【4月号⑪】「盛男おじいちゃんに教えていただいて ―― ブドウ畑の土壌改良・棚作り ――」 さや

 池上三角畑のぶどう。オーロラブラック。

 隣はスモモ畑で、今がちょうど花盛りです。枝がぼんぼりでくるまれたように、まるく白く輝いています。

 畑には東側から西側に向かって傾斜がついています。植わっているぶどうの木は四本です。四本のブドウの木の生育は思わしくない状態でした。

 盛男おじいちゃんに木を見て頂いて、今年は枝を大きく落として木を育て直すことになりました。東側の手前三本のブドウの木は地面から百二十センチほどのところで切り戻して一本の棒状の形に。比較的生育のよい西側の一本は、左右に誘引した主枝をそれぞれ主幹から一・五メートルほどのところで切り、その枝から出てくる新しい枝を左右からそれぞれ二本選び、手前へ誘引することになりました。

 ブドウの木を見て、盛男おじいちゃんが教えてくださったのは、一番の問題は畑の土が「重粘土質」だということ。土が粘土質でかたく、ぶどうの根っこが伸びたくても伸びられない状態だということを教えてくれました。

 

■籾殻で土壌改良

 そのことを盛男おじいちゃんに教えて頂いて、土質改良のために、畑に籾殻を軽トラ三杯分撒き、管理機で耕しました。籾殻を大量に入れて耕したことで、目で見ても分かるくらい土の色も変わって、ものすごくふかふかになりました。

 そのあと、今年伸びてくるであろう枝のために、いよいよぶどう棚づくりを開始しました。まず、現在すでに立っている支柱をつかって、畑の手前から奥へ番線を張りました。

 おじいちゃんが番線の端っこを数センチ切ってUの字に曲げてピンをつくり、それを支柱に巻きつけた番線を挟むように支柱につきたてて、トンカチで打ち込んで固定してくれました。

 三月に入り、朝晩はまだ少し冷えるものの、昼間はシャツ一枚でいいほどぽかぽかと暖かいです。周囲には、ハコベ、ナズナなど、やわらかい春の下草が生えています。途中、座って休憩したとき、おじいちゃんが豆科のふわふわした草を千切って見せてくれました。

「これはカラスノエンドウ。小さいけどちゃんと豆の実ができる。もし何か震災でもあって困ったら、これも食べられますよ」

 誰が何をしているわけでもないのに、毎年勝手にふわふわ生えているどこにでもある草たちが、なんだか頼もしく思えました。

 後日、番線をピンと張って固定するための頑丈な杭をつくるために、良い木があると盛男おじいちゃんが言ってくれて、その木をおじいちゃんの山へいただきに行きました。

 

 

 盛男おじいちゃんが運搬車を運転してくださいました。

途中、その運搬車に、やよいちゃんと一緒に乗せてもらいました。ちょっとどきどきしたのですが、急な山道も、運搬車のキャタピラが地面を踏みしめるようにしてしっかりとのぼっていきます。

 山の中で、檜の良いサイズの丸太を運搬車に乗せて運びました。おじいちゃんが十年ほど前に切っていた木らしいのですが、まだしっかり丸太のままです。檜に含まれる「フィトンチッド」の効果で、外側の皮は腐っても、中の部分は朽ちずにそのままなのだと、おじいちゃんが教えてくれました。

 山小屋の前の広場へ帰って、檜の皮を鉈をつかって剥いていく作業をしました。

 鉈で、外側の脆くなった部分をそぎ落としていきます。おじいちゃんが、赤っぽい色が見えてくるまで削るのだと教えてくれました。湿って黒くぼろぼろした部分をそぎ落としていくと、ピンク色のさらっとしたかたい木肌があらわれてきます。ここまで削ると、丸太は表面がつやつやで、檜の良い匂いがして、とても十年前に切り倒されたものとは思えないくらいぴかぴかしてほんとうに真新しいもののようでした。

 

 

■檜の丸太で作る杭

 皮を剥いた檜の丸太をたてにおこして、おじいちゃんが木の年輪のまんなかに斧をあて、その柄を、しほちゃんがハンマーで何度か叩き、斧を木に深く突き刺していきました。水を注ぎかけられた氷のような音をたてて、丸太がまっぷたつに割れます。割れた断面から、ふわっとまた檜の香りが漂いました。

 四つに割った檜の丸太を、今度はまた鉈や斧をつかって先っぽを尖らせます。片手で木を立てて抑えながら、下に当て木をして、大きな鉛筆をつくるようなかんじでガツガツ削っていきます。

 盛男おじいちゃんがやり方を見せてくれたときは簡単そうに見えるのですが、実際にやってみると難しくてなかなかおじいちゃんのようには上手くできなくて、ちょっと苦戦しましたが、もくもくと杭を尖らせていくのがすごく楽しかったです。

 削り終わって手袋を外すと、ふたつまめができていました。小学生の時、雲梯の練習を一生懸命していたとき以来のまめだなあと思いました。

 全部完成した杭を見て、盛男おじいちゃんが、「よくできました」と言って褒めてくださって嬉しかったです。

「今は何でも売っているけど、自分でできたら、もしものとき、きっと役に立ちますから」

 できあがった杭を、防虫・防腐のために炙りました。おじいちゃんが火炎放射器で、尖らせた杭の炙りをやって見せてくださいました。手元のポンプを押して火炎放射器がゴウゴウとうなり、木肌の表面はまっくろな炭のようになります。表面から一センチほどが真っ黒になるくらいがいい具合なのだそうです。

 

 

 

■ウルグアイに届くまで

 杭を炙り終わって、納めるために勢いの弱くなっていく火炎放射器は、途切れ途切れにふしゅるる、ふしゅるるる、と炎を吐きながら、罠に捕まった大型動物みたいな声を出していました。

「こういうのを『息も絶え絶え』と言う」

 おじいちゃんがそう言って笑いました。

 出来上がった杭を、池上三角畑に持っていって、かけやで打ち込みました。手前両端の支柱には、一本に対してV字型に二本打ち込みます。ゆいちゃん、しほちゃん、りんねちゃんと、交代で思いっきり杭を叩いて深く突き刺していきました。

 

 

「ウルグアイに届くまで」

 盛男おじいちゃんがそう言ったので、わたしたちも、ウルグアイまで杭が突き刺さっていくように、力一杯叩きました。杭はずしずし沈んでいって、おじいちゃんは、「はい、もう届きました」と言って笑いました。

 盛男おじいちゃんに、いろんなことを教えて頂きながら、ぶどうをつくらせてもらえることが、すごくうれしいなと思います。

 これからどんどん暖かくなって、ぶどうの芽が伸びてくるのが楽しみです。