【3月号⑯】「鯉がやってきた!大きな鯉がやってきた!」ちさ

 今日は鯉がやってくる! 大きな鯉がやってくる!
 お父さんから予告を聞いてから、大きな鯉とはどれくらいなのか、鯉が釣れることがあるのか、池でみたことあるあの鯉がおいしいのか、私の頭は、はてなマークと好奇心と好奇心でいっぱいだった。

「今からお父さんの鯉の解体ショー始まるよ」
 そう聞いて、私たちは家庭科室に飛び込んだ。楽しみで勢いよく扉を開けると、開けてびっくり。そこに待っていたのは予想をはるかに超える大きな大きな鯉。勢いよく入ろうとしたものの、後ずさりしてしまった。だってそ家庭科室のシンクには、こっちを向いてりゅうさんに体を洗われている、八十センチを超える鯉がいたのだから。鯉とは思えなかった。

 私が知っている鯉というのは四十センチ程度のもの。なのに、私の目の前にいるのはウエストが50センチくらいはあっただろう。重さは五キロ超え。私が食べられてしまいそうだった。


 興奮と怖さを胸に抱きつつ、鯉に近づいてみた。りゅうさんに進められて、恐る恐る鯉に最初に触れたまなかちゃんは、驚きのあまりビクンと飛び上がっていた。私もドキドキしながらチョンとはじめましてのご挨拶をしてみた。その身体の締まり加減にとても驚いた。私の筋肉なんかよりずっと硬く弾力があって、それでいてふくよかな柔らかさを持ち合わせていた。川の強い流れにも負けず、自分の生きたい方へ泳ぎぬいた、そんな威厳を感じた。

 なのはなにやってきたのは雄と雌の2匹の鯉。夫婦だったのでしょうか。解体ショーは、ぬめりを落とすところから始まった。タワシでこすると、山芋のようにネバーっととろーっとした灰色の粘液がとれた。こうやって身体を細菌などから守っているのだと思うと、生命力を感じた。


 こすってもこすってもなかなか取れなくて、それだけ健康だったのだと思った。それでも粘液を取り除くと、その内側には白く銀ピカに輝く鱗があった。鱗は一つ五百円玉くだいの大きさがあり、鯉の立派さを改めて感じた。一つ一つが宝石みたいだった。それが美しく、高級な屋根のように並んでいて、ずっと見ていたくなった。

 輝きを取り戻したところで、ステージはまな板の上へと移った。お腹を裂いて内臓を取り出し、頭を落とすお父さんの手つきは、すごく素早くて無駄がなかった。血が出ることも美しくやり抜くお父さんがかっこよかった。だけれど太い太い背骨には太い出刃包丁でさえ太刀打ちできないほどだった。後から見てみると、背骨がオッケーサイズくらいの太さはあった。こんなに太い魚の背骨を見たのは初めてだ。

 次に三枚おろしにして、皮をはぐ。長い包丁を、滑らかに、絶妙な力加減で前後に引きながら進めていくと、ほんの一ミリもない皮だけがきれいに残って、歓声も忘れて見とれてしまった。お父さんがさばいている姿を見ているだけでワクワクして、楽しかった。ショー、という言葉がぴったりで、さばくお父さんの姿はもちろんですが、さばかれる鯉も、生かされているように感じた。さすがお父さんだと思った。

 一匹目の鯉からは、大きな卵が二つも出てきて、食卓でいただくような魚に入っている指くらいの大きさの卵しか見たことなかったからとてもびっくりした。一つ新しい工程にいくたびに、新しい発見と驚きが盛りだくさんで、もっと目が欲しい、と思いました。見たいものがたくさんあって、ワクワクが止まらなかったです。


 メスの鯉から出てきた卵、オスの鯉から出てきた白子はあゆちゃんが煮付けてくれました。たった一匹ずつなのに、みんな分の卵と白子がとれて本当にすごいなと思いました。味見をしたお父さんが「うまいっ」といったのをみて、お腹が鳴りました。夕食が待ち遠しくて仕方なかったです。

 身だけの状態に下ろされると、それをとても薄くそぐようにさばいていかれました。柔らかい身で包丁についてきそうなのに、スッと美しくさばくお父さんの潔く優しい手つきがとてもきれいで、何度も同じことを繰り返しているのに見飽きることがなかったです。よく耳を澄ますと「プチプチプチ」という音がお父さんの手元から聞こえました。

 骨を裁つ音です。小骨が鯉にはたくさんあるそうです。お父さんは骨を裁つ向きも考慮していました。すごく簡単そうに華麗に進められていたけれど、本当にいろいろなことを考慮したうえで、すごい技術があってこそじゃないと、おいしく美しくはさばけないのだと感じました。
 今回はあらいにしていただこうとお父さんが考えてくださり、薄い刺身のようになったら、これをさっとお湯にくぐらせました。お湯にくぐらせることで臭みが抜けるのだそうです。理想は六十度くらい。鍋に身を投入すると、しゃぶしゃぶのようにほんのりと薄いピンク色になって、それまたきれいでした。軽く火が通ったら、冷水で冷まして、完成です。

 あらいと卵と白子と。小皿に美しく三点盛された一品は高級料亭みたいでした。身がしまっていて、鯉なのに全く癖がなくて、とてもおいしかったです。私もお父さんのようにいつか魚をさばけるようになりたい、と思いました。

《なのはなファミリーと滝川》

 奈義町から勝央町を抜けて流れる滝川、田んぼや畑に水を引いている梶並池ともに古吉野なのはなの近くにある川と池です。滝川と梶並池には鯉がいます。昔地域の方がはなった鯉が繁殖し、今でも滝川や梶並池でせいそくしています。

 以前にも、鯉釣りをされる地域の方から鯉をおすそわけしていただいたこともあります。ときおり、川や池ではねる鯉の姿を見ると、その存在感に驚きます。地域の方も鯉釣りを楽しまれている方は多いです。

 滝川は豊かな川で、滝川にはうなぎがいる!とお父さんが話してくれます。なのはなの畑のひとつであるうなぎとり畑はうなぎがいるであろう滝川沿いにある畑であることから命名されました。いつかうなぎを獲ってみたい!なのはなの子たちの中にもこう思う子は少なくないです。

 漁協の一員になり、鰻漁をするよとお父さんが言っていたような……。