
下手からえりこ、光太郎。
下手側の途中で立ち止まり、セリフ。
えりこ:
このままどんどん人口が少なくなったら、
日本は、ほんとうに困ることになる、と
本気で考えている人は、まだまだ少ないわよね。
私達にできることって、何があるんだろう。
光太郎:
そうなんだ。まして、僕たち、まだ高校生だし、できることは限られている。
ハッキリ、僕たちにこうしなさいって、教えてくれる人、いないかな。
えりこ:
いないわよね。……いるとしたら、神様ぐらいじゃないかしら。
2人が話している途中で、上手で恵比寿が釣りをしている。
かなり離れたところから、客席を向いて、唐突にセリフ。
恵比寿:
……あの、それだがね。
サイコロを転がして、ほしいんじゃ。
光太郎:
あ、ビックリした。おじいさん、聞いてたんですか。
恵比寿:
ああ、君たちに、未来の日本を見せたのは、このわしなんじゃ。
2人は、恵比寿に近づく。
えりこ:
おじいさんが?! おじいさんは、誰ですか?
光太郎:
まさか神様じゃあるまいし……。
恵比寿:
わたしは、「恵比寿」と申す。(ホレ、と釣り竿と鯛を見せる)
光太郎:
え、七福神の恵比寿さま、ですか。……もっと太ってるのかと思った。
恵比寿:
ちょっと、コレステロールが高くなったので、痩せたんじゃ。
光太郎:
それで、僕たち、何を、どうすればいいんです?
恵比寿:
まずは、君たちにぜひ、見てもらいたいところがある。
ついてきなさい。
3人、舞台下手にはける
演奏 G線上のアリア(サキソフォンアンサンブル) 6曲目
―― J・S・バッハ
【編成】ソプラノサックス1名、アルトサックス2名、テナーサックス2名、バリトンサックス1名
演奏終了後、奏者ははける。
上手から七福神が出ばやしと共に、踊りながらでてくる。中央に座る。
演奏 出囃子(でばやし)
キーボードだけで『キュア』のイントロ
後ろのドアから、恵比寿と光太郎 えりこが出てくる。
恵比寿:
(6人に向かって)やあ、待たせたな。お連れしたよ、2人を。
光太郎:
……初めまして。
えりこ:
こんにちは。 こんなとき、なんて挨拶したらいいのかしら。
恵比寿:
いや、いいんだ、いいんだ。紹介しよう。
こちらが、大黒天だ。
大黒天:
よろしく。食物、財福の神様じゃ。
恵比寿:
そちらが毘沙門天。
毘沙門天:
よろしく。闘いの神だ。国を守り、尽きせぬ福と、長命の福を授けるのじゃ。
恵比寿:
次が弁財天。
弁財天:
この中で、紅一点の女神なのよ。美と智恵と、音楽、芸術の神なの。
恵比寿:
そして福禄寿。
福禄寿:
福徳、人徳、長寿の神様じゃ。
恵比寿:
そして寿老人。
寿老人:
よろしく。健康、長寿、幸福の神様だな。
恵比寿:
布袋尊。
布袋尊:
よろしく。開運、良縁、子宝の神様じゃ。
恵比寿:
あれ、次は誰だったかな。
エビ天:
いやですよ、恵比寿様。ボクのことを忘れるなんて。
最近、お邪魔している「エビ天」ですよ。
災いをもたらす、エビ天、じゃなかった、えーと何だったかな、
僕の担当は、……決めてもらってないんですよ。まだ子供だから。
えりこ:
七福神って、神様だったんですか?
七福神、みなベターッ、と床に倒れる
福禄寿:(真っ先に起き上がり)
みんな、落ち込むな。仕方ないよ、この頃、出番が少ないから。
あのね七福神の「じん」は、福をさずける人(ひと)のじんじゃなくて、
福をさずける神、のじんなのよ。
ちゃんとした、神さまなんです。(とえりこに向かう)
えりこ:
ごめんなさい。わかりました。七福神の神様。
光太郎:
七福神が実在するなんて、思わなかった。
恵比寿:
もともとはインドのヒンドゥー教の神様と、
(はーい!、と弁財天まで手をあげる 手を上げる方向はバラバラ)
中国の道教と仏教の神様、
(はーい!、と福禄寿、寿老人、布袋尊の3人が手をバラバラに上げる)
がほとんどなんじゃ。……エビ天さんは、もとはどこ出身だっけかな。
エビ天:
もとは? えーと、えーと、名古屋出身だにゃあ。
エビフリャーからエビ天に……
あのー、信じてないわけじゃないんですけど、
本当に神様だったら、何か、神様らしいところ、
神業(かみわざ)っていうんですか
せっかくだから、お2人に何か、見せてあげて、くださいよ。
恵比寿:
神業(かみわざ)ね。……いま? (エビ天に聞くと、うんうん、と頷く)
……ここで?(またも、エビ天、うんうんと頷く)
それでは、音楽と芸術の神、弁財天。
あれをお見せしたらどうかな。
弁財天:
それでは、神の奇跡、ミラクルをお見せしましょう。
えりこ、光太郎、エビ天は下手へはけ、七福神は後ろのドアにはける
演奏 ザ・ミラクル 7曲目
―― クイーン
【編成】ボーカル、サブボーカル、エレキギター、キーボード、
ウインドシンセサイザー、ベース、ドラムス、多人数コーラス
/ ダンス15名
演奏終了後、ダンサーははける。
七福神はドアから、3人は下手、客席側から出る。
えりこ:
すごい、すごーい、楽しかったです。
光太郎:
見事な、かみわざでしたね。
エビ天:
ほんものの神様は、やっぱ、違うね。
だけど、1つだけじゃ、なーんか、物足りないな。
恵比寿さん、何か、もっと神業を見せてくださいよ。
大黒天:
神業(かみわざ)ね。
商売繁盛の神様の恵比寿さん、
数字に強いあなただから、あれはどうかな……。
恵比寿:
では、皆さんに(と光太郎えりこをさす)、
神業(かみわざ)を体験していただこう。
七福神、全員が立つ。
まず、大黒天が1歩前に出る。
以下、恵比寿がセリフを言う。アクションは( )の七福神で、垂れ幕を垂らす。
恵比寿:
(大黒天) 1から9までの数字から、何か1つの数字だけ、頭のなかで決めてください。
「1から9までの数字から、何か1つの数字を選ぶ」(垂れ幕)
(毘沙門) 数字がひとつ決まったら、それに1を足してください。
「1を足す」(垂れ幕)
(弁財天) そして、その数字を2倍にする。
「2倍にする」(垂れ幕)
(福禄寿) それができたら、さらに、その数字に4を足してください。
「4を足す」(垂れ幕)
(寿老人) はい、そしたら、その数字を2で割ってください。難しいですよ。
「2で割る」(垂れ幕)
(布袋尊) できましたか。最後に、その数字から、最初に決めた数字を引いてください。
「最初に決めた数字を引く」(垂れ幕)
いま、皆さんの頭のなかにある数字を、神業(かみわざ)で言い当ててみせます。
……(俯いて何かを念じている様子。七福神は顔を上げたまま)
その数字は……「3」だ!
(その言葉と同時に、全員がどうだ、と光太郎のほうを向く)
エビ天:
すごーい! 当たってる! やっぱり、神様なんですね。
光太郎、えりこ 顔を見合わせて、大きく頷く(うなずく)。
七福神、後ろ足でさがりながら、ドアからはける。
恵比寿:
わかったかな、これが神様の実力じゃ。
3人は下手にはける。
演奏 ザ・キュア 8曲目
―― レディ・ガガ
【編成】ボーカル、サブボーカル、エレキギター、キーボード、
ウインドシンセサイザー、ベース、ドラムス、多人数コーラス
/ ダンス5名
演奏終了後、ダンサーははける。
3人が下手から、七福神はドアから出る。
光太郎:
皆さんが、ここに集まって、何をなさっているんですか。
恵比寿:
それなんじゃ。
双六ゲームをしておるんじゃよ。そのサイコロを振ってな。
そこにずーっと、升目があるじゃろ。その目を進んで行く。
それが、そのまま日本の運命になる、という寸法だ。
えりこ:
日本の運命になる!?
恵比寿:
ちょっと大黒天さん、やってみてくれんか。
大黒天:
せーの(と、サイコロを振る 目を読む)
13です。
弁財天:
1、2、3、4……13。(と自動車の型を動かす。日の丸の旗をつけている)
恵比寿:
読んでごらん。
弁財天:
えーと、大手企業の不正検査とデータ偽造が発覚。日本の信用を失う。
初めての出産年齢が31歳に上がる。12マス戻る。
エビ天:
(うれしそうに)12マス、もどる。(と、自動車を動かす)
おや、ここの目では、小学校、中学校、高校でいじめ1年間に32万件以上も!
恵比寿:
これ、この通りなんじゃ。次々に悪い目がでてしまう
行きつ戻りつしてばかりで、さっぱり前に進まないのじゃ。
それだけじゃなくて……、
(6人が、バラけて、ステージ上の升目を、ほうぼう改めて見てまわっている)
……、なあ。
(6人は中央に戻ってきて、また、うんうんとお互いに確かめあっている)
えりこ:
それだけじゃないって……。どうなるんですか?
恵比寿:
そっちに行っても、あっちに行っても、
ゲームオーバーしか、道がなくなってしまった。
えりこ:
ゲームオーバー?! ですか。どういうことです。
恵比寿:
日本が滅んでしまう、ということじゃ。
光太郎:
そんな、まさか……。
エビ天:
ヒーッヒッヒッヒ……。あ、失礼。
恵比寿:
実は、私らも年をとってしまい、1500歳にもなると、神通力が落ちる。
こんなことになってしまって……。若い人に、なんとかしてもらいたいのだ。
光太郎:
僕たちが、
えりこ:
さいころを?……。
光太郎:
では、試しに振ってみます。
(僕からいくよ、とえりこに声をかけてサイコロを転がす)
七福神、身を乗り出して、サイコロの目を確かめる。
弁財天:
20です。(1、2、3といいながら、自動車を動かす)
3Kのブラック企業、また給料の未払いが発覚。
女性の未婚率、さらに上がる。10マス戻る。
エビ天:
ヒーヒッヒッヒッヒッヒ……。10マスもどる、と
(うれしそうに、10マス戻す)
身を乗り出していた七福神、がっくりとまた元に戻る。
演奏 スキャンダル 9曲目
―― クイーン
【編成】ボーカル、サブボーカル、エレキギター、キーボード、
ウインドシンセサイザー、ベース、ドラムス、多人数コーラス
/ ダンス6名
演奏終了後、ダンサーははける。
また、曲前の場面
光太郎:
ちょっと伺いますが、七福神の皆さん、
この人生ゲームで、本当に日本の未来が決まるんですか。
エビ天:
うーん、サイコロでねぇ(と嬉しそうに言う)
えりこ:
わたしも、誰かが、どこかで、
適当なことやって決めてるんじゃないかと、
ずーっと、疑ってたけど、本当だったのね。
弁財天:
言い訳をするつもりじゃないけど、
どの国の未来も、それぞれの国の神様が、サイコロを振ってきめてるの。
光太郎:
どの国も、だって?!
大黒天:
それは、本当じゃよ。アメリカも北朝鮮も……。
えりこ:
あっ(と、1つの升目を見て、読み上げる)
ICBM大陸間弾道弾ミサイル、発射成功! 高度4000キロに達する!
七福神:
えーっ!!(みんな駆け寄って、その升目を注目する)どこ? どこ?
えりこ:
あの……。うそよ。そんな升目がある国もあるのかな、と思っただけ。
七福神:
(口々に)あー、よかった。(といって席に戻る)
光太郎:
恵比寿さん、この升目の仕組みを教えてもらえませんか。
そっちに(下手側をさし)上がり、があるのに、向こうにも上がりがある。
2つも「上がり」があるのは、どういうことですか?
恵比寿:
ああ、どの国にも「上がり」は2つあってな。
1つめの上がり。それは、全ての国民が、三食、充分に食べることができて、
穴のあいてない清潔な服を着ることができて、
雨風のしのげる暖かな家に住むことができるようになったら上がりだ。
えりこ:
なるほど。日本は1つめは上がって、今は次の上がりを目指している、
というわけですね。
光太郎:
でも、2つめの上がりは遠いなあ。
2つめの上がりまで行った国はあるんですか?
恵比寿:
それが、まだ1つもない。
どの先進国も二つ目の「あがり」を目指しているところだ。
光太郎:
さっきから気になってたんですが、
あのたくさんのドアの向こうには何があるんですか?
恵比寿:
そのドアから下界に下りていくことができるのだ。
未来の日本がどんな世界か、見てくることができる
つまり、未来にも、過去にも、このドアから自在に行ける、ということじゃ。
光太郎:
僕が50歳になったころの日本は、どのドアを入ったら見られるんですか。
エビ天:
2050年の日本に、ボクが案内しても、いいですか。
こっちにきてください。
2人とエビ天は1つのドア(上手側、一番端)に入っていく。