脚本で旅する なのはなファミリーウィンターコンサート Part3

演奏 フェアリーストーリーズ(遊び歌)10曲目
   ――福田洋介 作曲 

【編成】ソプラノサックス1名、アルトサックス2名、テナーサックス2名、バリトンサックス1名、トロンボーン1名、パーカッション2名

演奏終了後、演奏者ははける。
上手から2人とエビ天が出てくる。
上手側の端っこのほうで演技

えりこ:
見て、あの山。そしてあっちの山も……。道路がなくて山ばかり。
まるで、原生林の杜に迷い込んだみたい。

光太郎:
ああ、木が生い茂っていて、道路に覆い被さっている……。

下手側、奥に、スコップで穴を掘っている老人を、光太郎が見つける。
誰かいる、と光太郎がえりこに注意を促す。
2人はそーっと、ステージセンターあたりまで近づく。

光太郎:
あの、ちょっと伺いますが、何をしてらっしゃるんですか?

老人:
(ちら、と2人を見て、穴掘りを続けながら)
見ればわかるだろ。穴を掘ってる。

えりこ:
ずいぶん山深い村ですね。

老人:
ああ。(構わず、穴を掘っている)

光太郎:
……それ、何の穴ですか?

老人:
人を埋める穴だよ。

えりこ:
人を埋めるんですか?!
(2人は顔を見合わせる)

光太郎:
人っていったい、誰なんです?!

老人:
(ようやく手を止めて、客席のほうに歩いて来て立ち止まり、セリフ)
わしの、女房だ。ばあさんだよ。
ここでずっと連れ添ってきたがな、昨日、亡くなった。
いつまでも置いとくわけにもいかんから、埋める。
ん? 葬式はしないのかって聞きたいか?
ここから50キロ四方には誰も住んでない。親戚もおらん。
いやぁ、ここは30年前まで人口2万人のりっぱな地方都市だった。
それが今じゃ、誰もいないんだ。
郵便も届かない、黒猫ヤマトも、佐川急便も来ない。Amazonも来ないよ。

光太郎:
じゃあ、楽天も来ない。
ひょっとして、インターネットもない? 電話もない? 携帯もない?

老人:
(少し調子をつけて言い、身体も両手を突き出して船をこぐように)
ああ、水道もねぇ、電気もねぇ、カネもなければ、あいそもねぇ。
ナイナイづくしなんだ。
その代わり……。

えりこ:
その代わり、なんですか?

老人:
その代わり、出るものは、たくさんあるぞ。
イノシシが出る。鹿が出る。熊が出る。サルが出る。
(調子をつけて)タヌキ、キツネに、ハクビシン。
(調子をつけて)畑に作物つくっても、全部、けものに食べられる。
もう、畑を作る気がしねぇな。

エビ天:
じゃあ、イノシシと、鹿と、熊と、猿を食べればいいんですね。

えりこ:
(小さな声で驚く)えーっ?! エビ天さん、なんてことをいうの?!

老人:
あんた、よく知ってるね。
……ほんとに、うまいんだ、これが。
ほら、あそこ(客席のほうを見て)、こんもりした林になってるが、
20年前までは、きれいな田んぼと畑だった。家もあった。
いまじゃ、イノシシの狩り場だよ。

エビ天:
僕も、くくり罠猟をしてみたいなと、思っていたんですよ。

光太郎:
住んでいた人たちはどこへ行ってしまったんですか。

老人:
人が少なくなると、上下水道も、道路も、直す人がいなくなり、
残ったわずかな人も、みんな都会へと移ったよ。
ここに住み続けたいという人は、勝手にどうぞ、と見捨てられた。

えりこ:
じゃあ、仕事も、年金も、健康保険も……。

老人:
何もない。いまじゃ、日本という国があるのかどうか、それもわからん……。

光太郎:
そんなに早く、日本の地方はダメになったんですか?!

老人:
いやあ都会に行っても、惨めな生活さ。
いまや世界中で食料の奪い合い。都会の食料事情はここよりずっとひどいものだ、
そんなふうに聞いてるよ。もっとも、10年も前のことだがね。
……君たちにも、何か食べ物を分けてあげたいんだが……。

光太郎:
いえ、僕たちは大丈夫です。それより、穴を掘るのをお手伝いしましょう。

老人:
いや、これでも恋女房だったんだ。送るときの穴は、俺が掘ってやりたいんだ。
久しぶりで、若い人と話せて、楽しかった。7年ぶりだったかな。

エビ天:
僕も、楽しかった。……イノシシ捌くところ、見たかったな。

光太郎:
もう戻ろうか。

3人、上手へはける。老人、下手へはける

 

演奏 レインボー・チェイサー(ギターアンサンブル)11曲目
   ―― 中川イサト 作曲

【編成】アコースティック・ギター13名

演奏終了後、奏者ははける。

惨めな様子で3人が上手から、七福神の元へもどろうとするとき
舞台上手袖で。

エビ天:
お父さん、お母さん、驚いたでしょ。
(あっ、しまった! という顔で、慌てて口を手で押さえる)
(この言葉が終ってから、光太郎は出る)

えりこ:
なに? いま、お父さん、お母さんって言わなかった。
(聞きとがめた感じで、はっきり言う)

光太郎:
(なにげなく)驚いたね、あの生活には。(聞き流す)

ひどいものだ。子供が少ないというのは、地方が消えていくということだ。
僕が50歳になったときといったら、そんなに遠い未来じゃない。
まさか日本があんなふうになるとは、思いもしなかった。

エビ天:
ま、仕方ないんじゃないかな。
それが時代の流れ、というもの。
でも、あれは、まだまだ少子化が招く悲劇の、序の口だよね。

えりこ:
エビ天さん、なんか嬉しそうね。
日本が衰えていくのが、そんなに楽しいの?

エビ天:
そんな、めっそうもない。
充分、悲しんでいますよ。オーイオイオイ。エーン、エーン……
ほら、悲しんでるでしょ。
でも、もうちょっと先も見てきたほうがいいんじゃないかなぁ。
もっと、もっと、悲しい先が待っていると思うんだけど(と嬉しそうに)

光太郎:
どういうことだ、もっと悲しい先、とは。

エビ天:
では、もっと未来にお連れします。どうぞこちらへ――。

エビ天たち、上手にはける。

 

演奏 ローリング・イン・ザ・ディープ  12曲目
   ―― アデル

【編成】ボーカル、サブボーカル、エレキギター、キーボード、ベース、ドラムス、多人数コーラス / ダンス8名

演奏終了後、ダンサーははける。

舞台奥の、中央よりも上手側の位置に、
露天商が何人か、店を開いている。
自分の前にござを敷き、そこに商品をわずかに並べている。
三味線を弾いて、小銭入れを置いている人
露天の土産物屋 常陸手まりを売っている人
安物の偽真珠の首飾りを売っている人など
その一番、下手側にセリフの露天商1と2がいる。

露天商1:
ヘイ、ガイ! スーブニール! スーブニール! テンダラ! テンダラ!

露天商2:
パール・ネックレス テンダラ!リアル パール、ノットプラスチック……

光太郎:
は? テンダラ!?  じゅうドルってこと? (エビ天のほうを見る)

露天商2:
なんだ、日本語が話せるのか。

光太郎:
もちろんですよ。あなたも日本人でしょ。
テンドルなんて言って、千円じゃないんですか?
いったい、ここは……。

観光客らしい通行人が何人か通って、買い物をしている。
ギターBGMが始まるころまで、通行人は歩く。

露天商1:
ここは、東京も東京。東京の真ん真ん中さ。
だけど、本国からの観光客が来なきゃ、商売は上がったりだよ。

えりこ:
本国?! 本国って、どういうことですか。
日本が本国じゃないんですか……。

露天商2:
ああ、違うよ。ここはとっくに日本じゃない。アメリカだろ、アメリカ。
あんた学生だろ。学校で習わなかったか。日本というのは昔のこと。
いま、ここはアメリカ国、ニュージャポニカ州。なんだい、寝ぼけたこといって。

光太郎:
えっ?! 日本じゃない?!

えりこ:
ニュージャポニカ州……。

 

BGM演奏 スモーカー(ギターアンサンブル)
   ―― 岸辺眞明 作曲

【編成】アコースティック・ギター 5名

BGMが始まったら、ほかの露天商は店を畳んではける。

露天商1:
日本という国は、140年前に、なくなって、いる。
おじいちゃんのおじいちゃんの、そのまたおじいちゃん……くらいの時代かな
日本という国は、この地球の上から、なくなったのさ。

露天商2:
西暦2020年、東京オリンピックがあった。それが日本の最後の輝きだった。
でも、その時はもう、日本人女性の2人に1人は50歳を超えていた。
おばあちゃん国になっていたんだ。

露天商1:
高齢化は人類史上、例のない速さで進み、
そこへ一気に少子化。人が減って、あっという間に日本は傾いた。

露天商2:
日本の沿岸に外国人が住み始めたのが2065年ごろ。
もちろん、勝手に船でやってきて、住んでいたのさ。
自衛隊に入隊する人がなくて、海岸はどこも手薄だったからね。
当時の政府が、あわててアメリカ軍に助けを求めた。

露天商1:
でも、沿岸警備じゃ、おいつかない。
間違いなく日本は滅ぶ、と判断した日本政府は、
せめて日本人だけでも残そうと、アメリカに日本を組み入れてほしいと頼んだ。

露天商2:
少子化って、ひどいもんだ。知ってる? しょうしか。
何しろ、税金を払う人が少ないから、
財政が破綻して福祉もない、警察もいないし、消防もない、
大手企業も働き手がいないものだから、次々に倒産。

露天商1:
仕事をなくした失業者が国中にあふれ、みんなが貧乏人に逆戻り。

露天商2:
それでアメリカの51番目の州。ニュージャポニカ州となったのさ。

光太郎:
少子化で、日本が立ちいかなくなった?!

えりこ:
日本がアメリカに編入された?!

光太郎:
…………ここは、アメリカなのか? 日本が、アメリカになってしまったなんて
(少し気を取り直して)
でも、あなたがたは、日本語を話していますよね。

露天商1:
アメリカの属州にはなったけど、公用語は日本語と英語。
ニュージャポニカでは日本語教育を続けていいことになってるのさ。
でも、みんな日本語を使い続けているよ。英語をしゃべる人なんていないね。

露天商2:
(笑いながら)アメリカ本土の観光客が来たら別だけどね。
売らなきゃならんから。

露天商は自分の屋台に戻る。
露天商から2人は離れる。少し、下手のほうへ。

エビ天:
(得意げに)ほらね、驚いたかな。
まあ、ここまで来ると、もう日本が日本じゃないわけよ。
でも、もう無理なんじゃないのかなあ。きっとここくらいまでは、いくよ。
日本はもう手遅れなんですよ、手遅れ。

光太郎:
……驚いた。本当に、驚いた。
だけど、本当の手遅れにしちゃ、いけないだろ!(エビ天に)
エビ天さん、何か、方法を知ってるんだろ。教えてくれよ。

エビ天:
しらない……。

えりこ:
エビ天さん、何とか、こうなる前に、食い止めなくちゃならないの。

エビ天:
……。

光太郎:
エビ天さん、何か、僕たちに、隠してることでもあるのかい?
日本は少子化対策の手が、打てていない。
このまま行けば、……やがて、日本がなくなってしまう。

えりこ:
エビ天さん、私達と一緒に、やろうよ。

光太郎:
日本人として、日本の国を守ろうよ。僕らは日本人じゃないか。

 

演奏  ファイト・ソング  13曲目
   ―― レイチェル・プラッテン

【編成】ボーカル、サブボーカル、エレキギター、キーボード、ベース、ドラムス、多人数コーラス
/ ダンス28名

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