと思いました。
 役割が明確だったことで、作業は思っていたよりもスムーズに進み、野畑の目途がついてきた頃、わたしは先行して二枚目のビワの木畑に向かいました。三枚の畑がそれぞれ近い場所にあるため、移動もスムーズで、二手に分かれても、お互いの連携が取れるのもいいなと思いました。 

 ビワの木畑にはアンデスジャガイモを植え付けました。アンデスレッドはやや男爵に近く、丸いこぶし状の形をしています。表皮は薄く、赤い色で、中の果肉は鮮やかな黄色をしています。ホクホクした食感が特徴でポテトサラダなどに使われることが多いです。

 ビワの木畑は比較的、面積の小さい畑なので、植え付けもスムーズにいきました。そのままの勢いにのって、三枚目の吉畑奥下へ入りました。
 吉畑奥下にはデストロイヤーを植え付けました。赤字に紫色のまだら模様が入り、名前からも想像がつくように強そうな見た目のジャガイモです。種芋から出る芽も他の品種に比べて太く、生命力が強そうだと感じました。
  
  
 吉畑奥下は畝立て選手権を行なった畑でした。真っ直ぐに伸びる畝の中心に穴を開けていると、そのときの光景を思い出して、みんなで作った畝なんだなということを思いました。その場にいるのは植え付けメンバー七人だけど、すぐ近くにみんながいるように感じて、力が入りました。

 やよいちゃんの的確な指示とタイムコールで十六時過ぎに三枚の畑の植え付けが終わりました。残すは保育園東畑の一枚。アンデスジャガイモとデストロイヤーの二品種の種芋が余っていたので、畝を分けて植え付けることになりました。

 保育園東畑は土が粘土質で、植穴を開けるのも、それまでは移植ゴテを使ってツーアクションでできていたのが、一穴掘るにも握力が必要でした。でもそんなときこそ、やよいちゃんが今日で目途を付けたいんだと目標を確認し直してくれて、明るくリードをしてくれました。
 十七時のチャイムが鳴ってしまいましたが、最後の最後は全員で植え付けに入り、無事、予定していた約二千株弱のジャガイモを植え付けることができました。作業が終わったとき、大きな達成感でいっぱいになりました。
  
  
 わずか七人でここまで進められるとは思っていませんでした。
 帰り際、一緒に作業をしていた子と、「全力でやりきれたね」と言葉を交わしました。お父さんが教えてくれたやり方で、迷いを一切捨てて、メンバー全員でその日のベストを尽くすことができた、良い作業だったと思います。

 あとは、ジャガイモの発芽を信じるだけ。どうか全ての株が揃って発芽してくれますように。頑張れ、ジャガイモ!