脚本で旅する なのはなファミリーウィンターコンサート Part6

舞台、上手側に
テーブルの前で、数人のカメラマンらしい人が待っている。
テーブルの前には、「ノーベル平和賞 受賞記念会見」と張り紙が下がっている。
数人の記者もいる。

秘書らしい人が上手から出てきて、椅子の横に立つ。

秘書:
大変、お待たせ致しました。
これから、記者会見を行ないます。
先生、どうぞ!

 

BGMギター演奏 ファーストシューズ
   ―― 小松原 俊 作曲
【編成】アコースティック・ギター 4名

 

フラッシュが焚かれる中を、光太郎が上手から出てくる。
テーブルに座る。
えりこ、下手側から出て、この記者会見の様子を見ている。

記者:
先生、ノーベル平和賞、受賞おめでとうございます。
まず、今のお気持ちを――。

光太郎:
とても光栄です。
私の提案は、ともすると受け入れ難い突拍子もないことでした。
それが世界中で受け入れられ、世界平和に結び付いた、そんな評価をノーベル平和賞という形で受けられたのは嬉しいです。

記者:
先生の活動は、世界の先進国が少子化で困っているのを、一度に解決したことです。
奥様のえりこ夫人と協力して、日本ばかりでなく世界を救いましたね。

光太郎:
過去の歴史をひもとくと、どんなに栄えた国でも、
結局は、子供の数が少なくなって滅んでいきました。
日本をはじめ、先進国はどの国も、その悩みを抱えていました。

記者:
それを、先生は見事に解決されました。
先生の功績は、どう表現するのが適切でしょうか。

光太郎:
「世界七福神会議」を開いたことでしょうね。
世界七福神会議では、それぞれの国の七福神が、サイコロを持ち寄り、
全世界、人生ゲーム大会を開いたのです。
そこには、交渉も妥協もありません。戦争もありません。
あるのは、ただ、サイコロと運だけ。
どんな結果が出ても、どの国も受け入れるしかありません。

記者:
それにしても、すばらしい発想です。
世界の国々に、七福神が実在していたなんて、
先生のほかは誰も思いつきませんでした。
発想のきっかけは何だったのでしょう。

光太郎:
やはり、日本の七福神がサイコロを振っている現場を見た、
その体験が大きいですね。

記者:
七福神とのコネクションはそのときにできたというわけですか?
どうやれば七福神と話しができるのですか?

光太郎:
誰でも、欲得なしで、心の中で七福神を思い描けば話しができるのです。
もっとも、私の場合には義理の息子が七福神なんでね――。

秘書:
先生、お電話が入っています。息子さんの七郎さんからです。

光太郎:
おお、私の7番目の息子から電話が入った。
すまないが、この辺にしてもらえないか。
失敬――。

秘書:
先生、祝賀パーティの時間も迫っています。(歩きながら)

 

演奏 アイム・アライブ
   ―― セリーヌ・ディオン

【編成】ボーカル、サブボーカル、トランペット、アルトサックス、テナーサックス、トロンボーン、キーボード、エレキギター、ベース、ドラムス、パーカッション(ボンゴ、タンバリン、シェイカー)、多人数コーラス / フラダンス24名

演奏終了後、ダンサーははける。
えりこが下手から、走ってくる。
ステージには光太郎だけがいる。

えりこ:
光太郎さん、すごいわよ!
日本がリードして、世界の先進国の少子化の問題を解決してたわ。
あなたが、活躍したんですって。
そしてノーベル平和賞を受賞していたのよ。

光太郎:
ぼ、僕が、ノーベル平和賞を……。本当に僕だったのかな。

えりこ:
そうよ、あなた、なのよ。それと子供を7人産んでいた……。(口を押さえる)
結婚しない人に、独身税の罰を与えたり、
子供を作らない人にハンディを負わせるような仕組みでは、きっとダメなのよ。
世界のどの国もまだ作りだせていない、
「みんなが幸せになる」仕組みを発明するの。

光太郎:
世界中の七福神を、集めてみようかな……

えりこ:
……わたし、生きていくのが嫌になっていたの。
一生懸命に、頑張るんだけど、いつも空回り。
この日本って、私にあっていない。生きるのって、私には似合わない。
わたし、いつ死んでもいいや、って、投げやりな気持ちになってた。
だけど、あの夢を見てから、あなたといろんなところを見て来て、
いまやっと、その理由がわかったような気がする。

光太郎:
僕も、きみと、まったく同じ気持ちだよ。
とっても難しいことだけど、
そして、何からどう手をつけていいかわからないけど、
生きていくことが虚しくならないような、
死んでしまいたくなる人が出ない、
そんな世の中に作り変えていくために、
えりこさん、一緒に力を合わせていかないか。

えりこ:
いいわ。そのためなら、生きていきたい。

 

 

演奏  トゥー・マッチ・ラブ・ウィル・キル・ユー
   ―― クイーン

【編成】ボーカル、サブボーカル、キーボード、エレキギター、ベース、ドラムス、多人数コーラス / ダンス2名

演奏終了後、ダンサーははける。

光太郎とえりこ、エビ天 下手から七福神のもとへ

光太郎:
見てきました、未来の自分を――。
自分なりに、よく考えて、升目をつくり、サイコロを振ります。

恵比寿:
そりゃ、よかった、よかった。
ところで、あなたがたはエビ天さんの父親と母親だそうだね。

光太郎:
あの、その話しなのですが、父親というわけでは……。

えりこ:
母親というわけでも……。

光太郎:
でも、サイコロ型のたまごを未来人から預かり、それを持ち帰りました。
それは、あの、夢の中で……というか、……事実です。

エビ天:
それが、僕なんです。

光太郎:
タマゴのときから、天ぷらのいい匂いがしていました。

エビ天:
そうです。だから、僕のお父さんとお母さんです。

光太郎、えりこ:(顔を見合わせる)

恵比寿:
どうも、日本の未来を悪いほうへ、悪いほうへと書いたのは、
それが原因のようなのだ。

エビ天:
そうなんだ。
早く日本を消滅させて、僕が産まれないようにしたかったんだ。
僕は、いらない子供。産まれないほうがいい子供だから。
僕はタマゴの時から聞いていたんだ。
本当は、丸いタマゴで育たなければならなかったのに、
僕が不良品で、サイコロ型のたまごだった。
処分されそうになったとき、助けてくれたのがお父さんとお母さんだった。
僕はタマゴだったけど、嬉しかった。
そして、お父さんのポケットの中で、たまごからさなぎになった。
僕は、さなぎから産まれて、
お父さんとお母さんのもとで育つはずだったんだ。

光太郎:
さなぎ? あのエビ天が……。

エビ天:
そう、なのに、あるとき、お父さんとお母さんは、
ボクを放り投げたよね。ボクはまた捨てられた、と悲しかった。
ボクは宙に浮いて、何かに引っ張られるように、ここに来たんだ。

光太郎:
放り投げたわけじゃなかったんだ。僕の手から――。
急に何かに釣り上げられるように、飛んでいったんだ。

恵比寿:
ああ、あの時に釣った海老フライのようなエビ天が、エビ天くんだったのか!

3人:
ええーーっ!!

恵比寿:
そうだったのか、それは、悪い事をした。
お前はお父さんとお母さんに、捨てられた子ではないよ。
私がお前を釣り上げたのじゃ。

エビ天:
そうなの? 僕は捨てられたわけじゃなかったんだ。

えりこ:
誤解が解けて、よかった。
これで、エビ天さんもきっと頑張ってくれると思います。
私も光太郎さんと一緒に頑張ります。

恵比寿:
そうか、よかった。一件落着、といいたいところだが……。なあ、皆の衆。
(といって、七福神たちを見る)
君たちには、とても言い難いことなんだが……。

光太郎:
え、どういうことですか?

(やや、間があいて)

恵比寿:
ここで、新しく升目を書いて、サイコロを振ることができるのは、
1人だけなんじゃ。

えりこ:
1人だけ?!
どうして? 私と光太郎さん、そしてエビ天さんがいるじゃない?

恵比寿:
ここで新たに升目を書いて、サイコロを振れるのは1人だけだ。
わしはもうすぐ引退する。人間出身の神はこの中で私だけなんじゃ。
修業期間が終ったら、引退するわしの代わりに七福神になってもらいたい。
新たに人間界から入る時には、いつも1人しか入れない。それが決まりなんじゃ。

えりこ:
どうして?!

エビ天:
じゃあ、僕が1人、残るよ。

えりこ:
そんなわけにいかないわ。あなたはまだ半人前なんだから。

光太郎:
……わかりました。
エビ天さんは、えりこさんと、一緒に下界に下りて、
普通の人として、生きて行ったらいい。
ここは僕が、1人でやっていくよ。

えりこ:
3人とも残っちゃ、ダメなんですか!?

(七福神は下を向く。恵比寿だけが首を横に振る)

えりこ:
いや、私が1人、残るわ。
光太郎さん、あなた母子家庭でしょ。
あなたがここに残ったら、お母さんが悲しむわ。
光太郎さん、あなたには人間界で頑張ってほしいの。
私、いいわよ。ずっとここでサイコロを降り続ける。
絶対にゲームオーバーにしないように頑張る。
二回目の上がりが来る日まで。
光太郎さんは、エビ天さんと下界に下りて。

光太郎:
そんなこと、できない……。

 

演奏 ルナ(オリジナル曲)
   ―― 小野瀬健人 作詞・作曲 / 遠藤里美 編曲

【編成】ボーカル、ソプラノサックス、キーボード、エレキギター、ベース、ドラムス

 

演奏終了後、照明が落ちる。

薄暗がりの中で、コーラス
「とーりゃんせ とーりゃんせ
ここはどーこの細道じゃ 天神様の細道じゃ
天神様の細道じゃ、ちーっと通してくだしゃんせ
御用のないもの 通しゃせぬ
この子の七つのお祝いに、お札を納めにまいります
いきはよいよい かえりは恐い
こわいながらも とおりゃんせ とおりゃんせ」

照明が、明滅する。

天神:
皆さん、お困りの、ようですね。

えりこ:
あなたは……、あなたは、誰ですか?

天神:
天神ですよ。

七福神:
天神さま!!

天神:
日本は、もともと多神教の文化がありました。
日本人は、何にでも、神様を見ることができるのです。
物欲、金銭欲にまみれているうちに、
モノをモノとしか見なくなり、
やがてヒトをヒトとも思わなくなっていった。
私ももとは、菅原道真という1人の人間。
それが後の人々によって、天神という神にしてもらいました。

日本では「1人を慎む」という言葉が大事にされてきました。
ヒトは、それぞれの心の中に、神を持っていて、
その神に恥ずかしくない行動をとる、
それが日本人のモラルだったのです。

光太郎さん、えりこさん、
あなた方はもう神の存在をどこにでも見ることができるはずです。
下界に降りて、この多神教の気持ち、日本人の本来のモラルを、
改めて広げていってください。
何よりも、そのことが少子化の歯止めにつながるはずです。

日本には神様の仲間が、
八百万神(やおろず)といって八百万の神がいるのです。
心の中で、呼びかけてくれたら、
いつでも、どんなことでも助けにいきます。
たくさんの神様の存在と、日本のモラルを取り戻してください。

そして、エビ天さん。
あなたが、ここでサイコロを振ってくれませんか。

七福神:
うむむむ……(みんな、まずいな、と思っている様子)

エビ天:
まだ、僕が日本をつぶすようなことばかりを書くって、みんな心配してるよね。

七福神 光太郎 えりこ:……(みんなでエビ天を見つめる)

エビ天:
もう、マイナスなことは、絶対に書かないよ。

えりこ:
天神様。この子は未熟なので、
もう一度、私達が下界で育てたいと思っています。
天神様が、ここにいて下さるなら、この子がいなくても大丈夫じゃないですか。

エビ天:
いや、いいんだ。
僕は、お父さんとお母さんに、タマゴのとき、命を助けてもらった。
そして、お父さんは僕のことをいいにおいと言ってくれて、
「エビ天」という名前をつけてくれた。
お父さん、お母さんと、一緒に旅行にも行けたし、
お父さんとお母さんから僕が大切に思われてるってわかったから、
それで充分だよ。……産まれてきてよかった。

僕は、今度は、ここで真面目に働きます。

天神:
ここは、エビ天さんに任せましょう。

エビ天:
大丈夫だよ。
僕には、いま、大きな目標ができたんだ。
大好きな、お父さんとお母さんのために、いい未来を作る。
そしてお父さんお母さんの子孫のために、頑張るよ。

ひどい升目をいっぱい作ってしまったけど、
きっと挽回できるように、いい升目を作る。
そしてサイコロをたくさん振るよ。
心配しないで――。

光太郎、えりこ(2人とも、エビ天に近寄る)

エビ天:
僕を、救ってくれて、ありがとう。
僕は、未来から来た人間だから、
ここで未来を見つめて行く役割がピッタリなんだ。大丈夫。

光太郎:
きみのことは、ずっと忘れないよ。

えりこ:
楽しい時間をありがとう。私達、ずっと応援しているよ。
いいことがあるたび、
エビ天さんが、
サイコロを振っていい目を出してくれたって、思うからね。

天神:
それでは、光太郎さん、えりこさん、そろそろ下界に戻る時間じゃ。

天神を照らしていた、薄明かりのライトが消える。

光太郎:
七福神のみなさん、お元気で……。

えりこ:
エビ天さん、しっかりね!
さあ、光太郎さん、行きましょう!

 

 

演奏    アイ・サレンダー
   ―― セリーヌ・ディオン

【編成】ボーカル、サブボーカル、エレキギター、キーボード、テナーサックス、ベース、ドラムス / ダンス48名

 

 

 

 

 

これにてコンサートは終演です。
ご覧いただき、ありがとうございました!