【6月号②】「大きなエネルギーに包まれて ―― 田植えチームの三日間 ――」 れいこ

「カチャコン、カチャコン」
 お父さんが、田植え機の「早苗ちゃん」に乗って、田んぼを軽やかに駆けていきます。濃い青色の空には、白い雲がポコポコと浮かんで、時折涼やかな風が吹いてきます。
 
 ついに今年も、この季節が巡ってきました。田んぼや用水路には水が豊富に流れ、青空が上にも下にも二倍に広がったように美しい景色が広がります。地球丸ごと深呼吸しているみたいな、大きなエネルギーに包まれて、今年のお米作りが始まれることがありがたく、幸せだなと思いました。
 
今年は、なのはなでは三日間にわたり田植えをしました。その一日目と二日目は、機械での田植えを行ない、お父さんと永禮さんが連日、田植え機を動かしてくださいました。

 
 なのはなのお米作りを、まえちゃんやみかちゃんが中心になって、引っ張っていってくれて、播種から育苗、田んぼの整備など、細部まで心の行き届いた段取りのもとに田植えの日を迎えることができました。私はお父さんのチームで、みかちゃん、どれみちゃん、あゆちゃん、りゅうさん達と一緒に、田植えの補助をさせてもらいました。

 「早苗ちゃんと僕は、まるで織姫と彦星だね」お父さんがそう言っていました。田植え機の「早苗ちゃん」も、年に一度のこの日を心待ちにしているようで、その姿が愛らしく感じました。
 
 4本の爪で、カンカンカンカンと気持ちの良いリズムを刻んで、苗を植えていく。とても働き者で、チャーミングな「早苗ちゃん」です。お父さんは、田植え機がとても良く似合います。


 乗馬をしているような、しなやかで力強くて、美しい後ろ姿を見ると、私も勇気が湧いてきます。「石生」という地名だけあって、石が多かったり、変形だったりする田んぼもありましたが、お父さんの田植え機が通った後には、どこまでもまっすぐに、4条の苗の列が伸びていました。
 
 お父さんが「すごくいい調子だよ!」と、笑ってくれたとき、とても嬉しい気持ちになりました。一日目には、四枚の田んぼを回りました。初めに那岐山三反田んぼ、次にカーブミラー田んぼ、交番先田んぼ、そして川向こう田んぼでした。まさに田植え日和の初夏の陽気で、那岐山もくっきりと映えていて、写真を撮らせてもらっていても、心が踊りました。 

■稲の育つ姿

 私たちは、苗に薬を撒いたり、水をやったり、機械に乗っているお父さんに、畔から苗を手渡したりする役割をしていました。播種から家族みんなで見守ってきた稲の苗は、育苗箱にぎっしりと根をはやし、爽やかな緑色をたたえて、気持ちよさそうに風に吹かれていました。


 育苗期間中、稲をぎゅっぎゅっと踏む、という手入れがあります。踏まれても踏まれても、培土をぎゅっと抱きしめるように踏ん張って、緑の葉を力強く伸ばしていました。そんなお米が育つ姿からも、日本人で良かったな、と誇らしい気持ちになりました。

 苗の打ち損じがないか、マーカーがしっかりついているかなど、お父さんの田植え機の後ろを交代でついて歩いていくのが楽しかったです。みかちゃんが、田植えの補助の役割や、入水口、排水口の止め方など、たくさんのことを教えてくださいました。田んぼの中でもみかちゃんの動きは軽やかで、終始明るくパワフルでした。

 田植えの日には、お昼にお弁当を持たせてもらって、田植えをした田んぼの畔にみんなで並んでいただきました。たった今、お米を植えつけた田んぼを眺めながら食べる、白米のおにぎりは格別に美味しかったです。なのはなでは「ミルキークイーン」という品種のお米を育てていますが、おにぎりで冷えていても、これほどに美味しいのか! と感動したことをよく覚えています。

 口いっぱいにお米の甘さが広がって、今年もきっと豊作になりますようにと願いました。午後からはあゆちゃんが来てくれて、畔の草刈りや、畔塗なども進めてくださいました。同じ畑にいても、広い視野でいろんなことに気が付いて、早くて美しい仕事で進んでいくのがすごかったです。

■ハプニング
 
 あゆちゃんが、草刈り機のエンジンをかけるときの姿が、心に焼き付いていて、背筋をすっと伸ばして、丁寧に機械に触れるまっすぐに伸びた指先も、こんな風に美しい姿で作業ができるんだなと思いました。あゆちゃんがすごく優しいなと思いました。
 
 二日目は、なのはなの田んぼの中で最も大きい、桃横田んぼからスタートしました。お父さんチームにはりゅうさんも加わってくださって、とても嬉しかったです。三日間の田植えの中でも、特に印象に残っている出来事がありました。

 昨日まで四枚の田んぼで、元気いっぱいに働いてくれた田植え機の「早苗ちゃん」でしたが、突然、爪が微動だにしなくなってしまうというハプニングがありました。お父さんとみんなで試行錯誤しながら原因を探っていたのですが、そんな時、りゅうさんが、「筋トレしたらいいんちゃう?」と提案してくださいました。
 
 田植え機の筋トレ……?初めはびっくりしましたが、お父さんが機械を動かしてくださるのに合わせて、りゅうさんとみかちゃんと私で田植え機の爪を「いっちに、いっちに」とトレーニングをしました。
 
 すると、あるとき、「コンッ」と音を立てて、何かがかみ合いました!再び「カンカンカン」と気持ちのいいリズムを取り戻して、「早苗ちゃん」が動き始めてくれて、すごく面白い解決策が見つかって嬉しかったです。

 お昼からは、作業に出る前に大勢のみんなが、お父さんの応援に来てくれました。夢中で田植え機に苗を渡していて、ふと振り返ったら、三十人くらいのみんなの笑顔があって、あたたかい気持ちが胸の中にわっと広がりました。田植えをしているお父さんを見ていて、みんなが心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべていて、そんなみんなの表情を見ていると、より一層嬉しい気持ちになりました。

〈みんなで機械での田植えを見学しました〉

 本当に、心は写し鏡なんだな、と実感しました。田植え機で田植えをするときは、外周二周を一番最後に回って、畔に到着します。二日目、最後の石生田んぼで、お父さんがついに外周を回ります。

■もう1つの出番

「じゃあ、行ってくるねーー!」
 渾身の力で、最後に明るいかけ声をかけてくださったとき、すごく元気が出ました。

「早苗ちゃん」とお父さんが、畔に上がってくるとき、思わずみんなで拍手をしました。しかし、ここで嬉しいサプライズです。お父さんチームには、まだあと一枚、出番が待っているのです。


 
 田植え三日目は、家族みんなでの手植えです。みんなが光田んぼ上を手植えするとき、お父さんチームは光田んぼ下を同時に機械植えをして、手植えVS機械植えの対決をすることになりました。二日間すごく楽しかったので、終わってしまうのがちょっぴり寂しくて、だからもう一日できるんだと思ったら、すごく嬉しかったです。

 その日の夜、みかちゃんが声をかけてくださって、どうしたら手植えに勝てるか一緒に作戦を練りました。手植えと言っても、相手は六十人以上の力持ちななのはなの子です。お父さんの補助をするとき、どんなところでタイムを縮められるかな、と考えました。
 
 そこで、機械に乗っているお父さんが稲の補充をもっと楽にできるアイデアを、みかちゃんが提案してくれました。育苗トレイに板をさして、稲を後ろにセットする、その板をさすところを私たちがやっておいたらいいんじゃないか、ということです。
 
 それは機械に一枚しかついていない板だと思っていたのですが、みかちゃんが、実は何枚か予備があるんだと教えてくれて、四枚分用意することができました。


 三日目は、お父さん、みかちゃんと、なおちゃんも一緒に機械植えチームに入ってくださって、いよいよ本番です。手植えのみんながずらっと並んでスタンバイして、お父さんもエンジンを始動します。お母さんが両方の田んぼから見える畔に立ってくださって、「よーい、スタート!」のかけ声で、試合が始まりました。
 
 ここはやっぱり負けず嫌いのなのはなの子、両者一歩も譲らない真剣勝負になりました。お父さんも、終始フルスピードで機械を動かしてくださって、補充をするときもかなり力が入りました。
 
 途中までは、やや機械植えが優勢か、と思われましたが、手植えのみんなの後半の追い上げがすごくて、のこり2周をのこして、本当にどちらが勝つか負けるか、ドキドキしました。お父さんのノンストップターンも炸裂していて、畔際までフルスピードで走ってきてくださると、まるでF1レーサーがピットに入ってくるような、高揚感でした。

〈永禮さんも田植えを助けてくださいました〉

 私たちもプロのタイヤ交換のチームになったような気分で、苗の補充をしていました。畔に上がる瞬間までが勝負です。お父さんが畔際の最後の一本まで、しっかりと植えてくださって、そのままの勢いでゴール!!

■嬉しさ

 結果は、ごく僅差で、機械植えチームの勝利でした。お父さんが白い歯で笑ってくださって、やっぱり勝ち! は嬉しかったです。三日間、お父さんチームで田植えをさせてもらって、田んぼで過ごす時間は、時の流れが早く感じるほど充実していました。


 お父さんの田植えを畔から見ているとき、ただそれだけなのだけど、心の底から嬉しくて、身体の底から楽しくて、こういうことを幸せっていうのかな、と思いました。いくつになっても、いつからでも、子どもになっていいんだな、のびのびした気持ちになれるんだな、と知れて、希望を感じました。家族みんなで育てるお米が、今年も豊作になりますように、と祈りました。