「宝物の一夜」 まあ

4月6日(月)  

  “今晩、霜が降りる”
-霜予報を聞きつけ、桃を霜から守る為、急遽、結成された
 その名も、「チームMST(M桃のS霜T対策)」【まゆちゃん命名】。
 あんな隊長のもとに、のりよ隊員、まゆ隊員、ひろこ隊員、りんね隊員、そして私の6人が集まった。

 【AM1:30】
 音楽室で眠りについていた私たちは、のりよちゃんの携帯の音で目を覚ました。
あんな隊長からの出動命令だ・・・!

 眠たい目を擦りながら、防寒具を上から羽織り、いざ出発!
 外に出た時のひんやりと冷たい空気にも目が覚めたが、それより何より、月がとても綺麗でその美しさに目が覚めた。みんな一瞬立ち尽くした。いつも太陽の光を通して見る景色が、月の光で見える。満月に近いこともあるとは思うが、こんなにも月の光は、強かったのかと驚いた。

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 そしてステップ21に乗り込み、私たちは、始めに、開墾畑へと向かった。
 畑に着き、チャッカマンで1つ1つ火を焚いていった。
 一斗缶の中には、米ぬか、鉋屑、籾殻、廃油、灯油・・・、1晩燃焼し続ける為の資材が入っている。これはお父さんとあんな隊長が長年、積み重ねてきたもので資材の中身も、配合のバランスも全て計算されている。午後にあんな隊長とこの一斗缶を準備し畑に、置きに行った時、あんな隊長は、1本1本の木・枝、そして畑全体のバランスを見て、配置場所を緻密に決めていた。あんな隊長が心を遣って、桃を見ている横顔は、それはとても綺麗だった。あんな隊長がすることには、いつも意味があり、根拠があった。

 大きな桃畑に点々と火が燃え上がる姿は、とても幻想的だ。
 桃が炎の光でライトアップされている。人工的な照明ではない。そして燃え上がる炎は、一見、小さいけれどとても暖かい。自然の力の大きさを感じた。

 一度、古吉野に戻り、仮眠を取った。
 一時間後にまた出発する。ドキドキして眠れない。

【AM4:00】
 かと思いきや、以外に眠れた。
 またのりよちゃんの携帯の音と共に目覚め、みんなで車に乗り込んだ。
 
 寒さが一段と増している。
 マイナス4℃を記録した畑もあった。1時間に1度ずつ下がるのだと聞いて、驚いた。そこから日中は、最高15度まで上がることを思うと、レオナルドではないけれど、地球は生きているのだと思った。地球が生きているが故に起きる、「霜」から桃を守る為に私たちは、こうして動いていて、地球と桃と共存しているのだなと思った。

 月がさっきよりも低く、大きくなっている。色もオレンジ色で少し不気味。チームMSTは、チャッカマンを竹に変えて、一斗缶の中を混ぜた。火が消えてしまっているものには、鉋屑を入れて、もう1度火を灯す。
 真っ暗な桃畑に点々と燃え続ける炎たち。
 ただただこの景色を見ているだけで、胸がときめいて、寒さなど感じない。
 炎が点いていると、ずっと桃を守り続けてくれていたことに「ありがとう」という気持ちになった。
 1周を終え、そのまま2週目に入った。

 5時頃、石生の桃畑に向かう途中、滝川の橋を通った時、
 サーモンピンクの朝焼けと桜が水面に照り返されている景色を見た。
 テレビや本に出てくる絶景の映像かと思った。いや、それ以上だと思った。
 この景色は、今しか見られなくて、その光景を自分の目で見ているのだと思うと、感慨深いし、あまりにも美しいものを見ると、嬉しい気持ちよりも、どこか切ないような、涙が出そうな気持ちになるのが不思議だなと思った。
 
 あんな隊長の計らいで、6時前に石生の桃畑で、朝日が昇る瞬間を見た。
 始めに朝日が見え始めたと思ったら、もの凄いスピードで進み、まん丸のいつもの太陽の姿となり、私たちを照らした。
 「朝日が昇ったら、あとは気温が上がるから安心だ。みんなお疲れ様でした。桃を守れました」
 そう、あんな隊長が満面の笑みで言ってくれて、(あぁ来て良かった)と心から思った。
 この20分くらい前のことになるが、
 そろそろ朝日が昇るかどうかという時、あんなちゃんが
 「みんなは、先に石生の桃畑に行って下さい」と言った。
 けれど、まゆちゃんが「最後までみんなでやろう!」と言った。
 みんなで猛スピードで梅の木と、古畑の見回りをして、この石生の桃畑に来たのだ。
 あんなちゃんの気持ちも、まゆちゃんの気持ちも嬉しかったし、メンバー一人一人が同じ気持ちだった。この一晩、霜対策を一緒に行ったみんなと朝日が昇る瞬間を見られたことは、何にも変えられない宝物になった。

 最後にもう1周、念のために、桃畑を全て見回ることにした。
 小鳥や、保育園の鶏、犬の鳴き声が聞こえてくる。
 帰り道、板坂さんがシロを散歩させていた。とても早いなと思ったし、静かな夜が明けまた1日が始まったのだと思った。

***
 朝、目が覚めるとみんなが布団からいなくなっていた。
 朝食にいくと、りんね隊員が「おはようございます」と朝食当番の列に並んでいる。その颯爽とした姿がカッコイイと思った。昨日、布団を敷く時、
 「まあちゃんから聞いていたから・・・」と言ってくれた、りんねちゃん。
 私が桃の霜対策に行ったお話を覚えてくれていて、今日一緒に行けることが嬉しいと言ってくれて、それも嬉しかった。

 午前に仮眠の時間を貰った。
 防音で静かで真っ暗な音楽室。始めはあまり眠れなかったけれど、10時を過ぎた頃にガクっと眠りに落ちて、昼食の10分前まで眠っていた。
 起きた時、昨夜の霜対策が夢だったのではないかと思って、でも隣にはまゆちゃんが眠っていて夢では無かったのだと不思議な気持ちになった。
 本当に幻想の世界に行っていたみたいだった。霜対策をしている時、時間の流れるスピードもあまりにも速くて、あっという間に1夜が過ぎた。
 あの一晩は、きっと神様のプレゼントだったに違いないと思った。