「みんなとの積み重ねが力に変わる」 るりこ

○長くて短い旅

(どんな道のりになるのだろう)
開始時刻十分前、スタートラインに立ったとき、そう思いました。今から始まる42.195キロがどんな旅になるのか。先がわからない道のりを進んでいくのは、人生と似ていると感じました。でも、わたしの気持ちは穏やかでした。緊張も不安、怖さもありませんでした。今から始まる、長くて短い旅を楽しみながら、しっかりと道を開いて進んでいきたいと思いました。

パーンッ! ピストルの音が鳴り響き、青い空に煙が立ちました。後ろにいたやよいちゃんが、「頑張ろう!」と言いました。その場にいた、さやねちゃん、まゆこちゃん、やよいちゃん、まちちゃんと握り拳をぶつけ合って、「頑張ろう」と口を揃えました。

スタートラインから続く長蛇の列が一斉に動き出しました。一種の生き物みたいでした。初めはゆっくり歩き、流れにのって徐々に歩を速めていきました。グラウンドを囲むように応援組のみんながいました。「いってらっしゃい」。その言葉に背中を押されて、今度はゴールでみんなに会うんだと強く感じました。

ゲートをくぐり抜けると、人混みもまばらになってきました。
「初めの1、2キロが肝心。絶対に調子に乗らないこと」
前日のお父さんのアドバイスを心に留めて、身体に今から走りますよと伝えるように、ゆっくりゆっくり走るリズムをつくっていきました。
周りには、ゆいちゃん、さやねちゃん、まちちゃん、ゆうこちゃんがいました。ランナーの方の中には、ものすごい速さで横を通り過ぎていく人もいたけれど、周囲のなのはなの仲間が一定のペースで走っているから、自分もそのペースに身を任せて落ち着いて走ることができました。

4キロを過ぎ、大通りに出ました。ペースが掴めてきたので、ここからは自分のペースを確立していこうと思いました。するとすぐに、遠くにノアの車が見えました。(あっ、なのはなの車だ)。そう思ったすぐに、「るりこちゃ~ん!!!」とみんなが大きな声で呼んで、手を振ってくれました。

(こんなに遠くにいるのに何でわかるの!?)
と驚くのと同時に、周りにいた人も何事かとわたしの方を振り返ってきて少し照れくさかったけれど、応援組のみんなの存在が本当に嬉しくて、自慢の家族だなと思いました。

○美しい自然

五キロ過ぎからは民家を通り抜けるコースに入りました。車の騒音なども減り、見慣れた道に、今回も帰ってきたという実感が湧きました。
ペースもできて一安心という状態だったので、景色を見ようと思いました。
加茂には、庭にミラーシートが張られていて、もう播種をされたお宅が数件ありました。八重の水仙を見つけたり、前方にそびえ立つ山の木々の濃い緑の中に、一本だけ白く映えるさくらの木を見つけたときは心が奪われました。

足元のすぐ横を流れる用水路の水が透き通り、勢いよく流れていました。魚がいそうだなと思うくらい、濁りのないきれいな水でした。川遊びがしたいと思いました。
加茂は自然が美しかったです。散ってしまうと心配していたさくらもまだ咲いていて、お母さんがスタート前におっしゃった、「景色を楽しんできてね」という言葉を、十分に味わえたと思います。

10キロを過ぎたあたりから、ゆうこちゃんが傍を走っていました。お互い、越したり越されたりという感じでしたが、一度距離が近くなったときがありました。
わたしが、「ゆうこちゃんが後ろにいると思うから頑張れる」と声をかけると、ゆうこちゃんが、「わたしもだよ」と言いました。「お好み焼きを食べたら、舌を火傷しちゃって……」と、いつものようにユーモアのあるゆうこちゃんの笑顔に、気分転換ができ気持ちもリラックスしました。
そしてまた離れ、ゆうこちゃんは前へ進んでいきました。

○みんなと一緒に走っている

スタートから12キロまで速かったと感じました。10キロを越えると、坂が増えてきたけれど、石生一周でたくさん鍛えてきたから、坂も坂と思えませんでした。
折り返しまで、お父さんとお母さんに会いたいという一心で走りました。その気持ちだけで足が前に出ました。
折り返し地点が見えたあたりで、応援組のゆかこちゃんと会い、スポーツドリンクを差し出してくれました。それを口に含んだとき、あゆちゃんが、「るりこちゃん!」と呼ぶ声が聞こえました。応援組のみんなの姿がありました。

折り返しの青いテープラインを踏むと、目の前にお父さんがいました。横でお母さんが塩を持っていました。やっと会えたという安心感と嬉しさに、みるみる身体のエネルギーがリセットされていきました。F1カーでタイヤ交換をするように、折り返し地点でお父さんとお母さんに足を交換してもらったような感じです。
上り坂で少し使ってしまった足が、折り返しを過ぎた途端、驚くくらい軽くなりました。スタート前に戻ったように元気になりました。

折り返しを過ぎるとみんなとすれ違いました。やよいちゃんやのりよちゃんとハイタッチをしたり、よしちゃんやりさちゃんが遠くから、「るりこちゃ~ん!」と呼んで手を振ってくれました。誰か一人に会えるたび、みんなと一緒に走っているんだということを実感しました。

盛男おじいちゃんとあゆみちゃんとも会いました。おじいちゃんが、「るりちゃん、速いなぁ!」とおっしゃり、両手を包み込んでギュッと握りしめてくださいました。おじいちゃんの握手は力強くて、おじいちゃんからもらったパワーであり、お守りのように思いました。大好きな盛男おじいちゃんに会えたことが本当に本当に嬉しくて、頑張りたいと思いました。

なのはなのみんなを探すのに必死になっていたら、22キロから25キロくらいは本当にあっという間で、走っていたという記憶がないくらいです。
もし42.195キロが全て折り返し地点のように、つねにみんなと会えていたら、きっともっと楽しいだろうなと思いました。折り返しから25キロ当たりまでは、今回のフルマラソンのなかで一番楽しいと感じた時間でした。

○面白かったエピソード

農道に入ってからはしばらく、下り坂に身を任せて走りました。足が軽く、すいすいと動きました。
26キロ地点あたりで、個人的に面白かったエピソードがありました。
走っていると、先の方でノアの車が止まっていました。すぐになのはなの車だとわかりました。近くまで行くとちさとちゃんがカメラを構えていて、道路を隔てた反対側にさとえちゃんの姿がありました。
さとえちゃんが黄色くて丸いものを片手に掲げて、わたしの方に向かって差し出しています。一体何だろうと思い、目を凝らし、(あっ、リンゴか)と思いました。
それにしてもリンゴ丸々1個は大きいなと思いました。でも水分も糖分もあるから身体には染みそうだしエネルギーになるかなと思い、わたしも手を差し出して受け取りました。
すると、あれ? と驚くくらい軽かったです。それはリンゴではなく、桃の梱包用の丸スポンジだったのです。
スポンジだったー! と思いつつ、水が染みこんだスポンジはそれはそれで十分嬉しくて、首にかけるとひんやりとして熱が冷めていきました。
よく考えたら、前日にあけみちゃんが冷却用に桃用のスポンジを使うと話していたことを思い出して、そうか、そうだったと思いました。
果物繋がりで、今回もまた、正真正銘のパイナップルを見つけていただきました。少し酸っぱくて、その後に甘さが口いっぱいに広がり美味しかったです。


○ゴールに向かって

わたしは10キロごとに区切って、42.195キロを走っています。20キロから30キロの4分の3は、わりとすんなり終わった印象です。
走っていると、地域の方が、「頑張ってください」「もう少しですよ」と声をかけてくださったり、突然、後ろにいたランナーの方に、「なのはな頑張れ」と言っていただくこともありました。
少し驚いたけれど、なのはなの子として見られていると思うと、それはそれで気持ちが正されていきました。最後までなのはなの子として、謙虚に、笑顔で走り抜こうと思いました。
あとなのはなコース、あと奈義コース……。
始まったと思ったフルマラソンが、もう終わりに近づいています。こんなに短かったっけ、と思いつつ、「バルーンが見えてもそれからが長いですよ」というお父さんの言葉を思い出し、気を抜かないようにしました。身体の疲れや足の重みはありませんでした。
ただただ、足が勝手に前に進んでいくような感じでした。

それでも、大道路を横断し残り4キロに入ってからが、わたしのなかでの山場となりました。あと奈義コース、あと梅の木コース、あと石生一周……。
それまであまり距離を意識していなかったけれど、最後は距離が気になりました。少し胸の辺りに痛みを感じました。そのとき、ミニマラソンの折り返し地点でもある、大きな大木が見えてきました。
(ミニマラソンのみんなもここを走ったんだ)
と思うと、れいこちゃんやななほちゃんが笑顔で軽々と走る姿が浮かんできました。みんなの笑顔を思い出すと、胸の痛みも治まっていきました。

残り2キロが一番長く、ここで初めて苦しいと思いました。でもこの苦しみは、自分がなのはなに来るまでに感じていた、先の見えない真っ暗闇のような苦しみとは違うと思いました。
どうせ今しか感じられない苦しみだから、楽しんで苦しんでしまおうと思ったら気持ちだけでも楽になりました。
お父さんとお母さんに会いたい、ずっとそれを思っていました。

○フルマラソンのドラマ

とうとうゲートが見えてきました。最後の力を振り絞ってとにかくゴールを目指しました。お父さんとお母さん、みんなに会いたいと、強く祈りました。待っててと思いました。
角を曲がったとき、お母さんが、「るりこ!」と呼ぶ声が聞こえました。パッと顔を上げると、お母さん、お父さん、ミニマラソンのみんなの姿がありました。帰ってきたと思いました。
お母さんが、「速かったね~」と両手をギュッと握ってくださいました。その横でお父さんがカメラのシャッターを押しました。会いたかった人、ずっと思っていたお父さんとお母さんに、今やっと会えたと思いました。

折り返しのときも感じたのですが、ゴール手前の500メートルも、お父さんとお母さん、みんなに会えてからが早かったです。喜んでいるうちに、自分の身体が勝手に動いていて、気がつけばゴールテープを切っていました。両手を掲げると、かにちゃんがいました。笑顔でカメラを構えていました。

みかちゃん、ゆうこちゃん、ななほちゃん、りんねちゃん、さやちゃんに迎えてもらって、ベンチに座りました。タイムを見ると、前回と秒数は違いますが、4時間37分台という時間が全く同じだったことに驚きました。
一息ついたとき、(今回待っていた道のりはこんなドラマだったんだ)と思いました。
経った先までわからなかったものが、今すでに目の前に広がっていました。それが不思議なようで、でもきっと前から決まっていたんだとも思いました。自分は示された道を進んでいたんだと思いました。

○積み重ねてきたものを信じて

しほちゃん、あけみちゃん、なおとさんが引っ張ってくれたフルメニューは1月から始まり、約3か月半に及びました。わたしはこの3か月半のなかで、身体と気持ちを鍛えることができたと感じています。
身体に関しては、ランニングやサーキットトレーニングを通しても感じるほど足腰が強くなったと思います。本番でも足はずっと好調でした。
足の疲れや痛みを感じることはなく、ラストスパートに胸が苦しいと感じたときでさえ、足だけは勝手に前に出るからスピードは落とさずに走れました。自分の身体の一部だけど、下半身だけは自分のものではないように思えるくらい脚力がついたと感じました。マラソンが終わった今も、筋肉痛はほぼありません。

気持ちに関しては、なのはなコースを走り切れたこと、ピークの14.2キロを走れたこと、毎日のランニングでの小さな達成感やみんなと共有した喜びの積み重ねが、いつしか自分自身を、みんなを信じる気持ちに変わっていました。

みんなとなら絶対にできる。それはランニングだけでなく、畑でも当番でも、日常生活でたくさん感じられます。毎日のその積み重ねが山となって、『信頼』に繋がりました。

そんな毎日の延長にフルマラソン本番がありました。それはわたしにとって、いつもよりも少し長い距離を走るというだけで、小さなものでも大きなものでもありませんでした。これまでみんなと積み重ねてきたものを、一人ひとりが表現する場でした。

ここまで書いてきて、わかりました。どうしてわたしが初めから終わりまで緊張せずに大きく構えていられたのか。それは、みんなと積み重ねてきたものを信じる気持ち、お父さんお母さん、みんなを信じる気持ち、そして自分自身を信じる気持ちがあったからです。
これまでみんなと積み上げてきた時間と実績が、わたしの大きな大きな励みであり、力だったのです。それはみんながいたからできたことでした。自分の力でも、自分の実績でもないです。なのはなみんなの、力があったからです。

お父さん、お母さん、しほちゃん、あけみちゃん、なおとさん、みんながいたらか、ここまで来ることができました。最後まで走り抜くことができました。この場を借りて、本当に本当にありがとうございましたと言いたいです。
今日の日を新たなスタートとして、次の目的に向かってハードルを乗り越えていきたいです。

●第27回津山加茂郷フルマラソン全国大会【感想文集】●

「みんなとの積み重ねが力に変わる」るりこ

「みんなとの宝物」まなみ

「自分ではないこと」まゆみ

「フルマラソンで学んだこと」まゆ

「夢の初舞台」まち

「まだ見ぬ誰かに繋げるフルマラソン」のりよ

「ミニマラソンを終えて」れいこ