脚本で辿る ウィンターコンサート2019【3】

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最後のダンサーのはけで5割ダウン。
照明が落ちたら、小道具と役者がスタンバイ。
照明をもどして芝居スタート。

アカリの母
あの、失礼します。

明石
ああ、しばらく。今日は、いかがなさいましたか。

アカリの母
先日、納戸を整理していたら、
埃だらけの古い箱から、水晶玉のようものが、出て来たんです。
これをもしよかったら、役立ててもらえたらと思いまして。

明石
本当に古い箱ですな。

ジャン
……あ、これだ! これです。ルーブル美術館から消えた水晶玉です。

明石
え、なになに? これがルーブル美術館から消えたものだって?!

ジャン
そうです。中身は、間違いありません。
ともかく、これはもとの形のままです。ありがとうございます。

明石
こんなにも近いところでさっそく見つかるとは、
何か、とても不思議な縁を感じるが……
気のせいだろうか。

照明5割ダウン。と同時に役者はけ、演奏者が出る。
位置に着いたら照明を上げて演奏スタート。

演奏 くるみ割り人形 金平糖の踊り(混合アンサンブル)
――作曲 P.I.チャイコフスキー
【編成】ソプラノサックス1名、アルトサックス1名、トランペット、トロンボーン2名、鉄琴1名

照明5割ダウン。
楽器はけて、役者スタンバイ。
スタンバイができたら、照明を上げて、芝居スタート。

ヴェロッキオの工房
何人かで同時に絵を描いている。
そこに親方がやって来る。

レオナルド
ヴェロッキオ親方、おはようございます。

ヴェロッキオ親方
おう、仕上がったか。
『キリストの洗礼』の絵は。

ダ・ヴィンチ
はい、まあ、できています。

ヴェロッキオ
『キリストの洗礼』は、人気のあるテーマだからな。
(絵を見ていた、ヴェロッキオの顔色が変わる)
この天使の絵は、誰が描いた?! (怒っているような口ぶり)
こちらの天使を描いたのは私だが……、
おい! この天使は、レオナルド、お前か?! 
この天使はお前が描いたのか。

なんて素晴らしい天使なんだ!
……本当に生きているようだ。
みろよ、天使ちゃん、何が言いたいの?
おじさんが聞いてあげるよ、何でも言ってごらん
そう言ってやりたくなるじゃないか
それに引き換え私の描いた天使ときたら……。ただの子供の絵だ。
お前たち、絵とは、こういうふうに描くものだ。
天使に動きがある、心がある、感情があふれでてくるようだ。

ヴェロッキオ
そうだ。
お前はまだまだ若いが、職人組合で、『親方』に推薦しよう。
いつでも、独立して、自分の工房を持ったらいい。

ダ・ヴィンチ 正面を向いて独り言のように。

ダ・ヴィンチ
……そうか、私は、絵でメッセージを後世の人に伝えることにしよう。
絵に私のメッセージを語ってもらうんだ。

5割ダウン。役者がはけて、演奏者が出る。照明を明るくし、演奏を始める。

演奏 くるみ割り人形 ロシアの踊り(混合アンサンブル)
――作曲 P.I.チャイコフスキー
【編成】ソプラノサックス1名、アルトサックス1名、トランペット1名、トロンボーン2名、木琴1名

照明5割ダウン。小道具のセット。
舞台はレオナルド工房 上手に台 遺体役を事前に載せておく。
照明を上げてから、
ダ・ヴィンチ、羽をばたつかせながら上手から登場

弟子
ダ・ヴィンチ親方、今日は飛べたんですか?

ダ・ヴィンチ
いや、飛べなかった。
しかし、面白い発見をしたぞ。
鳥の羽根の下を流れる風の速度と、
鳥の羽根の上を流れる風の速度が同じだとしたら、
鳥の羽根の上のほうが丸みがあるぶんだけ、速く流れなくてはいけない。
つまり、鳥の羽根の上の空気が薄いから、
それに釣り上げられるようにして鳥は空に浮かぶ事ができるんだよ。
どうだ、面白いだろう。

弟子1
はっきり言っていいすか。
鳥は飛ぶもの、人間は飛べないもの、
とは思いますが、それ以上のことは私にはちょっと理解が……。

弟子2
ダ・ヴィンチ親方は、絵も描くけど、空を飛ぶ道具を作ったり、
武器を作ったり、建築をやったり、土木工事を。
天文学をやったり、地球のできかたを調べたり……。
いったい専門は何ですか。

ダ・ヴィンチ
専門? そりゃ、解剖だよ。人の身体の解剖。
人が生きている仕組みを調べること、それが私の専門だ。
解剖の用意してあるか?

弟子1
今日は、70代の、亡くなったばかりの身体を手にいれました。
今日の分は病院から引き取ってきたもので、墓を掘り起こした分ではないです。
こちらです。

ダ・ヴィンチ
そりゃ新鮮なものが手にはいったな。よし、さっそく取りかかろう。 
今日は、心臓とその周りの血管からいってみよう。

もくもくと、作業。
手に、血管をもち、高く掲げる。

ダ・ヴィンチ
おい、また新しい発見をしたぞ。
みろ、血管がボロボロになっている。
これで血が詰まったり、もれたりして、死ぬんだな。
この作用を、動脈硬化と名付けよう。

弟子1
そんなこと、今まで聞いたこともありません。新発見ですね。

ダ・ヴィンチ
まてよ……。

弟子2
親方、どうかしましたか?!

ダ・ヴィンチ
人が生きているように、きっと地球も生きているんだ。
……ああ、どうして今まで気付かなかったんだろう。
地球は生きているんだよ!!

弟子1と2
親方、地球も生き物だったんですか?!

ダ・ヴィンチ
そうとも。……これで永年の謎が解けたよ。
ああ、素晴らしい、素晴らしい。
私がこうして生きているわけが、ようやくわかったよ。

弟子1
わかるような、わからないような……。どういうことなんです? 親方。

ダ・ヴィンチ
モラルだよ。人間が優しく生きていると、地球は喜ぶ。
しかし、人間が強欲になり、我儘放題になり、モラルをなくすと、
地球は怒るんだ。
人が病気になったり、死んだりするように、地球も病気になる。
地球を怒らせたら、大変なことになる。
地球はクジラだって山の上に押し上げてしまうくらい、
地球は、生きて動いているんだ。
みんなが肉を食べたがる。
もし多くの人間が満足するまで肉を作るとしたら、
あらゆる森を伐り拓いて、
どこまでも牧場にしなくてはならない。
そんなことをしていたら、どうなる?
やがて地球の森はすべて消えてしまうんだ!
地球がそんなことを許すはずがない。
人間に天罰が下るだろう。

5割ダウン。照明が落ちてから小道具を下げ、役者がはける。
ダンサーがスタンバイ。
照明を上げると同時に演奏スタート。

演奏 シェイプ・オブ・ユー
――エド・シーラン
【編成】ボーカル、サブボーカル2名、多人数コーラス、
エレキギター、アコースティックギター、キーボード、ベース、ドラムス、ボンゴ、トライアングル
ダンス14名

ハイハットではけて、最後のダンサーが3番をすぎたら、
照明は5割ダウン。
照明が下がってから、小道具をセット。
すぐに上手手前だけに照明。その照明の中で、ツバサ台詞。
その間、着替えができたらアカリがイスに座っておく。

ツバサ
私、家出してきちゃった。
これ家から持ち出してきちゃったけど、ただのガラクタだったらどうしよう。
でも、おじいちゃんが、ダ・ヴィンチが作ったものだと言ってたから、
もし本物だったら、高く売れるかもしれない。

ツバサは店を探すふうにセンターまで歩く。
その間、ツバサのスポットを消して、アカリにスポット。
舞台下手奥にもアカリのスタンバイができたところで照明をつける。

アカリ
ふうん、ダ・ヴィンチは人体解剖もやったのか。
まるでお医者さんみたい。

ここでツバサにスポットを入れて、
センチュリー・アートの店先に来て、声をかける

ツバサ
ごめんください。

アカリ
(本を置いて)あ、お客さんかな。
ハーイ!

ツバサ
これ、鑑定してもらえませんか?
もし、引き取っていただけるようなら、売りたいんです。
(そういって、ふろしき包みを開く)

アカリ
弱ったな、明石先生はお出かけしているし……。
ちょっと見せてください。
(鑑定団のテーマ)
500万クローネ!

ツバサ
えーーーーっ、そんなにするんですか?!

アカリ
いえ、そう言ってみたかったけど、
やっぱり私じゃわかりませんね。

ツバサ
もう、私、疲れちゃった。

アカリ
すみません、変なこと言って。

ツバサ
わたし、家出してきたんです。
これを家から無断で持ち出して、
それを売った費用でどこかで生活しようと……。

アカリ
あ、その手首のマークは……。

ツバサ
これ、マークじゃなくて、アザなんです。

アカリ
ひょっとして、私のと同じかしら……。
(と自分のマークを見せる)

ツバサとアカリ
(自分のマークと近づけて)
(2人同時に)同じだ。

ツバサ
……どうして?!

ブルー暗転。役者はける。小道具出す。
セカンドワルツの演奏者スタンバイ。
スタンバイしたら、照明。照明で演奏スタート。

演奏 セカンド・ワルツ(混合アンサンブル)
――作曲 ドミートリイ・ショスタコーヴィチ
【編成】フルート、ソプラノサックス、アルトサックス、テナーサックス、
トランペット、トロンボーン、バスクラリネット、キーボード、ドラムス
ダンス3名

5割ダウン。演奏者、ダンサー、小道具がはける。
精霊は位置につく。
位置についたところで照明を戻す。台詞スタート。

レオナルド
やっと、3人、そろったようだな。
君たちは、人間の姿を借りた精霊だ。
手首にある印が、その確かな証拠だ。
優しく生きたいと願う魂にとって、
物心ついたときから、生きにくさを感じてきたことと思う。
そんな心が、この世の中に警鐘を鳴らしてやまないのだ。

アカリ
私、ずっと自分の役割を思い出せずにいたけれど、
無性に、怒りが沸き上がって、仕方がなかった。
21世紀は、私たちがやってきた500年前よりも、
ずっとずっと文明が進んでいるはずなのに、
較べようもないほど豊かになったはずなのに、
悔しい気持ち、悲しい気持ち、苦しい気持ちで競争する人ばかりで、
なんだか、みんなよそよそしい。
この世界でどう生きていけばいいのって、みんなが言っているようだ。

キョウコ
真面目に生きたい、正義を通したいと思っても、
私の気持ちをわかってくれる人なんて、1人もいなかった。

ツバサ
私は、この世界には、いつまでも居る事はできないと思う。
私が人間をやるには、この世界は過酷すぎます。

レオナルド
クライシス――私はこの世の終わりを預言した。
しかし、クライシスというのは、危機という意味だけではない。
分かれ道、転機という意味がある。
いま直面している危機は、良い方向に向かうか、もっと悪いほうにいくか、
その分かれ道にきているということだ。
人類にとっては、最後のチャンスだと思う。
そして君たちが、人間として生きられるのも、一度きり。

アカリ
分かれ道……。それは、危機ではあるけれど、チャンスでもあるということ?
私、あきらめない!!

ブルー暗転。
役者はけて、ダンサースタンバイ。
グレイテスト用の光を徐々につける。演奏スタート。

演奏 ザ・グレイテスト
――シーア
【編成】ボーカル、サブボーカル2名、多人数コーラス、
エレキギター、アコースティックギター、ドラムス、キーボード、ウィンドシンセサイザー、ベース
ダンス9名

前半 幕

(パート4へ続く)

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