感想文集【3】「ウィンターコンサート」 なおと

 ウィンターコンサートの準備が始まった今から約3か月前から1か月前までの自分は、そのことに対して、あまり熱心ではありませんでした。
 前年のコンサートを映像で見せてもらったことはあるので、その素晴らしさ、力の入れようはわかっているつもりでしたが、自分はダンスやコーラス、そして演劇には関わることはなく、他のイベント出演と同様にギターで参加して、それで終わりだと思って、特別に意気込んだりすることはありませんでした。
 そのギターの練習にしても、バンドでの合わせの練習に間に合うようにある程度形になったらそこで満足して、さらに良くしようという気持ちは薄かったように感じます。ウィンターコンサートというものが、何でもない日常の延長線上にあるように感じていて、あの映像で見た物をこれから作るんだというリアルさを感じていなかったのです。

 その状況が変わったのは、前半の旧脚本が完成し、メインキャストのジーヴスに選ばれてからのことでした。役者として出ることは想定外でしたし、自分には不向きだと思って、初めは戸惑いと不安を感じました。
 しかし、そんななかでも脚本のメッセージ性、物語性には強く惹かれ、この劇をみんなで作っていけるんだ、自分もそこで重要な役割を与えてもらったんだという喜びがありました。それから劇の練習もすぐに始まり、モチベーションも上がっていくのを感じました。
 そして旧脚本の後半を読ませてもらったとき、正直に言えば前半からの期待が大きかった分、何か惜しい感じや釈然としない、モヤモヤとした気持ちがありました。絶対にもっと面白くなるはず、でも具体的にどこをどうすればいいかわからない、というような思いでした。お父さんとお母さんも旧脚本のできには満足せず、改訂を重ねて苦しんでいるようでした。

 それからしばらく経ち、ようやく実際の脚本に繋がる新脚本を読ませて貰った時、前半だけで、それまでのものよりさらに強いワクワク感があって、苦労して覚えた台詞を覚え直してでも、こっちの方をやりたいと思いました。
 今思えば、この辺りから自分は傍観者的な立場から主体的な、本当にいいものを作りたい、最高のコンサートにしたいという気持ちに切り替わり始めていたのだと思います。そんな気持ちは日を追うごとに高まっていき、本番間近には普段の自分らしからぬ全体への責任感が生まれていくのが不思議な気分でした。

 団長役のなおちゃんとの練習は、楽しいものでした。私は演劇に関して全くの素人ですが、それでも役者の1人として、この場面はこういう風に台詞を言いたい、こんな風に動きたい、というアイデアが出てくるものです。そういうものを二人で話し合ったり、実際にやってみるうちに、どんどんそのシーンごとのクオリティが上がっていき、あるべき姿に近づいていくのがわかって、それが嬉しく感じられました。
 なおちゃんの脚本、登場人物、それから演劇そのものへの理解やアイデアの豊富さには驚かされました。まるで自分が作った脚本かのように、団長ならこうする、ジーヴスならこうする、そしてこうしたら全体がよくなる、と言う風にすぐに正解を導き出すことができるのです。だから自分も安心して意見を言うことができたし、そのことで劇や私自身の演技が磨かれていくのも楽しかったです。

 本番が近づくにつれて、私のジーヴスや団長に対する理解も深まり、なおちゃんから意見を求められることが多くなりました。そうして2人で考えたのがグルグルから逃げるシーンの動きだったり、子供の遊びを団長がジェスチャーでやるシーンだったり、ラストシーンの2人の会話なので、なにか自分がただ台詞を覚えて言うだけの存在ではなくて、本当にその役になりきって、その人物に近づいていき、劇そのものを動かしていく、そんな感覚を味わえて楽しかったです。
 ところで、公演後にお客さんをお見送りしているとき、1人の常連客の方がなおちゃんに向かって「あんたはもう役者じゃなくてプロデュースする側にまわれ」という言葉を掛けられていて、その演技だけを見てそこまで言わせたんだなと、わかる人にはわかるんだなという思いがしました。

 今回の演劇を通して、一つ自分の限界を超えることができたと思います。食わず嫌いのようなものでしたが、演劇というと私にとっては一番苦手なことのように捉えていました。
 何百人というお客さんの前で長い台詞を言うなんてことは、緊張で頭が真っ白になってしまうに違いないと思い込んでいました。たぶん、ろくに台詞も覚えずにステージに立っていたら、そうなっていたと思います。
 でも実際には緊張したのは初めの10分くらいのもので、それを過ぎたら楽しむ余裕さえもありました。それはやはり何回も何回も繰り返した練習の成果で、努力によって、練習通りにできるとんだいう自信をつけたことで不安を乗り越えたのだと思っています。

 人生とは目標を設定し、それを乗り越えることの繰り返しだとお父さんは教えてくださいました。改めてウィンターコンサートは自分にとってかなり高いハードルだったと思います。でもその成功を信じて全力で妥協せずに取り組み、乗り越えることができたことは本当に何よりの財産になったと感じています。
 加えて言えば、一つの目標に向かってこれだけ努力したことも実は初めてなんじゃないかと思います。なぜこれだけがんばることができたか、その理由を考えてみると、一つに自分の失敗がみんなの失敗だから、ということが言えるかもしれません。
 自分がめちゃくちゃな演技や演奏をしたら、コンサートは台無しで、お客さんも含め、関わった全ての人に迷惑をかけてしまう。だから成功は必然でなくてはならなくて、そのみんなの努力や期待やといった大きな波のようなものの中で自分は突き動かされていたのではないか、と思いました。みんなの力あってのものだと改めて思わされます。

 そしてもう一つは表現したいものがあったからです。私は今回の脚本が大好きです。その根底にあるなのはなファミリーの信念そのもので、それを劇にして、音にしている。それを何百人という観客に向けて発信することができる。こんなに痛快なことはないと思います。観てくれた人の心に何か届くものがあったら嬉しいです。アンケートもこれから読んでみようと思います。

お父さんの、ウィンターコンサートが毎回成功に終わるというお話を聞いて、それも当然だと思いました。みんなが必死で努力して一つの目標に向かっていく。その本気が一つの動作、表情、声、音、あらゆる部分に現れて、観る人の胸を打つ。自分がその一端を担うことができたこと、そして成長させてもらう機会を頂けたこと、本当に嬉しく、誇りに思います。ありがとうございました。