【新春号㉖】「あるべき姿を求めて、仲間と共に表現する ――クリスマス会を通して――」ほし

 二〇二〇年十二月二十日、なのはなファミリーでは、『NHFのど自慢大会』が行なわれました。十三組のチームが、この日に向けて、作曲や練習を積み重ねてきました。

 それそれのチームが、それぞれの気持ちを、歌い、演奏し、表現し、互いの気持ちを伝えあい、表現する喜びを実感し合い、本番は、大成功となり、とても意味のある素敵な会となりました。

 私が参加したのは、『行き止まり』を演奏した「袋小路突破隊」と、トロンボーンアンサンブルのチームで『ルーマニア民俗舞曲』を演奏した「ヘルメス」の二チームでした。その日に至るまで、表現する個々それぞれに、数々のドラマがありました。

 有志でチーム結成するという話を聞かされた時、私は、表現したい気持ちはあるけれど、色んな不安があり、足がすくむ思いがしていました。でも、ここで踏み出せば、きっと意味のあるものにできる、チャンスだと思い、踏み込んでみました。私にとっては、大きな一歩です。

 レクリエーション時に、直感的にゆりかちゃんと表現したいと思い、ゆりかちゃんたちのチー

ムに入れてもらいました。笑顔で歓迎してくれて、みんなと表現できるんだという嬉しさを強く実感するとともに、その空気に安心しました。大きな一歩でした。

 ゆりかちゃん、やよいちゃん、まよちゃん、しなこちゃんと、その場の流れで、直感的に集まり合いました。今、思えば、それが運命だったのだと思います。これから、この五人で、あの曲に至るまでの旅が始まります。

 当初は、『桃源郷』というタイトルで、ユートピアをテーマに作った綺麗な歌詞とメロディーでの曲でした。チームのみんなで、ユートピアをテーマにした美しい曲を作りました。でも、それはイマイチでした。お父さんに歌詞を見てもらったところ、綺麗なものを作ったものは見ていられない、もっと面白いものにしたい、ということでした。

 私たちに鬱憤が晴れるような詞を書いてくれるという返答と、「ほしちゃんは、ドラム缶をぶっ叩けばいいんじゃないか」という言葉と、全員高い声を上げてみてという指示を受け、一人ずつ声を上げ、お父さんのもとを後にしました。

■『行き止まり』との出会い

 そして、数日後、私たちの手に、『行き止まり』の歌詞が渡りました。孤独に落ちてはクスリに手を出し、モラルを失った病気に逃げては、身体も投げ出し、たったひとつのプライドさえも、いまじゃどこかへ落としてきたよ

 間違った、間違った、そうあんたのせいだよ

 まさかの歌詞でした。そのインパクトある歌詞、そのことを叫ぶ

要素があることが、私のくぼんだ心を、湧き上がらせました。この歌詞は…なんだか楽しそう! そう、歌詞を見た瞬間、今までになかったようなゾクゾク感と、運命めいたものを感じました。

 早速、メンバーのみんなで集まって、曲の構想が始まりました。

 やよいちゃんが、エレキギターを持って、コードと、歌詞のメロディーを考えてくれたり、ゆりかちゃんやしなこちゃんが、キーボードでメロディを考えてくれたり、チームのみんなと、積み重ね、形にしていきました。

 ゆりかちゃんは美意識高く、チームのみんなを引っ張っていってくれました。また、運動場の隅に、ひっそりとあった青いドラム缶を発見して、ドラム缶を楽器にして演奏することが、実現しました。

 小さく、小さく、生み出して、時に生みの苦しみを味わって、でも、みんなといつも一緒で、その喜びを実感するたびに、みんなの気持ちが、一つに結集されて、深くなっていくのを感じました。

 やよいちゃんは、ギターを弾きながら、主旋律を歌います。他の四人は、また違うメロディを、楽器を演奏しながら、歌います。より、一層、ハチャメチャ感のある、深みのある演奏になりました。

 まーちがった、まちがった、そう、あんたのせいだ!

 

せいだ! せいだ! せいだ!!

 歌うごとに、ああ、私は、このことを言いたかったんだ、この気持ちを吐き出し、表現したかったんだ、と、ひしひしと実感しました。何の枠にもとらわれない、まさに、本当の自由があるような気がしました。

 綺麗なものばかりの、ああしなければいけない、こうしなければいけない、といい子ちゃんでいなければならない、そんな狭い狭い世界で、ただただ呆然と生きて、生きる意味も目的も無くしていたけれど、そんな世界になんて囚われない、といったような、そんな気持ちが、チームのみんなが一丸となって、この曲の歌詞に込められていきました。

 歌うごとに、叫ぶごとに、ドラム缶を思い切り叩くごとに、ずっと心の中でドロドロとしていた感情が出されて、気持ちが晴れていきました。そのことを感じる時も、みんな一緒でした。

■トロンボーンアンサンブル

 同時並行で、えつこちゃんに、トロンボーンアンサンブルに誘ってもらい、練習が始まりました。普段から、えつこちゃんのトロンボーンに向かう真っ直ぐな姿勢に憧れていて、一緒にしようと、誘ってもらったときは、心から嬉しかったです。

 えつこちゃんから、手書きの楽譜と、曲に込めたい気持ちの文章を貰いました。そこには、一人の旅人の物語、信念が綴られていました。その気持ちは、私が、なのはなで過ごす中で、感じてきた気持ちと重なりました。

 その旅人は、特に勇敢なわけもなく、臆病で、大多数の人が難なくできることが、難しくて、馬鹿にされることが多いけれど、ほかの誰にもない、私だからこその使命がある気がしてならなくて、駄目だと動けなくなる日があっても、諦めず、旅をして、後に続く誰かのために、道を切り開いている、という内容のものでした。

 その主人公の姿は、真っ直ぐで、懸命で、誠実で、えつこちゃんそのものだと感じました。私は、その気持ちを表現する一人として、えつこちゃんの仲間に巻き込んでもらい、そのことが、本当に嬉しかったです。

 演奏する曲は、バルトークの、『ルーマニア民俗舞曲』です。ゆりかちゃんやさやねちゃんがメロディラインを演奏して、えつこちゃん、しなこちゃん、私は、ベースの四分音符の低音パートを担当しました。毎日、夜に三十分集まって、練習が始まりました。

 当初は、トロンボーン初心者の私には、低音が出なかったり、タンギングが上手くできなかったりで、本番までの課題は、たくさんあったけれど、チームのみんなの存在を感じて、たくさん力を貰いました。

 直前にトロンボーンを始めたばかりのしなこちゃんは、慌てることなく演奏を形にしている姿から、誠実さを感じたり、低音パート隊を引っ張っていってくれるえつこちゃんの存在、メロディラインを演奏しているゆりかちゃん、さやねちゃん、仲間の存在が心強かったです。

 お父さんに一度、見てもらったとき、「もっと、旅人の疲れを出して」と言われました。臆病で、綺麗な音を出すだけの演奏は、意味がないと、気付かせてもらいました。えつこちゃんは、練習中も、「自分が出せる一番汚い音で、ロングトーンをしよう」と言ってくれたり、三人で、四分音符の出し方を研究して、特訓し、さやねちゃんやゆりかちゃんにもアドバイスを貰い、みんなで深めていきました。

■心を込めて演奏したい

 曲に、ストーリーを作って、曲の世界を表現しなければ、伝わらないのだと思いました。そのためには、演奏する曲の事も深く理解しないといけないのだと思いました。私は、そのところが稀薄でした。ただ、間違えないようにやるだけでは、もう嫌でした。

 曲の中の、ストーリーの主人公の気持ちになって、その心情や、風景を、音で表現して、大事にして、心を込めて、演奏したい気持ちが生まれました。

 ただ、正しいように間違えないように、いい子ちゃんのような演奏では、意味がなくて、それならやらない方がいいし、かと言って、今の世の中を風潮を象徴するような自己顕示欲の音楽には、絶対にしたくありません。

 練習時に、えつこちゃんが、「この曲を聞くたびに好きになる」と言っていて、えつこちゃんの、演奏する音楽に込めたい気持ちや、表現したい気持ちの強さ、曲に対する愛情を感じました。

「雪道を歩いているイメージ」と話してくれました。それに沿って、本番で着る衣装も、雪をイメージしたものにしました。

 チーム名は、えつこちゃん命名の「ヘルメス」です。「旅の守護神」という意味です。本番直前になって、下りてきた私たちに相応しい名称です。

 えつこちゃんの仲間に巻き込んでもらえたことの嬉しさを、身に染みて、実感していきました。みんなと練習していくごとに、私たちの曲となり、成熟させて、深くなっていきました。その過程で、今ままで封じ込めていた気持ちや思いが解放されていくのを感じました。

■ブラッシュアップ

 一方で、袋小路突破は、叫び方、魅せ方のブラッシュアップや、一人、一人のキャラクター設定などに取り組んでいました。高い声で叫ぶ人、低い声で叫ぶ人、「せいだ!」の部分をどう叫ぶか、試行錯誤が始まりました。

 まよちゃんは五歳の女の子、ゆりかちゃんは厳しいお母さん、やよいちゃんはなのはなの子、しなこちゃんは壊れた人形、私は暗闇に引き落とす人という設定の下曲に入るまでのセリフに命を吹き込んでいきました。

「行き止まりよ い き ど ま り」、「そう、袋小路と言ってもいいわ」、「そう、出口のない行き止まり」、「無理無理引き返す道はないの」

 セリフが、生きていきました。そして、一通り完成した形を、お父さん、お母さん、あゆちゃん、まえちゃんに見てもらいました。

 演奏し終わった最初の一言、「馬鹿馬鹿しい!」お父さんが思わず言った、笑顔の言葉でした。音楽性も何もない曲だけれど、何の枠にも囚われない、既存の枠を越えるものだと言ってもらいました。まえちゃんが「私も入りたい」と言ってくれて、この時を機に、袋小路突破に参加してくれることになりました。

「私の青いドラム缶と対象に、まえちゃんの赤いドラム缶を置けばいいんじゃないか」というお母さんの提案の下、チームのみんなで、新たなドラム缶を見つけ出し、赤いペンキで、塗ったり、準備をしました。

 青いドラム缶に「HOSI STAR」、まえちゃん専用の赤いドラム缶に「MAE HEART」の文字を、白いペンキで、書かせてもらいました。「MAE HEART」はやよいちゃんが提案してくれて、STARの対象で、HEARTです。前日の夜には、まえちゃんが来てくれて、チームのみんなで衣装の考案をしました。

■あるべき形に向かって

 本番前に、一度、あゆちゃんに演奏を見てもらいました。歌い方にも、ここをはっきりと歌う、ということや、ドラム缶を叩く位置も、一番音が低く鳴るところを叩けばいい、と教えてもらって、今まで感じていた違和感を改善することできました。

 ドラム缶の音が低くなったことによって、主旋律の歌のメロディが外れたような違和感がなくなり、ドラム缶の音が、ぴたっと曲にはまりました。あるべき形に向かう、求める気持ちを、教えてもらいました。

 求める気持ちをなくして、意欲も何もなくしていたら、絶対に分からなかったことです。

 練習している過程でも、他のチームのみんなが、それぞれの曲を奏でている音色が聞こえてきて、みんな向かう気持ちは一緒で、常に、みんなの存在を感じていました。時間がある限り、自分たちの曲として、あるべき形に向かって、深め、積み重ねていきました。 

 そして、当日を迎えました。朝から雪がしんしんと降る日でした。 この日の昼食は、ベーコン巻きのハンバーグが挟まったハンバーガーにピザ、マカロニチーズに、レタスの塩麹サラダ、あんこと柚子のコンポートのデザートというスペシャルメニューで、童心に返ったようなきもちで頬張りながら、とても幸せな気持ちで、頂きました。

 それぞれ、ヘアメイクや、衣装のセットなどをして、緊張と高揚の感情で、スタンバイしました。オープニングは、なおちゃんとまゆこちゃんの司会から始まって、楽し気なクリスマスソングを披露してくれて、気持ちが高まりました。

今回は、「NHFのど自慢大会」にちなんで、お父さんが、それぞれの出番を終えると、三種類の判断基準の鐘を鳴らしてくれます。

 第一チーム目は、さくらちゃんチームによる『脱いで』でした。この曲は、お父さんがこのチームにあてて、作詞してくれたものでした。被っている毛皮を脱いで大人になっていくといったような内容で、三人の気持ちと、これからの決意を見せてもらいました。

 可愛らしい歌詞とメロディで、「ふわふわ」「さむい」といった中毒性のあるフレーズが、耳に残りました。その後も、次々に、他のチームの演奏を見せてもらいました。

 ちさとちゃんとやすよちゃんによるフルートのアンサンブルも、フルートの透明な音色の清らかなメロディに心が洗われました。弾き語りのデュオ『ハイ・ホープス』も、二人の気持ちを受け取りました。なのはなに来て、どう変わって、これからどう生きていくか、その志を持って生きていこうという決心を見せてもらいました。

 のりよちゃんチームの『ジュピター』にも、大事なことを訴える普遍的な歌詞と、厳やかなメロディに乗って、そのチームのみんなの気持ちが、が伝わってきて、勇気をもらいました。なおとさんのオリジナル曲に、気持ちがスカッとしたし、ゆいちゃんのオリジナル曲に、気持ちが正されて、心が洗われました。

 どのチームも、それぞれにカラーがあって、訴えてくるものも、きちんと全部に伝えたい気持ちのエッセンスがあって、笑ったり、感動したり、涙が出たり、神聖な気持ちにさせてもらったり、色んな濃い感情を感じさせてもらいました。こんなに色濃く伝わってくる演奏ができるみんなと仲間でいられることに、誇りに思いました。

 そして、ヘルメスの番が回ってきました。緊張が高まる中、ステージに立ちました。演奏中も仲間の存在を感じて、臆病な気持ちを打ち消して、音が前、前へと出ました。私たちは、道を切り開く旅人なんだ、という誇りと自信に満ちていきました。それは、確かに自分の力ではありませんでした。

 曲を演奏し終わったとき、緊張で、目を瞑りたくなりましたが、お父さんから、合格の鐘を鳴らしてもらったときは、涙が出そうなほど嬉しかったです。技術的には、未熟だけれど、今の自分たちの気持ちを乗せて、このメンバーで演奏できたことが誇らしかったです。お父さん、お母さんにも、私たちを応援してもらっているように感じました。

 舞台からはけた後、みんなで喜びのハイタッチを交わしました。次々に、順番が回ってきて、袋小路突破隊の出番が来ました。

■最高のプレゼント

本番中は、あっという間で、何も覚えてないくらいだけれど、チームのみんなと一つになった楽しさと、見てくれているみんなにも楽しんでもらえたことだけは、覚えています。歌い終わった後、みんなが歓声と拍手とともに、笑顔を向けてくれて、アンコールも、してもらいました。とても晴れやかな気持ちになって、みんなに包まれているかのような暖かい気持ちになりました。偶然だったかもしれないけれど、必然的に結びついて、このメンバーで、『行き止まり』を演奏する運命だったのだと、強く実感します。

 そうして、表現して、全体が一つとなって、みんなと気持ちが通いながら過ごせた、とても素敵な一日でした。私にとっても、みんなにとっても、最高のクリスマスプレゼントでした。

 本番までの課程は、宝物となりました。お父さん、お母さんが言ってくれるように、本番までの課程が主軸で、本番はおまけという意味が、よく分かりました。

 私は、できることも少なくて、役に立たないのではないか、と思うばかりでしたが、そう思う必要はありませんでした。どんな時も、共同体で、一緒でした。

 チームのみんなと、色んな時を過ごして、色んな感情も共有して、いつもよりも距離が、グッと近づいて、仲間の存在を強く感じました。そして、このメンバーだからこそ、たどり着けるあるべき形にたどり着きました。プレイヤーでいる楽しさ、みんなと一緒に作り上げる嬉しさを、身に染みて、知りました。

 このクリスマス会を経て、一段、いや、二段も三段も飛び越えられたような気がします。もっと、伝えたい、気持ちを前に出して、仲間と一緒に表現すること、その嬉しさを知りました。

 自分に表現することは無理だ、と諦め、狭い世界で生きていたけれど、その枠を、みんなの力で壊してもらいました。求める心を養わせてもらいました。気持ちも、心も、解放してもらいました。

 ドラム缶をぶっ叩くたびに、一皮むけて、ドラム缶とともに、ブレイクスルーしていきました。お父さんは、「表現する事は、人間の本能的な喜び」と話してくれて、私は、その喜びを、身に染みて、教えてもらいました。

 自分にも、表現できるんだという自覚と、その誇りと自信を貰いました。何より、独りよがりではなくて、みんなと協力して作り上げられたことが、大きな成功体験で、何よりの喜びです。

 自分の中に、大切な、大切なものができました。チームのみんなにも、作詞をしてくださったお父さんにも、感謝の気持ちで、いっぱいです。

 とても、大切な経験になりました。次の機会に向けて、ルーマニア民俗舞曲の次の章の曲をしようと話していたり、袋小路突破隊では、叫び方のブラッシュアップをしようと、話しています。

 どんなことも、みんなと一緒なら、可能にできます。時間の制限はあれど、不可能はありません。また、みんなと、これからも表現できることが、嬉しくて、嬉しくて、本当に嬉しいです。次に向けて、また頑張っていきます。