【10月号⑦】演劇「私たちが求めていく世界 ―― あゆちゃんを演じることで見えたもの ――」 やよい

りゅうさんとあゆちゃんの結婚式の第二部で行う、約一時間半の音楽劇。

 それは、りゅうさんとあゆちゃんが出会うまで、二人はどんな環境で、何を思って、生きてきたのか、そして、りゅうさんとあゆちゃんがはじめて出会って、二人はどのようにして、古吉野で上げる結婚式までに至ったのか。

 お父さんが脚本を書いてくださって、あゆちゃん、なおちゃんも一緒に考えたというこの脚本には、りゅうさんとあゆちゃんの素敵なストーリーが詰まっていました。

 脚本ができたのは、本番の約二週間前でした。

 体育館で、なおちゃんが役者となるひとり一人に脚本を手渡ししてくれました。

「やよいちゃんはあゆちゃん役です」

 そういって、なおちゃんが私に脚本を渡してくれました。

 私はとても驚きました。あゆちゃんを演じることができるなんて、なんて光栄なことなんだろうという嬉しい気持ちと、あゆちゃんを演じることができるだろうか、という不安な気持ち、二つの気持ちを同時に感じました。

 りゅうさん、あゆちゃん以外にも、脚本の中には、なのはなのお父さん、お母さん、りゅうさんのお父さん、お母さん、盛男おじいちゃん、河上夫妻、その登場人物のすべてが実際に存在している人でした。

 実際に存在している人を演じるなんて、今までにはない新しいことでした。

 では、実際に存在している「あゆちゃん」という人をどういう風に演じればいいのか。 あゆちゃんの声、仕草、歩き方、話し方を真似ればよいというものではありませんでした。実際、そのようなことは不可能に近くもあります。

 中学生の年から登場するあゆちゃんの中の気持ち、心を表現するのだと思いました。

 

 

 あゆちゃんはなのはなファミリーのスタッフさんのリーダーとして、みんなを守り、正しい方向へいつも引っ張ってくれます。

 常に、前向き、明るく、優しく、強く、そういつづけるあゆちゃんの背負う物は、私にとって計り知れない物であると思います。

 あゆちゃんの気持ちを演じることは今の私に取っては、足りない部分が多いと思いました。それでも、「演技」という表現手段の一つで、結婚式に来てくださるお客様、なのはなのみんな、そして、りゅうさん、あゆちゃんのために、素敵な劇にするため、劇に出る登場人物の一人として、精一杯頑張りたいと思いました。

 

 

 まずは、台詞の暗記から入りました。

 台詞の暗記をはじめると、頭の中に疑問が沢山わきました。

 中学の短期留学でオーストラリアに行き、日本に帰ってきたとき、あゆちゃんは、オーストラリアの自然のおおらかさや、人の心の広さ、あゆちゃんが求めていたものがオーストラリアにはあり、高校生活をオーストラリアで送りたいという決心、お母さんに伝えます。

 このとき、あゆちゃんは、いけるだろうと思う確信の元に言ったのか。それとも、いけないかもしれないけれど、と重いながら懇願するようにいったのか。

 りゅうさんとあゆちゃんがはじめて出会ったとき、あゆちゃんはりゅうさんに対してどうように思ったのか、などなど。

 分からないことを、あゆちゃん本人に尋ねて、そのときのあゆちゃんの気持ちを教えていただきました。

 りゅうさんとあゆちゃんがはじめてあったとき、あゆちゃんは好意的なりゅうさんを、それならばと、ウィンターコンサートを見に来てもらいたいと、コンサートに誘いました。それは、なのはなの仲間になってほしいというあゆちゃんの気持ちでした。

 お母さんはいつも仲間探しをしているように、あゆちゃんはそのとき仲間を見つけたのだと思いました。

 何よりも、まずはなのはなの輪の中に巻き込みたい、というあゆちゃんのこのエピソードは、あゆちゃんの中には、いつも一番になのはなファミリーがあるのだなと、とてもあたたかく感じました。

 

 

 約一週間ほどたち、お父さん指導による演劇練習がはじまりました。

 ワンシーン、ワンシーン見ていただくごとに、お父さんの中から、立ち位置、身体の向き、台詞の言い方、気持ちをたくさん教えていただきました。

 今まで、ひとりで練習していたたため、どう演じればいいのかわからない、という気持ちの曖昧さから、演技も曖昧になってしまっていました。

 けれど、お父さんに見ていただくと、その曖昧さがどんどん消し去られていきました。

 お父さんの中には、常に「こうあるべきだ」という理想、形が具体的にはっきりとあり、その形を知らない私は、演技指導していただけることがとても面白くて、嬉しかったです。

 演技は、自分のすべてが見えてしまいます。逃げずに、自分の声、身体、すべてを使って堂々と表現することが演技には求められました。

 

 

 お父さんの演劇練習をしていて、気づいたことがありました。

 私はたくさん種類ある人の気持ちを、あまり知らないこと。自分の中の気持ちの材料が少ないこと。私は、人間が本来持つべき喜怒哀楽を、なのはなにくるまでの送ってきた人生の中で身につけられなかったのだと思いました。

 二つ目は、その感情をどう人にみせるか。恥ずかしいとき、嬉しいとき、怒っているとき、人はどのような言動、態度になるのか、わかっていないこと。

 そして、感情を人にみせるときの演技の表現方法を知りませんでした。

 例えば、あゆちゃんがアメリカの大学を卒業し、日本に帰ってくるシーン。

 あゆちゃんは、アメリカの大学で受けた社会学の授業で、課題映画を見てました。その映画を題材にお父さんから講義を受けていたから、レポートを余裕でまとめると、先生にものすごく褒められたことを自慢げに嬉しそうになのはなのお父さん、お母さんに伝えます。

 約十行あるこの台詞をどのように言えば、あゆちゃんの嬉しさが見ているお客さんに伝わるのか。

 私ははじめ、棒立ちで話してしまっていたけれど、お父さんに両隣にいるなのはなのお父さん、お母さんの周りをくるくる周りながら話せばいいんだよ、と教えていただいて、その通りに動きながら台詞を言うと、ぴたっとはまったように演技がしやすくなりました。

 こんな風にシーン毎の演じ方を知れることが、とても勉強になり、そして、人としての気持ち、その気持ちの表現方法を知っていける、大切な勉強だと心の底から思いました。

 

 

 お父さんは、何に対してもそうだけれど、演劇練習ではとても情熱的でした。なのはなにいるみんなは、俳優でもなく、演技経験などない人ばかりです。けど、お父さんは、あるべき形を求めて、諦めずに、誠実にこうあるべきだというところから、ずれてしまっているものは、具体的にどうすればいいか、とみんなに伝えてくださいました。

 厳しくもあるけど、その演劇練習の時間がとても面白くて、私も演技の仕方を間違えてしまって、お父さんに怒られてしまっても、反省するということが今回は一切なかったです。これは、私の中で少し変化した点だと思います。

 私は、自分が出ていないシーンも、お父さんが演技指導するところを見学しました。

「あゆちゃんを演じるとき、一番意識するべき大切なことは何でしょうか」

 お父さんに、そう尋ねました。

「いつも前向きで、明るくあり続けること、そして、その強さを意識することがないかな」
 と教えてくださいました。

 あゆちゃんは、いつもみんなのことを思って、みんなのためにという利他心一本で生きています。

 今の私では、気持ちがつたなくて、未熟で、演じることは、難しい、と思いました。

 普段から、あゆちゃんを強く意識するようになりました。

 すると、私の判断や、行動の中で、私はこうするけれど、あゆちゃんはこうしないということが自然と見えてきました。

 それは、私の課題でした。

 

ドレス姿でボーカルを勤めるあゆちゃん

 

 あゆちゃんは、なのはなファミリーのみんなのためにという気持ちを何よりも大切にし、私は自分の役割が失敗することなく滞りなく進めることを大切にしてしまっていました。

 みんなの気持ちよりも、自分のプライドを大切にしてしまっていました。

 ときに笑顔でいることを忘れ、焦る姿や、困った姿をみんなの前でさらしてしまっていました。

 あゆちゃんを演じるために、普段の自分を変えなければいけないと思いました。

 自分の役割しか見えなくなる傾向がある私は、夜の有志の飾りの手伝いや、台所の手伝いなどに参加しました。

 私が感じた課題はこれからもずっと、変わるための努力をしていかなければならないと思います。

 あゆちゃんは畑に出てリーダーになったとき、作業が終わるといつも、みんなに、

「ご苦労様でした。偉かったね。みんなよく働いたね」

 と労いの言葉をみんなにかけてくれます。

 あゆちゃんは、いつもみんなと同じところに心を置いていました。奢ることなく、謙虚にいつも、みんなによかれという気持ちで毎日を過ごしているのだと思いました。

 私は、ときに謙虚さをなくし、偉そうなことをしてしまうときがあります。あゆちゃんようにあらねばならいと強く感じて、本当に変えていかなければ、今の苦しい生きにくい世の中を優しい社会へと変えていくひとりにはなれないと思いました。

 

なおちゃん演じるりゅうさん

 

 本番に近づくにつれて、ステージの上で演技をすることが楽しくなりました。

 普段の私は、間違えてしまうことが怖いという気持ちがまだ少し残っていたり、人と話すというに緊張感を感じたりと、自分の中に不安などの雑味がありますが、ステージの上であゆちゃんを演じるときは、そんなことは一切自分の中から消え去って、自由になりました。

 私はあゆちゃんの台詞をいうときは、天真爛漫、前向きで、明るいあゆちゃんで、私は解放されて、表現する喜びを感じていたと思います。演じることがただ純粋に楽しくって、もっと演技を知りたい、人の気持ちを知りたいと思いました。

 りゅうさんのあゆちゃんへのプロポーズの言葉は、「僕と一緒にあたたかいなのはなファミリーをつくっていきましょう」でした。

 別々の道を歩んでいたりゅうさんとあゆちゃんは、二人が出会って、りゅうさんは、なのはなファミリーの生き方に共感し、「今の苦しい世の中を変えるために、優しい社会基盤を作っていく」というなのはなファミリーと、あゆちゃんと同じ気持ちで生きて行こうという決心をし、これから二人で力を合わせて生きて行くのだと思います。

 私も二人とおなじ気持ちで生きて行こうと思います。二人で力を合わせて、私も、りゅうさん、あゆちゃんのように生きたいです。

 あゆちゃんを演じることで、たくさんのことを勉強させていただきました。

 本当に有り難い気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。