【9月号⑤】「進化した吹き矢 ―― 素晴らしい音を! ――」ななほ

  なのはな縁日祭りに向けて、当日の三週間ほど前から準備が始まりました。

 各同盟サミットごとに屋台が振り分けられ、私達『ベルリンの壁』チームは吹き矢の担当でした。

 皆さんご存知の通り、吹き矢はお父さんの大好きな遊びです。

「お父さんに喜んでもらえるような吹き矢にしたい!」

 そう思い縁日の日まで、チームのみんなと吹き矢の屋台の準備をしました。

(縁日らしい吹き矢の屋台はどんなものだろうか?)
(吹き矢に新しいものを取り入れるとしたらどんな工夫ができるだろうか?)

 吹き矢は基本のルールも決まっていてシンプルなゲームなのですが、その基本を崩さずに新しいものを考えて行く時間がまた、面白く、準備が始まってからは寝ても起きても吹き矢のことを考えていました。

 また、吹き矢を楽しむ為に一番重要なのは、矢です。いかに性能の良い、真っすぐ飛ぶ矢を作るかに拘って、ひろこちゃんを中心に矢の制作部隊も動き始めました。日中の準備の時間や空き時間で作った矢の数は、気が付いたら百五十本にもなり、ひろこちゃんやのりよちゃんは矢作りのプロになっていました。

「ななほちゃん、試しに吹いてみてくれる?」

 そう言われて七メートル離れた所から的に向かって矢を吹くと、シュッと気持ちの良い音が鳴り、真っすぐに矢がささりました。どれみちゃんやあやかちゃんと交代で試し吹きは三巡したのですが、その中でも九割以上の矢が真っすぐに飛んでいきました。

 あまりの嬉しさでお父さんを呼んできて、お父さんにも吹いてもらうと、「うん。いいね〜! どれもいい矢だよ」と言って下さり、その時の笑顔が嬉しかったです。そして、その時にお父さんから素敵なアイデアを教えて頂きました。

        
「矢の性能はいいから、あとは音だね。的に当たった時に金属音のようにカンッと響いたら気持ちいいだろうね」

 お父さんがそう話して下さった時、頭の中でその音のイメージがパッと浮かび、是非、それを実現したいと思いました。

 それからというもの、どれみちゃんとあけみちゃんが音について研究してくれました。どの材料を使って響かせるか、ドラム缶やお菓子の缶、発泡スチロールで作る仕組みを使ったものなど実験しながら考えてくれました。

 結果的には果物などが入った缶詰の缶を使うことになりました。その缶を的に貼り、矢を吹いてみるとカンッと目が覚めるような爽快な音が響きました。

(よし、これだ!)と思ったら、予想通り直接、矢が缶に刺さると矢の先端が少しずつ削れていくことが分かりました。それからは、的と缶を少し離して音が鳴る仕組みを考えていきました。  

  
 ちょうどその頃、私は飾りと背景の担当で背景の的のデザインを考えていました。山小屋の山の中をイメージして、的も山もお互いに引き立つようなデザインとはどんなものがあるだろう。そんなことを思いながら、のりよちゃんと背景のデザインを考えました。

■野菜の花火

 案は二つ。一つ目の案は赤や青などの原色を使い、非現実的な空間のように見える的。二つ目の案は花火の的です。私は花火の的のデザインを主に描いていたのですが、吹き矢の的が円になっているので、それを中心に花火を書いていくと、心が弾みました。

(真っすぐに飛んでいく矢が缶に当たって音が鳴ると、より花火の的が引き立つのではないか)

 そんなことを思いながらデザインを描き、チームのみんなとお父さんとお母さんに相談に行かせて頂くと、「よし、花火にしよう!」と言って下さり、心からホッとしました。 

 朝の時間を使ってどれみちゃんとまことちゃんと作った段ボールの土台に、真っ白な包装紙を貼り、そこに改めてゆいちゃんが花火の絵柄の下書きをしてくれました。その花火は規則正しく四方八方に火花が飛び散り、色を塗る前から煌びやかに見えました。  

5枚の的の花火はナスやカボチャ、サツマイモなど、夏野菜を連想させる色合いにして、統一感を出しました

 花火の的に色を塗っていくと、意識して色を選んだわけではないのに、

「これはサツマイモ花火。こっちはマクワウリ花火だね」

 とゆいちゃんが言ってくれて、そう思って花火の的を見ると本当にその通りだと思いました。「的に名前を付けてもいいかもしれないね」とチームのみんなと話した結果、なすび花火、マクワ花火、カボチャ花火など一つひとつの的にピッタリの名前がついて、とても可愛らしいなと思いました。

 音の仕掛けのほうは、ゆいちゃん達が作ってくれた木の土台に缶が吊られて、的に対して平行になるように缶が取り付けられていました。

 それをお父さんに見てもらうと、とっても良い音が鳴ったのですが、せっかく綺麗な花火の的に木の型が見えてしまうのは勿体ないということになりました。

「この型を反対にしたらいいんじゃないかな」とお父さんが教えてくれて、その後で直ぐ、どれみちゃんと木の型を逆に取り付けました。その時、(あれ、この型っ何のためにあるんだろう)と思い、一度型を外して、ただ缶を的の後ろにテープで貼り付けました。

(まさか、こんなものでいい訳がないよね)

 そう話しながらどれみちゃんと矢を吹いてみると、的の中心に当たった瞬間、『カンッ』と音が響き、一瞬何が起きたか分からなかったです。

 どれみちゃんの方を見ると、口を半分開けたまま驚いて止まっていたのですが、そういう私もあまりの驚きで理解が追い付いてきませんでした。

「お父さんを呼びに行こう」

 緊急事態でもないのに大急ぎでお父さんを呼びに行き、音の仕掛けを見て頂くと、お父さんが無言で矢を吹き始めました。

 『カンッ』、一発でお父さんが中心に当てて音が鳴った時、とっても嬉しかったし、お父さんが、「うん、シンプルイズザベストだね!」と笑って下さって嬉しかったです。

 お父さんには最初からそんなに難しいことではないということが分かっていたようで、最終的に一番良い形になり安心しました。今までの過程があるから、その時のことがより印象に残り、達成感を感じて、自分達で頭と心を使って何かを作り出していく過程ほど、素敵な事はないと思いました。

  
 段々と準備も仕上げに差し掛かってきた時、お母さんが、「最後まで気持ちを切らさずね。小さい頃のお母さんを楽しませようと思って向かってね」と話してくれました。その言葉を聞いたとき、私は段々と誰の為にという所が曖昧になっていたように感じました。

 日々の畑作業や掃除など、何かに向かうときは誰かの為にを思うか思わないかで気持ちも向かう姿勢も大きく変わるように思います。

 ただ曖昧な目標の為にのんびりと過ごすのではなく、誰かの為に、たった一人の為にも自分にできる事はないかを考え、目的や具体的な目標に向かって動いているとき、自分も周りのみんなもお互いに嬉しい気持ちになります。
      
 小さい頃のお母さんを楽しませるような気持ちでと思うと、

(もっと飾り付けを工夫できるんじゃないか)
(もっと良いレイアウトで、みんながワクワクするような仕掛けがあるんじゃないか)

 と頭の中で考えて、それを考えていると、小さかった頃の私まで、救われたような気持ちになりました。

■つい顔が綻ぶ

 あっという間に迎えた、縁日当日。お父さんとお母さんに選んでいただいた浴衣を着て、一人ひとり手作りのお面をつけて、山小屋の屋台を回ります。

 山道を登っていくと、パーっと射的の屋台、ヨーヨーつり、金魚すくいに綿あめ屋さん。シューティングゲームに吹き矢と全ての屋台が見渡せて、その光景が目に焼き付いています。

 カラフルなヨーヨーや金魚すくい屋さんの雰囲気のある飾りを見ていると、やっぱりなのはなの縁日はなのはならしくて、私たちにしか作れないものだと思いました。吹き矢の屋台も、次から次へとお客さんが来て、どの屋台も人が止まることなく動き続けていて、みんなが浴衣を着て歩いているだけで、とても華やかでした。

 夜の賑やかな縁日の中、時々、吹き矢の的に命中した『カンッ』という音がどこからか聞こえてくると、つい顔が綻んでしまいました。

  
 なのはなの縁日はどこからどこまでも全て手作りで、自分達でお店番もし、自分達もお客さんとして屋台を回って、お互い様の気持ちで染まった縁日がとっても嬉しかったです。

(ああ、私にはこんなにたくさんの仲間がいるんだ)と仲間の存在に胸がいっぱいになり、これからもずっと、その仲間と繋がっていられると思うと心が温かくなりました。縁日が終わってしまった今、縁日での出来事が夢だったかのように感じるのですが、縁日が終わっても、みんなはみんなで、たくさんの仲間といられると寂しくありません。

  
 縁日の次の日は各チームで反省会も行ない、また来年に繋げていけるように、まだ見ぬ誰かにも分かりやすいように、良かった点ともっとよくできる点を一人ずつあげていき、使った道具類も細かく紙に記載し次へ繋げていきます。

 そんな風にいつも誰かの為を思っていられる環境があるなのはなでの生活が、私のとってとても幸せな事です。なのはな縁日祭りの大成功が嬉しかったです。