味噌の糀古吉野君 物語

やあ、みんな元気かい?

僕の名前は“味噌の糀古吉野”。
岡山県なのはなファミリー在住の米糀、3歳さ。

それでね、僕には60人の家族がいるんだけれど、
そのうち58人が女の子だったから、
僕が生まれたとき、弟ができたってみんな喜んだんだよ。
みんな僕をとっても可愛がってくれて、大切にしてくれたんだ。

 

 

【蒸米】


僕が生まれた日はとても寒い日だった。
でも、寒いのは米糀にはいいって、
みんな口をそろえて言っていたんだって。

あの朝、真っ白な湯気に包まれて、僕は生まれたんだ。
せいろから出た途端、
みんなの「わー」って言う声と、笑顔が見えたよ。

僕は蒸し布にちっともくっつかなくって、
元気な男の子ですねって、言われたんだ。

 

 

【種付け】

鍋から出るとすぐに、
僕をうちわであおいで、冷ましてくれたよ。

そして、緑の魔法の粉をかけてくれたんだ。

それは「BF1号菌」という名前の、
お米30升に対して、たった12グラムの糀菌だった。

 

 

【引き込み】

その瞬間から、僕は立派な米糀になるため、
ものすごいスピードで成長を始めたんだ。
僕のやる気が冷めないうちに、
みんなが手早く、糀箱に詰めてくれたよ。
その時は、なまこ型にしてくれたんだけれど……。

そうそう、僕の姉ちゃんは、
なまこ型を作るのがとっても上手いんだよ。
あっという間にきれいななまこ型を作るから、
父ちゃんはなんて言ったと思う?

「隣の糀は少なく見える!」だって。

姉ちゃんの糀箱の糀が少ないから、
早いんじゃないかって思ったらしい。
でも、もちろん量は一緒で、
それくらい上手かったってことなんだ。

それから、みんなが1時間おきに見回りに来てくれて、
熱すぎないか、冷たすぎないか
6つの温度計と湿度計をつけて、気にかけてくれたんだ。

 

 

【盛り込み】


そして翌朝、蒸しタオルをはぐるとき、
僕は満開の糀のお花を咲かせて、みんなを驚かせたんだ。

みんながあんまりじーっと見つめるもんだから、
ちょっと照れちゃったけれど、僕を見たとき、
「目がぼやけているみたい!」って言った姉ちゃんもいて、
あれはいい気分だったな。

それからすぐに、頑張った僕をほろほろにほぐしてくれて、
今度はゆったり広げて、糀箱に戻してくれたよ。

 

 

【一番手入れ】

その夜には、一番手入れもしてくれた。
今度は、もっと涼しくなるようにって、
真ん中にくぼみまでつけてくれたんだ。

あ、そういえば……

みんなずっと気になっていたと思うけれど、僕の名前の由来。
どこかで聞いたことがあるとかいう文句は受け付けないけれど、
教えてあげるよ。

まあ、とくに意味はないんだけれど……

「みそのこうじ」ときたら、やっぱりあの人しか、
「あやのこうじ○○○○」さんしか思い浮かばないよねって話になって、
あと4文字何にしようか。

じゃあ古吉野小学校で生まれたから、
「みそのこうじこよしの」でいいかという、
大分、思い切ったつけ方だよね。

ちなみに友達は「花の子ふわふわ」とか可愛らしい名前なのに、
僕だけなんか違うじゃないかって最初は不満だったけれど、
まあ、意外と気に入ってるかも。

 

 

【仕舞仕事】

そして、その夜が勝負になったんだ。
僕は夜中、休まず頑張ったよ。
でも、それはみんなが一緒にいてくれたから、できたことなんだ。

夜も1時間おきに、交代で会いに来てくれた。
僕が熱を出していたら、眠いだろうに、
一生懸命入れ替えをしてくれて、扇風機で風を送ってくれたんだ。
その時、小さな声で、祈るように

「頑張れ…!」

って言ってくれたの、ちゃんと届いていたよ。

翌朝、僕は無事に仕舞仕事を迎えたんだ。

みんなのお陰で、辛い夜も乗り越えられた。
これが僕にしてあげられる、最後の手入れだからって、
みんな愛をこめて糀箱に詰めなおしてくれた。

そして、最後に、川の字に3本の線を引いてくれたんだ。
これを花道をつけるって言って、
僕もしゃんとした気持ちになったよ。

 

 

【出糀】

その日の夕方、米糀に生まれてから3日目、
僕はあっという間に成糀式(成人式)を迎えたよ。

仕舞仕事からは、もう一度、最後の力を振り絞って、
やっと大人になれたんだ。

僕の温度計が40℃になる瞬間を、
やっぱりみんなが集まって見守っていてくれたよ。
ああ、本当に、嬉しかったな。
僕はなんて幸せ者なんだって思ったよ。

そして、これからは立派な米糀として、
みんなのために力を尽くそうと、強く心に決めた。

 

 

【仕込み(味噌玉作り)】

次の日、僕は運命の相手と出会ったんだ。
今日はやけにたくさんの人が集まっているなと思っていたら、
急に僕に大量の塩を振ってきたんだ。
僕はびっくりしたけれど、
あっという間に、キラキラの塩きり糀になっていた。

するとそこに、愛しの花豆ちゃんがやってきたというわけさ。
それはもう、ホクホクで、可愛かったよ。

それから僕たちは、
味噌樽の中で3年間たっぷり愛を育んだんだ。

なのはなのみんなに大切に育ててもらって、
じっくり3年かけて美味しい味噌になって、
それで今日、やっとみんなを喜ばせるということなんだ。

というわけで、みんな、聞いてくれてありがとう。
あったかいお味噌汁で、心も体も幸せいっぱいあふれますように。

【作・絵】 れいこ

 

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