
12月17日のなのはな
ウィンターコンサート本番。 この日のために積み上げてきた日々、 1人ひとりのコンサートにかける思いが、 音となり、光となり、色となり、踊りとなり、言葉となり、 ステージを彩りました。 私たちの思いを、お客さんに届けることができました。 コンサートは、大成功でした。 |
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![]() 〈コンサートの開場をたくさんのお客さんが 待っていてくださいました〉 |
「全員が本気になって向かわないと、成功はない」 「プロではない僕たちが、プロ以上のステージを作るには、気持ちしかないんだ」 練習の時のお父さんとお母さんの言葉が、 思い出されました。みんなの“本気”が集まって、 この日のステージはできあがりました。(自分の役割を、精一杯果たしたい。 いまの自分にできる最高のパフォーマンスをしたい) ステージを作り上げたのは、この気持ちです。 良いコンサートにしたい、と求め、祈る思いで、 自分の力を出し切ったのならば、 人の心を動かす表現ができるのだと思いました。 |
誰もがこのステージに欠かすことのできない 大切な存在です。 お互いに引き立て合い、力を合わせて、 みんなで作り上げた、 大切なウィンターコンサートとなりました。本番の朝は、9時にホール入りをして、 バンドの音や、演劇の最終確認をしました。 演劇では、ラストのシーンの練習をしました。 お父さんが見てくれて、立ち位置や、 動くタイミングを変えました。 最後の場面の気持ちにぴったりと合う演出にできました。 |
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昼食のお弁当は、レッスンルームで頂きました。 部屋には、90人近くはいたでしょうか。 音響の水元さん、照明の永禮さん、白井さん。 カメラマンの、中嶌英雄さん。 大竹さんとまみちゃん、 大竹さんのご友人の大野さんと正田さん。そしてなのはなを応援してくださる地域の方や卒業生。 写真やビデオの撮影、喫茶や受付などに、 たくさんの方がボランティアで 手伝いに来てくれました。 地域とのつながり、 そして卒業生やお仕事組さんが作ってくれる 新しい仲間とのつながりが、 こんなにも広がっているのだと感じました。「みんなの心意気を、お客さんに見せましょう。 エイ、エイ、オー!」 お父さんのかけ声で、全員でこぶしを握り、 気持ちをひとつにしました。 舞台袖で開演を待ちながら、私は脚本を一通り読みました。 |
![]() ![]() 〈ロビーでは、手作りグッズや、みんなで作った農作物、 喫茶コーナーで、お客さんをお迎えしました〉 ![]() ![]() ![]() |
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午後1時。 開演のブザーがなり、客席の明かりが落ちます。 幕の前に当たるスポットライト、そこに1人の男が立ちます。 私が今回演じた、光太郎です。『He does not play dice(神は、サイコロを振らない)』 アインシュタインの名言から、光太郎の口上がはじまります。 今回の音楽劇は、 光太郎の若い頃の体験談が、物語となっています。「私は、若い頃、神様がサイコロを振る場面を見てしまったんです―― 神は、サイコロを振る!」 |
幕が上がり、1曲目の『エクスタシー・オブ・ゴールド』、 ビッグバンドでの演奏です。 広がる荒野の景色。 人が本来持つべきモラル、誇り、正義を強く求め、 走り出します。 ここからはじまる物語の緊迫感が、曲とともに迫ってきます。高校生の光太郎は、未来の日本へと迷い込みます。 そこでは、日本人はたったの75人になり、 絶滅危惧種になっています。夢か現実かわからない未来の日本で、 光太郎は高校生の女の子、えりこと出会います。 2人は、未来人から日本人の卵を預り、持ち帰ります。 |
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今年のテーマは、『少子化』です。 結婚して子供を産む人の数が少なくなり、 人口が激減していく日本。 日本人が絶滅し、日本が滅びていくのを防ぐために、 どうしたらいいのか。そのことを、本気で考え、答えを探していくのが、 えりこと光太郎です。えりこと光太郎は、私たち自身です。 豊かになる競争、自分だけが得をする競争、 いつも自分の能力をはかられ、比べられ、 どんんどんと追い詰められていく世の中の仕組み。 豊かと言われる日本の中にいて、 本当に安心できる 幸せを感じたことはありません。 |
私は、この脚本を作る中で、少子化の問題と、 自分の苦しさの根っこは、同じなのだと気付きました。(日本の未来のために、 自分たちになにができるだろうか?)そんな思いを持ったえりこと光太郎。 2人に、日本の運命を託そうとしたのが、 七福神の面々です。 日本未来は、 |
![]() 〈2曲目『バッド・ライアー』のダンス〉 |
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『ザ・キュアー』のフレーズにのせて、七福神が登場します。 少子化という難しいテーマの物語の潤滑油となるのが、 この七福神です。 7人の神様たちは、 良いも悪いもすべて俯瞰したところにいて、 楽観的な考え方や、懐の大きさがあります。また、セリフが少ない中で、 シンクロさせた動きや、表情や視線の変化で、半ば神様で、半ば人間のような七福神の独特の世界を作り出します。 この7人の存在が、深刻な問題を、軽やかに 観る人の心に届けてくれます。 |
そして、この七福神になぜか加わっているのが、“エビ天”。 物語の、もうひとつの軸となるのが、エビ天の存在です。 エビ天は、どこからやってきたのか? エビ天は、 なぜ日本が滅ぶことを喜ぶようなことを言うのか?光太郎と、えりこの物語と並行して、 エビ天の物語が進んでいきます。 |
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私は、光太郎を演じていて、 お客さんが一緒に七福神の世界に入り、 そして、色々な場所を旅しているように感じました。 七福神の見せる数字の神業の場面では、 お客さんの驚きと、光太郎とえりこの驚きが重なりました。 |
2050年の日本で出会った老人の台詞回しに、笑いが起きました。 そして、老人のセリフにある哀しみが、伝わりました。劇と曲が、ひとつの流れをつくるように、展開していきます。 曲ごとに起こる大きな拍手。 劇のシーンで起こる笑い声。 台詞のひとつひとつが、お客さんの心にしみこんでいくような静けさ。 ![]() ![]() |
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楽しい気持ちも、緊張感も、驚きも、哀しみも、希望も、 私たちが表現する思いが、お客さんに確かに届き、 ホールが一体となりました。 |
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えりこや光太郎、エビ天の気持ちになって、 台詞を受け止めてくれることが、嬉しかったです。 本番の前にお母さんが、 「自分を離れて、仲間のためにステージに立とう」 と話してくれました。 私は、会場にいる全ての人が、仲間なのだと思いました。今日、勝央文化ホールにいた全員にとって、 このウィンターコンサートの日が心の中にいつまでも輝く 宝物になるように、私は最後まで全力で表現したいと 思いました。 |
物語は、少子化で日本が立ち行かなくなってしまった、 2200年を見に行った所で、前半が終わります。 日本は、ニュージャポニカ州という、 アメリカの51番目の州に なってしまったのです。「手遅れにしてはいけないだろう。 日本人として、日本の国を守ろうよ」 悲しい未来を見てもなお、決して諦めずに 向かっていく強い気持ちを持つ、えりこと光太郎。 2人の気持ちと、お客さんを応援し、鼓舞する曲、 『ファイト・ソング』で前半の幕はおります。 |
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![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 〈『ザ・ミラクル』では、透明の水がカラフルな色に変わるミラクルに、 大きな拍手が起こりました〉 |
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ドラムアンサンブル『イエロー・ストーン』で後半が開幕です。 えりこ、光太郎、エビ天の3人は、 七福神の双六ゲームの世界から、 古代ローマ帝国へつながるドアを入っていきます。2000年以上も前の時代で見たのは、 いまの日本とそっくりな世界。 格闘競技に戦車競技、 豊かなローマの繁栄を象徴するショーが、 『ワカワカ』の曲に乗せて、華やか繰り広げられます。 しかし、豊かさを謳歌しているように見えて、 あるのは心の貧しさ。 誰も幸せを感じられず、誰も結婚しなくなり、 やがては少子化で滅んでいった、ローマ帝国。 |
経済発展を遂げ、長寿の国となり、 双六ゲームの1回目のあがりをした日本。 つぎに目指すのは、人々の心が満ち足りて、 しみじみとした幸せを感じられるようになる、 という2回目のあがりです。えりこと光太郎は、七福神に案内されて、 上がりに近い国を見に行くことになります。 そこは、未来の、日本でした。 光太郎とえりこが協力して、 少子化を解決するための仕組みを開発し、 ノーベル平和賞を受賞していたのでした。光太郎は、そのことを知り、 自分で考え、升目を作り、サイコロを振っていこう、 えりこと一緒に世の中を変えるために生きていこうと、 心を決めます。 |
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私は、このシーンを演じることができて、とても 嬉しかったです。 ハートピー、そしてなのはなファミリーをつくって 道を切り開いてきたお父さんお母さんの2人が、 光太郎とえりこに重なりました。 私は、お父さんお母さんのように、光太郎のように、 生きる意味を見失ってしまう人がでない世の中を作るために 生きていくのだとはっきりと思いました。 |
![]() ![]() 〈光太郎とえりこが一緒に力を合わせていくことを 誓ったシーンの後に演奏した『トゥー・マッチ・ラブ・ウィル・キル・ユー』〉 |
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そして、ひどい升目ばかり書き、日本を滅ぼそうとしていた エビ天もまた、心の傷を癒やして、前に進んでいきます。 エビ天は、不良品のサイコロ卵として生まれ、 処分されかけたところを、 えりこと光太郎に助けられます。エビ天の深い悲しみ、絶望、そしてなにもかも壊して、 自分が生まれないようにしたかったと思う気持ちは、 生きていきたくないと思った 私たちの心の痛みそのものです。 |
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エビ天の痛みや切なさが、 なのはなのオリジナル曲の2曲、 『シーズ』と『ルナ』にのせられて、会場に届きました。 あゆちゃんの歌声を舞台袖で聞いていると、 この痛みを知っているからこそ、 私はそれを必ず力に変えていく、と私は思いました。エビ天は、えりこと光太郎と出会い、 七福神の仲間に加えてもらい、 自分を大切に思ってくれる人がいるのだと思えました。 自分は、要らない子ではなかった、 そうわかったとき、エビ天の心に、 エビ天本来の心が戻ってきます。 |
力を合わせて頑張っていこうと思った矢先の 恵比寿天の言葉に、 3人は愕然とします。「七福神の世界に残って サイコロを振ることができるのは、 たった1人だけ」3人で残ることは、できないのです。 新しい未来を作るためには、えりこ、光太郎、エビ天の 中からたった1人、 誰かがここに残らなくてはなりません。 3人の前に現れたのは、天神様。 |
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![]() 〈フラダンス曲の『テレへ』〉 |
自分の心の中に神様を持って、 ひとりを慎み、神様に恥ずかしくない 行動をとること。自分の中に神様を持ったのならば、 いつでも自分の欲得ではなく、 人のために 生きることができるのだと私は思いました。 なのはなにとって大切なこの思いを、 コンサートを通じて伝えられたことを嬉しく思いました。そして天神様は、エビ天さんに、 サイコロを振るように、と言います。 エビ天は、これまで固い殻でおおっていた心を 「もうマイナスなことは、絶対に書かない。 |
過去へ、未来へと、えりこと光太郎と一緒に旅した時間。 エビ天のことを本気で怒り、心配してくれた2人。 2人と、一緒に頑張っていく仲間となれたこと。 そして、あたたかく見守ってくれた恵比寿天さん。 エビ天は、それでもう十分だ、と思います。この物語の、えりこも、光太郎も、エビ天も、 みんな私たち自身なのです。 いつ死んでもいい、自分は、要らない子だという気持ちを 抱いて生きてきました。 私たちは、なのはなで自分の存在を肯定してもらいました。 生まれない方がよかった子ではない。 世の中から捨てられた子ではない。 そう思えたとき、役割を果たして生きていこうと思えました。 |
![]() 〈ギター・デュオの『テンション』」〉 |
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「産まれてきて、よかった」 「僕には、いま、大きな目標ができたんだ」 誰もが幸せを感じ、明るい希望を持つことができる、 そんな未来を作るために、私たちは生きていく――。 大きな目標を心に掲げて、 新しい1歩を踏み出していく覚悟。エビ天さんの台詞が、私たちに思いとなって、 コンサートのラストの曲、 『アイ・サレンダー』へとつながります。 |
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3時間を超えるステージの幕が下りる間、 お客さんの大きな拍手が、ずっと届いていました。シーンをより印象的に彩る照明。 役者やダンサーをくっきりと浮かび上がらせる、 スポットライト。七福神の住む場所であり、 ローマ帝国である、クリーム色の神殿。 赤、白、金が基調となった、衣装。 卒業生ののんちゃんが振り付けをしてくれた、 みんなで練習を重ねたダンス。 お父さんの脚本で、作り上げた演劇。 |
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いくつものピースが集まり、 いくつもの思いが集まり、 なのはなのウィンターコンサートは、 舞台に花開きました。「今までで1番良かったです」 「ダンスが最高でした」 「ストーリーがとても面白かった」 帰り際に、お客さんがたくさん声をかけてくれました。私は、今のなのはなのメンバーだからできる、 今のなのはなのメンバーでしかできない、 最高のコンサートをみんなと作り上げることが できたのだと思いました。 お父さんお母さん、支えてくれたたくさんの方、 (なお) |
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