レオナルド・ダ・ヴィンチがのこした3つの機械が、世界有数の美術館から、一度に姿を消した。
ダ・ヴィンチは何を目的に、その機械を生み出したのか。
その機械は、どこへ消えてしまったのか……。
ウィンターコンサートの物語の軸となった、レオナルド・ダ・ヴィンチの発明品。
そして、観衆と物語の世界とのあいだに橋をかけてくれる、さまざまな小道具。
このページでは、2019年ウィンターコンサートに登場した小道具と、それらが誕生するまでの過程をご紹介します。
今回は、500年の時を越えてきたかのような小道具を生み出してくださった、木彫家でもある大竹さんに、制作時の工夫やエピソードを教えていただきました。
レオナルド・ダ・ヴィンチの3つの機械
――レオナルド・ダ・ヴィンチの3つの機械(水晶器、ヘリコプター、凹面鏡)を作るにあたって、ダ・ヴィンチらしさ、500年前の時代感を出すために工夫をしたところは、どんなところですか?
〈大竹さん〉
レオナルド・ダ・ヴィンチの活躍した1400年代ルネサンス期に使われていた技術に注目しました。
その時代に存在しない技術や部品は極力見えることのない様、工夫して制作しています。ダ・ヴィンチの残したスケッチや図面も出来るだけ調べ、デザインの傾向も模索しました。
生物の曲線、骨格の比率等を参考にしたデザインが多く感じられ、それらを反映することによってダ・ヴィンチらしさが出せればと思いました。
古色や汚しも重要なポイントでしたが、こちらは須原さんの紹介してくれた着色ニスで、とても良い雰囲気を出す事が出来ました。
――それぞれの機械を制作したときのこと、難しかったところ、エピソードなどを教えてください。
水晶器
〈大竹さん〉
お父さんからさやねちゃんが作った水晶を預かるところから制作がスタートしました。
さやねちゃんの作ってくれた水晶は、とても美しくて、その周りを制作させて貰える事がとても楽しみになりました。
レジンで作られた水晶には独特な模様が入っていたのですが、よく見ていると世界地図の様な、小さな惑星の様で、色々な想像にかき立てられました。
もちろん、物語の中では太陽の方向を示す水晶器なのですが、その惑星の様な水晶は、なのはなファミリーが作り上げて行く新しい世界の様に思えて、その目指すべきところを示す羅針盤の様な水晶器をイメージして制作しました。
物語の中の凹面鏡に取り付けて船に乗せて使用するという設定にもとてもロマンを感じ、そういったところも形に反映できればと思い制作しました。
ダ・ヴィンチのヘリコプター
〈大竹さん〉
ヘリコプターの制作は、なのはなファミリーのホームページを見させて頂いていて、今年はレオナルド・ダ・ヴィンチが登場するという事を知った時から、依頼が来ると思い、頭の中で準備をしていました。予想が的中した時はとても嬉しかったです。
ダ・ヴィンチのヘリコプターは多くの人が知っている有名な図案で、形になれば伝わる物になります。問題は制作時間でした。いかに制作時間を減らせるのか、工程を少なくできるのかという事を考えました。
この制作で最も時間のかかるポイントは螺旋構造の角度と高さの調整だと思いました。次に材料の用意、こちらは事前に竹ひごを大量に準備する事で解決です。
螺旋構造の角度と高さは事前に計算で出すのはとても大変です。そこで、全体を組み上げてから後で調整できるよう、高さと角度を動かせる構造で取り付けを行いました。
ザッと組み上げて後で固定していくという方法です。これにより2日半で制作を終える事に成功しました。
凹面鏡
〈大竹さん〉
ヴェロッキオ工房で使われるものとは違い、ダ・ヴィンチの制作した凹面鏡と伝わらなければならない、と言うところは頭を使うところでした。
当初2つ手に入るはずであったパラボラアンテナが入手出来なくなり、鏡部分をどう制作するのかという事に非常に難儀しました。
そんな時に、お母さんの、「扇風機のフレームを使って何かを貼れば良いのではないか」と言う、鶴の一声に助けられました。
扇風機のフレームは再度使用するため、直接加工のできる木のフレームを用意して何かを貼る事にしました。
このフレームは須原さんが舞台背景を制作する際にでた端材がちょうどその形をしていたので、大幅な時間短縮ができました。
しかし、何を貼るのかが問題でした。凹面に対応させて何かを貼るのには必ずシワなどが寄ってしまい鏡らしく見えないと思ったのです。
お父さんが大型のタンカーに巨大な凹面鏡を乗せて……と仰っていたのを思い出し、現代の技術では巨大な凹面鏡を作れるはずで、作るには必ず継ぎ目があるはずで、どのような形状で組んでいるのかがわかればと思い、調べました。
すると望遠鏡を作る技術で、2メートル近くある六角形の凹面鏡を多数組んでいき、巨大な凹面鏡を制作している日本の企業が見つかりました。
この技術があればお父さんの構想する温暖化対策も実行可能なのだと思いました。
そんなこんなで凹面部分は六角形の段ボールをやすよちゃんの協力で36枚ほど切り出し、塗装して完成させることが出来ました。
鏡を支えるアーム部分には脚本に登場する「上向きの三角と下向きの三角」をデザインに取り入れてあります。
さらに、須原さんの制作してくださった機織り機用の歯車(試作品)も組み込むことが出来きました。これは素晴らしいアクセントになりました。
パラボラが入手出来なかったことが良い方向へ転び、結果的にはダ・ヴィンチらしさが出せたのではと思っています。
演劇を彩った小道具たち
――演劇に登場した小道具について、それぞれコメントをいただきました。
ティラノサウルスの卵の着色
〈大竹さん〉
さやねちゃんが作ってくれた卵がとても美しくて、作業中に手を滑らしたら終わりというものあって、とても緊張感のある仕事でした。
石膏に着色するのは初めてで沢山の難しさに直面しました。一定の顔料は染み込み、それ以上は上に乗って浮いてしまうような特性があり、絵の具をコントロールするのが難しかったです。一度濃く絵の具を置いていき、拭き取り染み込ませながら著色して行く方法が効果的でした。
また、美しい卵と恐竜の卵を両立させることも難しいポイントでした。恐竜の卵らしさについては最後まで模索し続ける事になりました。
新しい発見の連続で楽しい時間でした。また恐竜の卵を制作できる機会があれば嬉しいです。
ヴェロッキオのブロンズ球
〈大竹さん〉
大聖堂の天辺にある金色のボールは実際には2トンもあったそうです。溶接のシーンをよりリアルにするべく、金色のボールはなるべく大きく制作したいと思いました。
円に切った段ボールを放射状に組んで骨組みを作り、帯状に切った模造紙を重ねて貼って行く事で直径840㎜のボールにする事が出来ました。
ただ、想像以上に表面を滑らかに仕上げることは難しく、これで大丈夫であろうかと心配だったのですが、金色に塗装後、乾かしていた所にお父さんが戻ってこられて、
「おお! ゴールデンボール!!」
という嬉しそうな大きな声が作業棟の中にも届いて、とても安心しました。
ゴールデンボールの完成を待ちわびていたヴェロッキオ親方と工房の弟子たちが、すぐに演劇練習に取り組む姿もみんな楽しそうで嬉しかったです。
ヴェロッキオ工房の凹面鏡
〈大竹さん〉
溶接のシーンで重要な凹面鏡は、工房で使われている実用的な道具という所がポイントだと思い、出来るだけシンプルに制作するよう心がけました。
凹面鏡部分はパラボラアンテナを利用したため比較的簡単に制作する事ができました。
ダ・ヴィンチの羽
〈大竹さん〉
羽根は殆どダ・ヴィンチの残したスケッチのままに制作しました。
幸いなのはなファミリーには支柱に使われていた沢山の竹があるので材料には困りませんでした。
竹を割り、バーナーで炙って曲げ、たこ糸で固定していくという方法です。ダ・ヴィンチのスケッチ通りに組んでいくとどんどん強度が増していくのがとても面白かったです。
お父さんに教えて頂いて手を通す位置なども修正できて、なおとさんが劇中見事に使いこなしてくれたことが嬉しかったです。
心臓の近くの血管
〈大竹さん〉
心臓近くの血管ということで、求められている血管は大動脈に違いないと思いました。以前イノシシの解体を手伝った時に初めて大動脈を見て、こんなに太くてしっかりしているものなのかと感動した経験があります。
須原さんの用意してくださったゴムチューブをバーナーで炙り、引っ張ることで細さを出したり、螺旋状に変化させる事が出来て簡単に加工する事が出来ました。
バーナーの焦げ目がついてしまう事は狙っていなかったのですが、いい感じに動脈硬化でボロボロの血管の雰囲気が出て、この偶然にも助けられました。
大動脈の構造に沿って支脈を足して行くほどに血管らしくなって行くのが面白かったです。
また、お父さんの超絶リアリティな演技指導には本当に驚きました。メインの血管を切った後に本当に一本ずつ出てくるのです。本当に手術している手さばきで、大動脈にこだわって制作してお父さんの演技指導に耐えられる小道具になったことは本当に良かったと思いました。
大竹さんは、小道具制作ののちには照明の分野で、フォローピンスポットライトのオペレートをしてくださいました。
大竹さん、ありがとうございました。
精霊の剣
もう1つ、大事な小道具があります。
精霊のアカリ、キョウコ、ツバサが持っていた剣は、なのはなファミリーでいつも建築を教えてくださる、須原さんが制作してくださいました。
〈左から、キョウコ、アカリ、ツバサの剣。
それぞれの精霊の色をイメージして作られています。
子供たちでなくても、つい憧れてしまう剣でした〉