【山小屋便り4月号】「キャベツの定植 ―― 滝川横畑で育てる、『滝川のおきな』――」 りんね

 最近の空模様は気難しい。春への移ろいに、気持ちがそわそわとしているのか。1日の中で雨が降ったり、晴れたり、時には雪やあられが降ったり……。そんな天気が、何日も続きます。

 そうして畑の土は湿り気を帯びたまま、何日も経過してしました。

 けれど、吉畑手前ハウス内で育っているキャベツの苗は、畑の土の具合などお構いなしにすくすくと成長し、畑に定植される日を今か今かと待っています。

 まさに、キャベツが無事に定植される時はワンチャンスと言えました。

■滝川横畑で

 3月12日、畑Bチームが担当する、全4弾中、3弾までの夏キャベツの定植をしました。

 今回、夏キャベツを植えたのは、滝川横と、滝川奥畑です。滝川横は、約16アールの畑です。

 なのはなでは、毎年、赤ちゃんが中に入っているんじゃないかと思えるほど、極大で、ぎゅっと詰まった美しいキャベツが収穫されます。

 今年の夏キャベツは、Bチームのみんなで案を出し合い、最終的に〝滝川のおきな〟という名前に決定しました。

 シンプルで印象強く、とても分かりやすい名前です。

 なのはなのみんなの中では、〝滝川のおきな〟という名前がすっかり定着しています。

 日々の作業の様子に〝滝川のおきな〟が、まるで見知った滝川に住んでいるおじいちゃんのように語られ、みんなにも親近感を感じてもらえています。

 定植の準備段階ですが、トラクターをかけてもらった後、最初の大人数作業は、畝立てでした。この作業は、いつも土日になのはなに来て、たくさん助けてくれるりゅうさんも一緒でした。

 滝川横は長方形をしていて、まっすぐに長い畝を立てる必要がありました。16人程で一気に1畝に入って畝を立てました。

 まゆちゃんが、4人ごとに1人リーダーがついて、畝がまっすぐにつながっているか、畝間の間隔がちゃんと取れているか、しっかりと確認を取りながら進められるように指揮をしてくれました。

 私のチームでは、なおとさんがリーダーを務めてくれました。1人ひとり、畝たてをしているとどういう傾向になりやすいのか、全員が揃うためには1人ひとりがどういう意識を持てばいいのか、わかりやすくアドバイスをくれました。

「あんまり神経質になりすぎなくてもいいんです。ただ、このラインを見て、ここがまっすぐになるようにだけ意識すれば、絶対にうまくいくから」

 鍬使いの達人であるなおとさんは、なおとさん独自の言葉で教えてくれます。

 畝たては、単純なようで意外と難しく、コツがいります。奥深いです。

■みんなの力

 だんだんとみんながコツを掴んできたとき、「いい感じじゃないですか」となおとさん自身満足げに、にやりとした笑顔で声をかけてくれました。そう言ってもらえると、もっとなおとさんに喜んでもらいたくもなり、チームでまっすぐな畝を繋げられるよう、気合が入りました。

 次の畝に入るときも、「次の畝、入りまーす」「はーい!」と元気よく声掛けをして、チームのみんなを感じながら、畝たてを進めていきました。

 なおとさんチームにはりゅうさんもいて、りゅうさんの腹の底から響くような、男気溢れる快活な掛け声を聞くと、こちらも元気が湧いてきました。

 大人数で、短時間でみるみる内に長い畝が完成していきました。作業終わり、畔から畑を見晴らすと、こんなに長い畝を、こんなにたくさん立てたのだと、単純なことですが、感嘆せざるを得ないスケール感でした。

 なのはなではよくあることですが、1人では到底できないことも、みんなで一緒に力を出せば、本当に大きな仕事ができます。土がふかふかのままの、晴れの内に畝たてを終えることができて、よかったです。 

 定植は、全部で2436株という、大きな仕事でした。まゆちゃんが全体を、しほちゃんや、やよいちゃんや、のりよちゃんが、各所を見てくれて、15から30人といった大人数作業で植え付けられました。

 毎弾、1つの畑で同時並行で畝ならし、植え付け、水やり等の作業が大規模に進められていきました。

 2月27日。第1弾の定植日は、終わりに近い雪がちらついていました。

 滝川横畑への移動時、乗用車内でななほちゃんと「気合だ!」と言ってお互いを鼓舞しました。

 子供は風の子。なのはなの子にとって、この日の雪など綿埃のようなものでした。強い気持ち、熱いパッションの前に、もう春も目前の雪模様は敵ではありません。

■いよいよ植え付け

 畑へ着くと、すでに滝川奥畑では、先行部隊による定植が終わりかけていました。私たちは、滝川横の奥の畝から、苗を置いていくところからスタートしました。

 まず、プラグトレイの底をぽこぽこと指で押していきます。トレイ内はほぼ全ての枠が埋まり、定植に適したサイズ感のキャベツが並んでいました。すごい発芽率です。このキャベツたちからは、多少のことではぶれない安定感と強さを感じました。

 トレイから出した苗は、50センチ間隔で、1条、畝の真ん中に並べていきます。今年、須原さんたちが製作してくれた、五センチごとに区切られ、10センチごとにペンキで鮮やかに塗り分けられた測り棒で株間を測り、苗を置きます。頭を使わずとも、視覚的に非常にわかりやすく、私はこの測り棒にかなり助けられ、作業効率も上げられています。

 いよいよ、植え付けです。

 ボコボコした土塊は避けて、柔らかく細かい粒子の土に植穴を掘る。浅植えで、培土が隠れるよう、また、苗がしっかりと立てるように、適度に土寄せをする。定植の基本は変わりありませんでした。

 今回のキャベツは、なんだかとても丈夫に見えました。3畝半、第1弾の植え付け30分もしないうちに完了しました。

 おっと、次の作業へ移ろうとするとき、滝川横畑の畝間に伸びているホースの連結部分が外れ、水があふれ出しているのを見つけました。

「ストップ! ストップでお願いします!」私は慌てて、エンジン側にいる人に言うべきことを、ホースの先を持っている人に言ってしまって、水は止まってくれませんでした。

 水に濡れながらも、ホースをなんとか繋ぎ留めました。しかし、手を離すとまたもや分断。ねじが緩んでしまっていました。もう一度、落ち着いて繋ぎ留めて、ねじを右回りに回転させ、きつく締めました。

 ホースの連結部分が外れてしまう失敗は、私も以前何度か経験したことがありました。

 ホースが長く、全容が掴みにくいために、連結部分を無理な力で引っ張ってしまうことで起こってしまう問題です。いくらねじが頑丈に締まっていても、なのはなの子が全力で引っ張ると、取れてしまいます。

 それには、畑ごとに無理のないホースの扱い方を身につける必要があります。失敗するから学べることがあります。これを機に、みんなが連結部分にゆとりを持たせる意識が得られました。

 その後の流れで、私はホースの水やり隊の補助に入りました。

 見ると、ホースがかなり絡まっていました。もっとホースを奥まで伸ばしたいようだけれど、これでは伸ばせない。一人で絡まったホースと格闘していたのですが、容易ではありませんでした。

 ゆりかちゃんがさっと手を貸してくれて、2人で絡まりをほぐしました。1人よりも2人で、お互いのやりたいこと、心の内が一致できていると、ホースは格段に扱いやすくなります。そうしていると、「もう大丈夫です。届きました!」と明るい声が奥の畑から聞こえました。よし、よかった。安心しました。

 最後は、もう終盤に差し掛かった、滝川横の水やりの手元を補助しました。はじめはジョウロのヘッドをつけていたのですが、元からヘッドに亀裂が入っていたそうで、破損し、かなり強い勢いのまま直で水やりがされており、水やりをしていた子もびしょ濡れで、キャベツも倒れてしまっていました。

(これは改善しなければいけないな……)と心の内で思いました。

 その夜の集合で、キャベツの倒れた苗を立てるために、土寄せをするかどうかの話題が上がり、お父さんは、必要ないと教えてくださいました。

 それくらいではキャベツは大丈夫、雨で濡れた畝に入るくらいなら、しなくていいとのことでした。

 お父さんの言葉通り、次回畑にいったときには、キャベツたちはひとりでに自立しており、問題なく元気な様子でした。定植時に感じた、このキャベツたちは多少のことでは動じなさそうだ、という予感が当たっていたようでした。

■キャベツを思って

 3月3日、桃の節句。第2弾の定植時は、永禮さんも風のように助けに来てくれました。

 この日、私は主に、ゆりかちゃんと一緒に、定植を終えたキャベツの水やりをする役割でした。

 私は、水やりの作業が物凄く好きです。去年の夏に様々な畑で、高低差、エンジンポンプ、発電機、あらゆる方法で水やりをしました。長いホースの引き回しも、かなり鍛えられました。

 だから、今回もかなり気合が入っていました。(前回の定植時の水やりから、改善したい。もっといいやり方があるはずだ)その思いが燃えていました。

 相方のゆりかちゃんも、百戦錬磨の水やりのプロフェッショナルでした。

 ゆりかちゃんと軽トラで現地へ向かう際、「時間はたっぷりあるから、大丈夫、きっとうまくいくね」、と言って一緒に気持ちを高めていきました。本当にいい仕事になりそうな予感がしました。

 まず、ゆりかちゃんと協力して、ホースをまっすぐに伸ばし、定植されたばかりのキャベツの畝に、すぐに水やりが始められるようにセットしました。

 約50メートルのホースはとても、重いです。場合によってはサンタさんのように担いで、豪快に畝間を引っ張っていきます。

 特に気を付ける点は、ホースが苗にぶつからないようにすることです。折り返す場合は、畝の端に1人がついて、しっかりとホースが畝に侵入しないようにして、ホースを引いていきます。

 決して、ホースの重さに惑わされてはいけません。落ち着いて、この水やりは何のためにあるのか、それはもちろん、定植されたばかりのかよわい小さな苗たちが、しっかりと地に根を張るためであると、意識しなければなりません。私たちが何よりも大切にすべきは、今回の定植で主役を務めるキャベツたちでした。

 ホースの一方は長い畝の手前側から、もう一方は奥側から真ん中へ向かって、行き会うように設置しました。ホースは端から端まで、折れたり、絡まったりすることなく、まっすぐに伸びています。準備が整いました。

 2本のホースの先端に、奥側はふみちゃん、手前側に私が付きました。あとはゆりかちゃんがエンジンをかけてくれるのを待つのみです。エンジンがかかると、それからは水がノンストップの勝負が始まります。最初は強い水圧が来ることを予想したので、ジョウロのヘッドはつけずに、心して待ちました。

 ゆりかちゃんがリコイルを引いている姿が見えました。いよいよエンジンがかかります。

 ホースの先端にジョウロのシャワーヘッドをつけることで、水圧が分散され、勢いよく水をやっても、土を窪ませて、苗の根を露出させたり、苗を倒れさせたりすることを、全く無くすことができました。

 また、ヘッドをつけていると放射状に水がでるため、ヘッドを地面になるべく近づけて水をやると、苗に直接水をかけずに、根本の際まで水をやることができました。

 適度な水圧、定植されたキャベツに優しく、よく土に浸み込んでいく冷たい水。

「ああ、私はこういう水やりがしたかったんだよ!」と心の中で叫びました。

 ジョウロのヘッドを、ホースの先端に取り付けるというのは、やよいちゃんが考え出したことです。

 今回、大成功に感じた水やりは、去年の夏から、水やりシステムをよりよいものへしていくために、たゆまぬ改善への努力を積み重ね続けてきた、やよいちゃんの執念の賜物と言えました。ああ、やよいちゃんありがとう。やよいちゃんのおかげで、こんなにも快適で気持ちいい水やりができるようになりました。感謝があふれ出します。

 水やりは最後の畝間まで順調に進み、作業時間内に、大幅に余裕を持って完了しました。

■達成感

 作業からの帰り道、全体を指揮してくれていたまゆちゃんとハイタッチをしました。

「あー、ほんまに幸せ。さいこー! 雨前に定植終わったよー! みんなほんまにありがとー!」まゆちゃんの朗らかな声が、晴れた空に響き渡りました。

(ああ、そうだよな。Bチームのリーダーで、責任があるまゆちゃんは、天気も不安定だし、時間も限られているし、できるかできないか、とても緊張していたよな。無事に終えられて、本当によかったな)と思いました。

 この日は、久しぶりにのどの渇きを感じるほどの陽気で、翌日からの雨も考えると、ワンチャンスで最高の定植日和だったなと思います。

 第3弾の定植には、別作業があり、私は入らなかったのですが、夕食の席で、無事に終えられたことを聞きました。

 みんなのコメントを聞くと、ああこの日も、とてもいい空気で定植作業が完了したのだと感じました。

 残るは第4弾、約400株です。全体の4分の1にも満たない数なので、3弾までを乗り越えてきたみんななら、余裕を持って定植することができると思います。

 〝滝川のおきな〟は、5月いっぱいを使って収穫していく予定です。なのはな自慢の夏キャベツ、今年もしっかりと大きくなるように、願いを込めて見守っていきます。