【5月号③】「仲間の力を感じて ―― 真夜中の桃の霜対策 ――」 ななほ

『朝日と夕日を見た数だけ、幸せになれる』

 霜対策に行く日の前日、夜のミーティングで、お父さんがそう話してくれました。毎日必ず、日が昇り、日が沈むけれど、朝日も夕日も一瞬しか見ることのできない、儚いものです。

 桃の霜対策。四月の上旬から下旬にかけて、なのはなファミリーの桃畑には五回、霜が降りました。

 私は今年、五回中三回、あんなちゃんを中心に桃の霜対策に行きました。

 霜対策の前日、午後から、霜対策で使う一斗缶や資材の準備をし、各桃畑に設置します。一斗缶の中身は、米ぬか、籾殻、鉋屑そして、食用油の廃油と灯油です。

 あんなちゃんが今までの蓄積を基に桃や霜対策をする私たちにとって、一番良い配合を考えて下さっているから、こうしてスムーズに霜対策の準備が進むのだと思いました。

 お母さんが、
「油もあんなちゃん一人に任せるのではなく、誰でもできるように、ひしゃくを使って入れたらいいよ」
 と教えて下さり、その方法で行うと準備の流れも良くなりました。

 

 

 そして迎えた夜。今期の霜対策は四月十日から始まりました。

 夜寝る前、霜対策に行く仲間に、

(起きていなかったら起こしてね。おやすみなさい)と声をかけたら、(私も起こしてね)(私も!)(おやすみなさい)とみんなの声が聞こえました。桃の霜対策自体が今季初めてだったので、とても緊張していたのですが、その空気に緊張が不安から、楽しみな方へと変わっていきました。

 夜の間もあんなちゃんが、こまめに起きて畑の温度を計ってくれていました。そして午前一時半、いざ出動です。

 

■新月の夜に

 

 

 外へ出ると真っ暗で、月の光が無く、新月ということが分かりました。夜空を見上げると、数えきれないくらいの星が瞬いて、空に吸い込まれてしまうんじゃないかと思うくらい、美しい景色でした。

 第一回目は土曜日ということもあり、あゆちゃんとりゅうさんも一緒です。あゆちゃんの運転するボクシーに、どれみちゃん、りんねちゃん、さくらちゃん、なつみちゃん、りなちゃんと乗り込みました。

 車に乗り込むスッスッと言う音だけが響き、言葉を発さなくても、一体感のある空気に特別捜査官のようなスリルを感じました。

 真夜中の霜対策は、ちょっぴり悪いことをしているような気持ちになり、つい顔がニヤニヤしてしてしまいます。

 一巡目は点火。各桃畑を回り、一斗缶に火をつけていきます。古畑、夕の子、石生、奥桃、新桃、池上、開墾十七アール、開墾二十六アールという順番に八枚の畑を回り、ただ黙々と走り火をつけて回ると、真っ暗闇だった桃畑に、ポンポンと炎が上がりました。

(夜に現れる小さな小人になった気分)
 思わずそうつぶやくと、
(桃を守る為に魔法をかけているようだね)
 と誰かが言いました。車を降りてすぐに、猛スピードで坂を駆け上がって、点火していく空気は緊張感があるけれど、じわじわと仲間の力を感じて、温かい気持ちになりました。

(いつか、夜の桃畑で『サム・ナイツ』を演奏したい)
 そんな夢を見てしまう位、炎でオレンジ色に染まった桃畑が幻想的でした。

 

 

 地面は霜が降り、野草や畑の土も粉砂糖を振ったようにキラキラと霜で光っていました。

 あゆちゃんの運転するボクシーが、暗闇の中に二本の光線を発している光景は、銀河線のように輝いていて、このまま宇宙まで飛んでいけそうな、未来列車にのっているような気持ちになります。

 いつも歩いている道、いつも見ている景色が、夜というだけで別世界のように見えます。(こんなに星が美しかっただなんて)と思うくらい、北斗七星やカシオペア座がはっきりと見える夜空に、涙が出そうになりました。

 

 

■仲間と見る景色

 毎日一緒に過ごしている仲間、今一緒に桃を守る戦士として畑を回る仲間、同じところを目指して同じ志を持った仲間。大切な仲間と見る景色は、一人で見る景色と比べて何百倍、何千倍も尊く思います。

 点火が終わった後からは、資材の追加や攪拌などをする為に、何週も何週も、失ってしまった何かを集めていくように桃畑を回っていきました。

 あゆちゃんとりゅうさん、仲間たちと桃を守るために夜の桃畑を回り、火が絶える事のない様に、竹の棒で一斗缶を掻き混ぜたり、火が消えかけている缶に資材や油を足したり、ただ走るだけでも幸せを感じました。

 六時の日の出までの間、あんなちゃんが引っ張ってくれる空気の中、畑を走り、火をつけ、攪拌し、走りを繰り返す時間がとっても楽しく、大げさかもしれませんが、自分達が生きている喜び、これから生きていく喜びを深く感じるように思います。

 

 

 午前三時頃からは、遠い、遠い、島国の日本からは見えないんじゃないかという東の空から、うっすらと明るくなっていき、気が付いたら空が紺色から淡い青、紫、ピンクとグラデーションになっていました。つい一時間前には何も見えなかったトンネルが、私たちのよく知っている坂道となり、外気温より川の温度が高いため、川から湯気が立っていました。

 そして、太陽が顔を出します。冷えた体を包み込むように光る優しい太陽に照らされて、石生の畑で日の出を見ました。

 あゆちゃんが、「みんな、手を繋いでバンザイをして!」そう声をかけてくれてみんなで見た日の出は、身体だけではなく心もどこまでも溶かし、深く耕してくれるようでした。

 あんなちゃんが、
「みんなのお陰で桃を守れたと思います。お疲れさまでした」
 と最後、話してくれた時、やり切ったという気持ちでいっぱいになりました。

 

 

 第一回目の霜対策が順調なスタートを切ることができて、片付けまでを効率よく進めることができました。また、あゆちゃんの提案で、二回目以降は肥料の配合する順番で、油類を先に入れることによって、霜対策の片付けにかかる時間が短縮できたり、肥料のもちも良く、どんどん良くしていける空気が嬉しかったです。

 霜対策はその回やメンバーによって、空気が違います。桃の霜対策に限らず、日々の生活でも作業でも一人ひとりの気持ちが、その作業の雰囲気を作ることを感じて、改めて私も常に仲間の為に、外向きな気持ちであり続けたいと思いました。

 あんなちゃんの、桃を思う気持ち、責任感の強さ、優しさがどこまでも綺麗だなと思います。お父さんとお母さんが話して下さったように、どこまでも機械化して、効率だけを目指すことも必要に応じては良いことかもしれないけれど、やっぱり自分たちの手で桃を守る達成感、仲間と見る美しい景色、思いは何物にもかえ難い物のように思いました。

 

■たった1人の為に

 桃のことを思うと、仲間のことを思うと、あんなちゃんのことを思うと、自分の身体が自分の物ではないように感じ、どこまでも力が出て、どこまででも動けるように感じました。

 お母さんがいつも「たった一人の為に」と話して下さるように、あんなちゃんの為にと思うと評価の為ではなく、心から少しでも自分にできることはないか、仲間として自分はどう在るべきかを考えて動くことができ、本当に自分の為には動けないなと思いました。

 今年三回、桃の霜対策に行かせて頂き、大きな自然や流れの中で、自分は生かされているのだと感じました。

 あんなちゃんのように桃の為に頭と心を使って、あんなちゃんの少しでも役に立てるように、今後の手入れもしっかりと覚えていきたいです。