脚本で辿る ウィンターコンサート2019【6】

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照明を舞台全体につけて、演奏開始。
演奏の前で、明石とジャンが機械説明のジェスチャー。

演奏 ザ・ジャーニー(ギターアンサンブル)
――トミー・エマニュエル
【編成】エレキギター1名、アコースティックギター4名

(以下は、ジェスチャーで)(機械と演奏者のレイアウトを考える)

明石
海水や地面は、太陽の熱を貯め込んでしまう性質がある。
だから、温暖化を防ぐには、
海面や、地面まで、太陽の光が届かないようにすればいい。
そこで、太陽の光が届かないようにするにはどうしたらいいと思う?

ジャン
雲で空を覆ってしまう、ということでしょうか。

明石
その通り。
では、雲は何でできている?

ジャン
水蒸気です。

明石
レオナルドは、水蒸気をたくさん作り、雲で空を覆う、
ということを考えたんだ。
いつも曇り空だったら、気温も、地温も、海水温度も上がらない。
まず1つめの凹面鏡は、
海や湖の水を太陽熱で蒸発させるためのもの。
そして、水晶玉は、太陽光の方向を正確に感知して、
いつも太陽のある方向に凹面鏡を向けるために使うんだ。

ジャン
まあ、私もなんとなく、それはわかります。
わからないのが、ヘリコプターです。何に使うんです?

明石
ああ、これは私も一番、頭を悩ませたところだよ。

ジャン
後に、このダ・ヴィンチのヘリコプターにインスパイアされて、
いまのヘリコプターが発明された、といわれていますよね。

明石
しかし、この形を見てみろよ。どんなに頑張ってこれを回しても、
とても空高く舞い上がる、とは思えない。
だから、研究者の中には、こういう人もいる。
「ダ・ヴィンチは王宮で開かれる演劇の演出も担当していた。
その演出のために作った大道具だから、実用的には役にも立たない」と。

ジャン
なるほど。ただのオブジェ、飾り物ではないか、ということですね。

明石
そうなんだ。
でも、飾り物だったら、サルバトール・ムンディは3つ、と言わない。
何かに使うはずだ、と考えていたら、ひらめいたんだ。

(ジャンが身を乗り出してきく)

明石
これは船に取り付けて、風を受けるための帆なんだよ。

ジャン
(ガクっと)だって、これじゃ風を受けて進めないのでは……。

明石
そうなんだ、前に進むための帆じゃないから、
こういう丸い形をしているんだよ。
いいかい、よく考えてごらん。
船に、水晶器と凹面鏡を載せて海に出る。
もし、水蒸気を作るための船だとしたら、ずんずん走ってはまずい。
いいかい、同じ水面に太陽光を集めて、水面は海水が沸騰する、
そうして同じところを船がゆっくり回っていくとしたら、
どんな形の帆がいいと思う?

ジャン
そうか。
丸くしてある帆を使うことで、適度に風が逃げて、
これを帆として取り付けた船は、丸く同じところを回転する。
すると、1か所の水を連続的に蒸発させることができる。

明石
そういうことだ。

(ここまでジェスチャー)
ジェスチャーが終わったら、ジャンと明石は左右から、
ギターの演奏者に向けて手を広げてフリーズ。

演奏が終わったら、上手手前だけ照明。照明の中で2人の芝居。
奥の照明は消した中でギターのはけ。

ジャン
なるほど……。先生、お見事です!
つまり、凹面鏡で海水を蒸発させる、水晶で太陽の方向を見る、
そしてヘリコプターと呼ばれているものは、
船を丸く進ませるための帆だったということですね。

明石
はい、パチパチパチ。(シラケている)
では、問題です。
ダ・ヴィンチの温暖化防止のための機械を発表したら、
それを実行してくれるのは誰でしょうか?

ジャン
……。みんな、びっくりすると思います。

(このあたりから、舞台手前中央で芝居。手前全体に照明)

明石
残念、不正解。
びっくりして、私を笑い者にして、そして忘れる。
誰も、実行する人はいない。
……アカリのいう通りなんだ。
機械をいくら今風に設計し直して、
うまく機能するようにしたところで、
モラルがついていかなかったら、使えない。

二酸化炭素を世界で1番出しているのは中国、2番はアメリカ。
そのアメリカのトランプ大統領はこの11月に、
世界中で合意した温暖化ガスを減らすパリ協定から抜けると発表した。
アメリカの経済力を落としたくないからだ。
モノをたくさん作る競争を、まだやめたくないんだよ。
誰が温暖化防止のために動くものか。

ジャン
……、では、先生は、どうすると?

明石
私は、アカリが好きだった。
あの正義感、あのまっすぐさ、あの大胆さ、力強さ。
それこそが、すべての芸術の到達点なのだ。
アカリが、私がずっと芸術に求めていた答えをくれたんだ。
そのアカリに、私はノーを出されてしまった。
アカリを、僕は失ってしまった。
いや、この欲にまみれた人間世界が、彼女を幻滅させ、そして失った。
私だけじゃない、もう人間界はおしまいだ。

アカリがそうだったように、きっと今も、
罪のない多くの子供達が、日々、傷ついているに違いない。

ほんとうに、人間なんて、人間なんて、おおばかやろーだ。
たぶん、ダ・ヴィンチの機械も、
どこで、どんなふうに発表しようとも、
無視されて、おしまい。誰も本気では動かない。
そして、数年のうちに、人間界は、滅びの道へ入っていく……。

もう、店をたたんで、引退しようかな。
きみは、フランスのルーブル美術館に帰ったらいいよ。

ジャン
いや、僕は……。(どうしていいかわからない)

照明5割ダウン。役者はける。

あゆ、センターのドアから出てきて、ボーカル
あゆが出たら、照明をオールウェイズにして、演奏開始。

演奏 オールウェイズ・リメンバー・アズ・ディス・ウェイ
――レディ・ガガ
【編成】ボーカル、エレキギター、アコースティックギター、キーボード、テナーサックス、ベース、ドラムス

照明5割ダウン。
明石とジャン、センターにスタンバイ。
照明がついたら、すぐに、
上手から、精霊の衣裳ではないアカリがやってくる。

明石
あ、アカリ! ……。(オロオロしている)
も、戻ってきて、くれたのかい?!
私たちを、見捨てたんじゃないのかい?!

アカリ
え、明石先生、なに言ってるの?! 
ここは私の家、帰ってきて、当然じゃない。

明石
ゆ、ゆめじゃないよな……。

アカリ
で、先生、ダ・ヴィンチの機械の使い方は、わかったんですか?

明石
わかった、わかった、解ったとも!!
アカリ、もう大丈夫だ、世界は救われる!!

ジャン
先生、引退するのでは?

明石
ジャン、何を言っている。私の人生の本番は、これからだよ!
ジャン、この機械を発表する機会を捉えて、
何度でも、発表するんだ。
ダ・ヴィンチの意志を、世界中に伝えるんだ!!

ジャン
近いうちに、美術界で最も大きな学術学会の総会があります。
そこで、「ダ・ヴィンチから受け取ったメッセージ」
と題して先生が研究発表をしてはどうでしょうか。
これは世界中に報道されます。

明石
それだそれだ、そこで発表する手はずを整えてくれ。
(アカリに近づき、肩をつつく)
まぼろしじゃない。
アカリ、もう消えたり、しないよな。

アカリ
私は、明石先生を応援します!
さっき、先生が言った言葉、力強かった。
「もう大丈夫だ、世界は救われる!!」
わたし、信じます!!

5割ダウン。照明が落ちて役者がはける。
ダンサースタンバイ。

演奏 セット・ファイアー・トゥ・ザ・レイン
――アデル
【編成】ボーカル、サブボーカル、エレキギター2名、キーボード2名、テナーサックス、トロンボーン、ベース、ドラムス
ダンス16名

ブルー暗転。学会のセット準備。
準備ができたら、照明を上げる。照明がついたらすぐ芝居。
古美術・現代美術学術学会 会場
(学会の発表会場、ホールまで続きの会場のように設定)

司会
では、古美術『センチュリー・アート』オーナーで、
鑑定家でいらっしゃる明石小次郎先生による研究発表です。
タイトルは「ダ・ヴィンチから受け取ったメッセージ」です。

明石が演題に進み出る

明石
ただいまご紹介に預かりました明石小次郎です。
今年はレオナルド・ダ・ヴィンチが亡くなって、ちょうど500年目にあたります。

ダ・ヴィンチが500年後の我々に向けて、
大きな危惧を抱き、そして解決策を示してくれていることを突き止めました。

ダ・ヴィンチが一貫して表現しているのは、
モラルの低下による、エネルギー消費競争の社会への警告、
そこから派生する、地球温暖化を避けよ、ということです。

いま世界は確実に温暖化しています。それも、危機的な領域に入っています。
ところが二酸化炭素の増加に対して、また平均気温の上昇に対して、
まったく有効な手段が講じられていない。

ダ・ヴィンチは500年前にそれを見越してこの3点を作りました。
この凹面鏡で海水を沸騰させ、
上空に雲を作って日光を遮り、(遮る動作 キョウコ)
海水の温度を下げる、
というものです。

この水晶は、太陽の方向を見定めるためのナビゲーター。
(見定める動作 アカリ)
そして、このダ・ヴィンチのヘリコプターといわれてきたものは、
船に設置して風を受ける帆です。
なぜ丸いかというと、
海の上で、同じところを自動的に旋回するためのもの。(動作 ツバサ)
海水を効率的に沸騰させるため、
大きな円軌道を描きながら、同じ水面に太陽光をあて続けることができます。 

もちろん、この機械の1台、2台でできることは限られています。

しかし、ダ・ヴィンチの願いを汲むならば、
これを今こそ、世界中の海で展開しようではありませんか。
もちろん、ダ・ヴィンチの機械は、基本形と考えていいでしょう。
太陽光を捉える凹面鏡はもっと大きくして、
太陽の方向をとらえる水晶玉は、コンピュータ制御にするなど、
改良を加えた上で、
7つの海を走る大型タンカーにはすべて積み込んでもらい、
その道中で常に海水を蒸発させて行けば、
その効果は計り知れません。
(3人で蒸発させる動作をする)
また、海の水蒸気で雲を作るための船団を作る必要もあるでしょう。
いま風力発電のプロペラが各地の海岸線で回っているように、
高台から太陽光で海水を蒸発させるのもいいでしょう。

水蒸気を大量に作って世界中の空を雲で覆い、温暖化を防ぐ、
むしろそれは、簡単なことかもしれません。
私が強調したいのは、レオナルド・ダ・ヴィンチが繰り返し警告したことです。
ダ・ヴィンチは、社会が豊かになるとモラルが歪む、
そのモラルの歪みがあるから、地球環境の破壊を止められない、
そう見抜いていました。

明石
みなさん、ちょっと最近の日本を振り返ってみてください。
かつて例がなかった悪質な「あおり運転」が増えています。
全国の小学校、中学校で、いじめがあり、イジメによる自殺もあとをたちません。
職場ではパワーハラスメントというイジメがあり、
家庭でも幼児虐待があり、
日に、日に、目を覆いたくなるほど、社会のモラルが低下している、
そう感じる人は多いのではないでしょうか。

イジメや、無駄な競争や、暴力のない、
本当にモラルのある、正義が通る、優しい学校、優しい社会を作っていきませんか。

「モナリザの微笑み」を思い出してください。
モナリザが微笑みの下に問いかけているもの、
モナリザの背景が物語っているもの、
そこに、すべての答えがあります。
今日、家に帰ってから、
まずニッコリと微笑んで、
目を大きく、ぱっちりと見開き、その目を輝かせて、
今日のなのはなファミリーのコンサートがいかに素晴らしかったか、
ご家族にたっぷり話してください。
そして、日々、家族に向けて笑顔を絶やさず、
家族に優しい言葉かけを、習慣にしてください。
私たちがモラルを取り戻すのは、そこからだと思います。

次に、少しでも二酸化炭素を減らせるように、
1日ひとつ、みなさん自身が確実に実行できることを、
どうか考えてみてください。

いまこそ、ダ・ヴィンチの願いを、
我々の手で実現しようではありませんか。

会場の人、拍手
5割ダウンするまで拍手を続ける。
役者がはけて、ボーカルスタンバイ。
スタンバイできてから、照明をサムワンにして、音楽スタート。

演奏 サムワン・ライク・ユー
――アデル
【編成】ボーカル、キーボード

曲が終わったら、ピンスポを消し、あゆがはける。
あゆがはけたら明石が舞台中央に出る。
明石が中央に向かうにつれて照明を上げていき、
センターになるころにはサインの人が殺到する。

 
先生! サインをお願いします!!(複数名)

サインが終わる頃、下手からアカリたちが走ってくる。

アカリ・キョウコ・ツバサ
先生、良かったです!

明石
いや、まだまだ、だよ。うん、まだまだ、だ。
一度や、二度、発表したくらいで、世界は動かない。
私は、世界が動き出すまで、全力で訴えていくよ!

ただ、僕は、心配なんだ
君たちが、本当はどんな存在なのか、
まだ、混乱している……。
こんなこというのは恥ずかしいが、……不安なんだ。
本当に世界が救えるかどうか、もそうだが、
いまは、君の気持ちにかなった世界が作れるかどうか……。
聞きにくいことだが、君たちは、本当は……。

(照明が点滅する。効果音)
(周囲の人は効果音5秒でフリーズし、
アカリ、キョウコ、ツバサ、明石、ジャンだけが動ける。
キョロキョロと上を見上げる。


明石さん、ジャンさん、私が本当のことを教えましょう。
アカリ、キョウコ、ツバサは、
レオナルド・ダ・ヴィンチが作った機械の精霊です。
人間の姿で生まれてきたので、
明石さん、ジャンさんも、混乱したことと思います。
私はここまであなたたちの行動を、すべて見てきました。
あなた達が人間界を救う役割に耐えられるかどうか――。
そしていま、私は決断しました。
私は、あなたたちに、人類の運命を託します。
精霊の3人は、そのまま人間としての人生を全うしてください。
二度と精霊に戻ることはありません。
そしてレオナルド!

ダ・ヴィンチ
はい!(と会場の後ろから出てくる)


あなたも、精霊たちと同じように人間界に降りなさい。(レオナルド頷く)
皆さんに協力して、モラルと地球環境を守るために力を尽くしなさい。
そうそう、1つだけ聞いておきたいことがあります。
アカリさん、あなたは一度、人間界を見放そうとしました。
どうして、また人間界に戻る気持ちになりましたか?

アカリ
明石さんと、ジャンさんと、もっと、なぞなぞをしたかったからです。

アカリ
精霊に遊びはないけど、
人間には遊び心というものがあって、それを楽しんでいる人たちって
なんて素晴らしいんだろうと思ったんです。

それと同じように、どんな大きな困難を前にしても、
希望をもつことができる人たちがいる。
明石先生、ジャンさんと力を合わせて、
私も自分のすべてを掛けて挑戦したなら、
どんな素晴らしい人生になるだろうって、思ったんです。


アカリさん、期待していいますよ。
そしてキョウコさん、ツバサさん、
これからもう一度、明石先生、ジャンさんと協力して、
そしてこの会場に来てくださっている皆さんと力を合わせて、
必ず、この地球環境を守ってください。

 
はい!!

(照明が点滅。効果音。効果音5秒で、フリーズがとける。)

明石
みなさん、(みんなが正面に向き直り、2歩、前に出る)
地球環境を守るために、
お互いに優しい世の中を取り戻していきましょう!


オー!!!

ブルー暗転。
全員がスタンバイできたら、シャンデリアの照明にして、
ドラムから演奏スタート。

演奏 シャンデリア
――シーア
【編成】メインボーカル、サブボーカル2名、エレキギター、アコースティックギター、キーボード2名、ウィンドシンセサイザー、ベース、ドラムス、電子ドラム、ホイッスル
ダンス(コーラス)46名

アンコール曲 ディス・イズ・ミー
――『グレイテスト・ショーマン』サウンドトラックより
【編成】ボーカル、サブボーカル3名、エレキギター2名、キーボード2名、ウィンドシンセサイザー、ベース、ドラムス、パーカッション2名
ダンス47名

これにてコンサートは終演です。
ご覧いただき、ありがとうございました!

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